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第3話 Side レア 伝説の魔女

 あたくしを抱えていた騎士はあたくしを下ろすと、すぐさま振り返り、横にいる二人の騎士とともに楯を両手に持ち替えて構えた。


「レア様はお逃げください!」


 先ほどの騎士があたくしに向かって声をあげる。


「「―神聖魔法(ホーリースペル)神を守護せし善なる楯(ホーリーシールド)―!」」


 騎士たちが魔法を唱えると、ジークのとき同様、楯に魔法が展開されていく。しかしジークに比べ、騎士たちの魔力が低いのかその大きさは一回りほど小さい。

 バジリスクは先ほどに逸れた軌道を修正し、こちらへと迫ってくる。


 ダメだ。騎士たちだけではバジリスクは止められない。

 あたくしは腰の剣を抜き放ち魔力を高めていく。

 しかしもうバジリスクが騎士たちの守りを弾き飛ばさんとする勢いで目前まで迫っていた。


「―古代語魔法(ハイエンシェント)突き穿つ地母神の慟哭(アースグレイヴ)―!」


 あたくしは騎士たちとバジリスクとの接触の瞬間に狙いを定め、呪文を唱えた。

 魔法の発動と共にあたくしの身体から魔力が抜け出ていくのを感じる。魔力を使った感じは、あの日によく似ていると言われている。魔力の消費は肉体に影響があるわけではなく、精神に影響してくるからだ。

 それゆえに慣れていないものはその変化にふりまわされることが多々ある。だから魔力の消費量の調整、いわゆる魔法のコントロールは女性の方が上手いというのが通説となっている。

 魔法は魔力の消費量の分だけこの世界に発現する。ゆえに先ほど私が発動した―突き穿つ地母神の慟哭(アースグレイヴ)―は、魔力という力を得て、地面が割り、人の大きさほどの鋭く尖った無数の岩の刃となってこの場に発現する。狙いはバジリスクの顎だ。

 しかし、岩の刃はバジリスクの硬い皮膚に遮られ砕け散っていく。

 だけどこれは当然予測済み。


「まだよ!」


 魔力を込め続けることで地面の隆起がさらに続いてく。身体からはどんどん魔力が失われていき、急激な疲労感が襲ってくる。しかしいくら魔力を込めたところで隆起した岩はバジリスクの硬い皮膚を貫くことはできない。

 だが、その力が加わることで騎士たちとバジリスクの力が拮抗させた。


 バジリスクとの間に硬直状態が続く。


「ぐっ!」


 しかし次第に騎士たちが口から苦悶の声が漏れはじめる。


 次の瞬間バジリスクの首が大きく振り回され、破砕音をあげて岩の刃が砕け散った。その威力は岩を破壊するだけにはとどまらず、盾で防いでいた3人の騎士たちを大きく弾き飛ばす。

 これであたくしの身を守るのはクリフのかけた―兇刃を退けし魔法の衣(マス・プロテクション)―と白銀で作られた軽装の鎧だけとなった。バジリスクは騎士たちに向かっていったのと同じように、あたくしに向かって迫ってくる。


 あたくしは来たるべき衝撃に備えて身構えた。


「レア様!」


 ジークたちが駆けつけてくれているようだが、間に合いそうにない。


 あたくしはバジリスクの突撃を耐えることができるのだろうか。もしかしてこんなところで死んでしまうのだろうか。

 こんな死ぬかもしれない状況の中でも、慌てもせずにそんなことを考えているなんて割と余裕があるものなんだなと思った。いや、そもそも死ぬ間際なんてみんなそんなものなのかもしれない。

 しかし、あたくしの予想は大きく裏切られることとなる。

 バジリスクがまさに目前まで迫ってきたところで突然世界が銀色に染まった。


 いや、正確には銀ではない。ほんのわずかに金色が混ざったプラチナのように艶のある色。


 その美しくも優しい色にこのときのあたくしは目を奪われてしまっていた。


「逃げるな」


 その声であたくしは我に返る。

 気付けば目の前で見知らぬ人が剣を振りかぶっていた。

 その人は全身をしならせ、自分の身体より大きい剣をバジリスクの顔面にむかって振り抜く。

 激しい衝撃とともに両者が後ろへと後退した。

 信じられない話だけど、あたくしたちが今まで何をしても止まらなかったバジリスクをいきなり現れた剣士がたったの一振りで後退させたのだ。

 しかし、剣の切れ味が悪いのかバジリスクの皮膚が硬いのか、バジリスクの顔に切り傷は入っているようには見えなかった。

 そして剣士が後退したことであたくしはようやくその姿を確認することができた。


 なんとあたくしの窮地を救ってくれたのはまだ十代であろう僅かに幼さの残る少女だったのだ。


 女にしては少し高いだろう背丈。そしてその瞳はサファイアのように青く、プラチナブロンドの艶のある長い髪を風になびかせる姿は、とても幻想的でまるで神話の世界にでも入り込んでしまったかのようだ。

 軽装の革鎧に身を包んだ女性特有のしなやかな身体とは対照的に、刃渡り2メートル、幅30センチもあろうかという大の大人でも持ち上げることすら困難であろうことが予想される巨大な片刃の剣を、木の枝でも持っているかのように軽々と持ち上げ構えている。


 しかも胸が・・・ムネが・・・。


「ん、恨んでもいいよ」


 少女がそう呟き、剣を上段に構えると、急速に魔力が高まっていくの感じた。


 あまりの魔力に息を呑む。


 これじゃあ、まるで・・・


 あたくしを含め騎士たちの視線が凄まじい魔力を放つ少女へと釘付けになる。


 露出した肌にはいつの間にか蛇が這うような紅い紋様が無数に浮かび上がり、青く澄んだ瞳はルビーのような真紅の輝きを放っていた。


「伝説の、魔女・・・」


 巨大な大剣が紅い光を帯び始める。


「キュオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 バジリスクが悲鳴を上げ、身をよじった。


「ハァァああああああぁぁぁッッ!!!!」


 少女がバジリスクに向かって大きく踏み込み、大剣を一気に袈裟懸けに振り抜いくと、高まっていた魔力が紅い光の刃となって剣から放たれる。

 バジリスクは必死になって避けようとするが、その巨体では矢より速く迫るそれを避けきれるはずもなく、魔法の刃が皮膚に食い込んでいく。

 次の瞬間ズバンッという音を立て、魔法の刃はバジリスクの身体をすり抜け、背後へと消えていった。そして同時にバジリスクは支えを失ったかのように崩れ落ち、動かなくなった。


 真っ二つとなって。


「これが、竜殺し・・・」


 気付くとあたくしは、まるで幼い頃母上から聞いた物語の中に足を踏み入れたような感覚に包まれ、激しく胸が高鳴っていた。



 この日あたくしは伝説と出逢った。

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