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転生魔女のヤンデレ英雄譚  作者: ネクロノミ娘
第3章 学園生活
22/25

第22話 Side カーミラ 害意

 そこでまた別の一番前の席に座っていた男の子が立ち上がった。


「俺からも質問だ」

「あなたは確か兄上の・・・・・・、何かしら?」

「そこの平民の頭にあるのはまさかレア王女の王家の信頼(シンボル)・・・ではないだろうな」


 男は私の頭を指差して言う。


「見ての通り、本物の王家の信頼(シンボル)よ」

「はっ!まさか王女ともあろうお方がただの平民などに王家の信頼(シンボル)下賜かしするとは、軽率が過ぎますね」

「何か問題でもあるのかしら?」

「それすらも分からないとは!王家の信頼(シンボル)とはただの飾りではないのですよ。それをどこの馬の骨とも知れない平民が持っているようでは、同じく王家の信頼(シンボル)を下賜された我々の名誉が軽んじられることになる」

「あなたこそ分かっていませんわ。王家の信頼(シンボル)とは信頼の証であってその身分を示すものではないの。だから王家の信頼(シンボル)を下賜されたものに求められるのは身分でも名誉でもないわ。主となる王族の信頼に応えられるかどうかというただ1点だけよ」

「分かっていないのはあなたの方だ!平民とは上に立つだけの能力がないから平民なのだ。そのような者が他の貴族たちを差し置いて王家の信頼(シンボル)を下賜されるなど貴族を蔑ろにしているとしか思えない!」


 男の怒声が教室に響く。教室中の人が二人に目が釘付けになっている中、レアだけが笑顔を見せている。でもその笑顔も私たちに向けるようなものじゃなくて、何と言うか・・・・・・怒りながら笑っているように見える。


「ふふっ、面白いことをいうのね、あなた。貴族とは過去の偉人たちの努力の結果であって、あなたの功績じゃないのよ?そしてその家が繁栄するか没落するか、平民が貴族へと上がってくるか来ないかは、過去の偉人たちが決めることでも、あなたたちの身分で決まることでもないの」

「王女は危険な思想の持ち主のようだな」

「あなたのような選民思想の持ち主からすればそうかもしれないわね」

「つまりあなたは我々貴族がそこの下賎な平民に劣っていると言いたいわけだ」

「下賎・・・ね。自分の有能さを示したければ、身分に頼らず実績で示せばいいだけの話よ。あなたがどうやって兄上に取り立てられたのかは知らないけれど」

「ふん、俺は名門アイゼンハート家の出自で、騎士クラスの総合成績は1位だ。ランベルト王子殿下から王家の信頼(シンボル)を下賜されるだけの理由はある。それに比べてそのただの平民は何の実績があるというのだ」

「カーミラは暴獣(タイラント)バジリスクから見ず知らずのあたくしを守ってくれたわ。その上そのまま一人でバジリスクを討伐。あら・・・、ふふっ、そういえばさっきの口ぶりからすれば騎士クラス1位のあなたはカーミラよりも優秀だったのかしら?ならば、今度国内で暴獣(タイラント)が確認されたらあなた一人で狩ってきてもらえるように取り計らいましょうか」

「くくくっ、ははははははっ!一人で暴獣(タイラント)を倒すなどとレア王女は妄想癖でもおありか!嘘をつかれるにしても、もう少し現実的な話も思い浮かばないと言うのか!」

「そう、あなたに“平民の”カーミラと同じだけの働きを求めるというのも酷な話だったようね。忘れて頂戴」

「まだ言うか!もしそれが真実ならば、この程度の児戯など軽く防げよう!」


 そう言って男が自らの胸元からナイフを取り出した。その指に挟んだナイフの数は3本。それがレアに向かって投げつけられる。かなりの至近距離だった。その男の動きが私にはまるでスローモーションのように目に映っていた。男が素早く腕を振るたびにナイフが手から放たれる。

 全身の毛が逆立つ。

 私は反射的にレアと男の間に割り込み、飛んで来るナイフを順番に指で掴み取った。

 一本、二本、三本。

 頭が追いつかない。今一体何が起こった?

 この男・・・・・・レアを・・・・・・殺そうとした?

 頭が真っ白になる。

 これまで生きてきてレアに出会うまで、私たちに手を差し伸べてくれる人は誰もいなかった。

当時の私は誰にも助けてもらえないままルミアに何もしてやれないまま終わりを迎え、そして私もすぐにルミアの後を追うだろう考えていた。

しかし、私たちに希望・・・というものを与えてくれる人物が現れた。


 それがレアだ。


 レアは私たちに諦めるなと言う。

 諦めなければ助かる方法が見つかるかもしれない。そしてそれにレアも協力してくれると。

 そんなことを言われたのは初めてだった。村の人たちはできるだけ私たちに近づかないようにしていたし、うたげ亭の主人も仕事はくれるが、それだけだった。

 目の前の男はそんなレアを殺そうとした。

 頭の悪い私でも分かることがある。もしレアが死んでしまったら、もうルミアを助けてくれようという人はいないということ。レアだけがルミアを助けられるかもしれないということ。

 もちろん、レアでもルミアを本当に助けられるかどうかは分からない。それでも、レアがルミアを助けてくれようとしていることは分かる。

 そのレアを殺すということはルミアも殺すということだ。

 この・・・男が・・・。

 無意識のうちに全身から殺気が溢れ出る。

 気が付けば男の首を掴み、片手で掴んで持ち上げていた。このまま首をへし折ることは簡単だ。でもそれだと魔法で助かるかもしれない。


―――――― もっと、確実に、この男を、殺してしまわないと ――――――


 私は男を掴んでいない方の手、左手にチカラを・・・


「やめなさい!」


 レアの声をあげて私を止めにかかる。どうして止めるの?


「でもッ!こいつはッ!ルミア(レア)をころ、殺そうとしたッ!」


 首を掴んでいる腕にさらに力が加わる。

 そう、こいつはレアを・・・ルミアを・・・殺そうと・・・したんだッ。こんな奴、許せるはずが・・・ッ。


「それでも!あたくしの騎士ならばあたくしの言うことを信じなさいッ!」


 その言葉を聞いてはっと正気に返った。私は・・・何をしてるの?レアの言葉に背いて・・・。

 敵を殺したらいけないときはレアが教えてくれるってジークも言ってたのに・・・。


「イエス・・・マイロード」


 怒りを抑えていたせいか少し声が震えた。この言葉はレアに対して「分かりました」っていう意味になるらしい。この言葉を憶えるためにルミアと一緒に数え切れないほど練習していたことを思い出し、少し冷静になる。何でもこの返事はえんしゅつらしい。


「はなしていいわ」


 レアに言われた通り、掴んでいた男の首を放すと、男は崩れ落ちて激しく咳き込んだ。

 この男は殺してはいけなかったんだ。


「かはっ、ごほっ、ぐ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・」

「よかったですわね。家と兄上の後ろ盾のおかげで命を失わずに済んで」

「はぁ・・・、はぁ・・・・・・、ふざッ、ふざけるな!平民が貴族に手をあげていいとでも思っているのか!」

「あなたね、貴族であろうと王族に手を出せば一族郎党皆殺しよ?」

「ハッ!俺は王女の虚言壁を正そうとしてやっただけだ!」

「それで。嘘か本当か分かったのかしら?」

「不意打ちで襲ってきた分際でいい気になるなよ!」

「それはあなたでしょうに」

「うるさい!お前たち・・・・・・絶対に許さないからな!」


 そういって男は教室から走り去って行った。


「バロック先生」

「すまんな」

「いいえ、この程度のことは想定の範囲内よ。カーミラがあそこまで怒りをあらわにしたのは予想外だったけれど。そんなことより彼は本当に騎士クラス1位なの?」

「そうだ」

「そう・・・」


 レアが気を落としたような声で返事をする。


「そう気を落とすな。まだ生徒たちは入学したばかりだ。3年間で使い物になるようにしてやる」

「期待していますわ」

「思った通り、楽しい学園生活になりそうね」


 レアがにっこり笑っている。命を狙われたばかりだというのに何でこんなに嬉しそうなんだろう?

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