第21話 Side カーミラ 初登校
「さぁ、準備はいいわね」
レアに言われて私は自分の姿を確認する。
制服は着てる。髪飾りも着けてる。鞄も持ってる。準備は万端だ。
「お姉さま、着替えは?」
「持ってる・・・けど、どうしよう」
「騎士クラスの授業は当然他のクラスに比べて隊装服に着替える機会が多いから、着替えの問題はどうにかしないとね」
「たいそうふく?」
「隊装服隊装服っていうのは兵科訓練のときに着る動きやすさと防御力を重視した服のことよ。つまりさっきルミアちゃん言ってた制服とは別の着替えになるわね」
たいそうふくっていうんだ。確かにルミアに言われて鞄の中に入れておいたけど・・・、着替えはどうしよう。
昨日何回も一人で着替える練習をしたけど、結局一人で着替えられるようにはならなかった。
「さすがにあたくしが手伝うっていうわけにもいかないものね。確か騎士クラスにも一人だけ女の子がいたと思うから、いざとなったら手伝ってもらいましょう」
女の子は一人しかいないんだ・・・。ん、でも私とレアが入るから・・・3人?になるのかな。リセでは友達できなかったけど仲良くなれるといいな。
「さぁ、それじゃあ出発しましょう」
「ん」
「もう、お姉さまったら・・・」
ルミアといつもの挨拶を交わす。
「あなたたち・・・毎日それするのね・・・・・・」
レアが私たちの方をじっと見ている。もしかしてレアもしたいんだろうか?
「レアもする?」
「い、いいわよ!」
レアの顔が赤くなった気がしたが、すぐに振り返ってしまい顔が見えなくなってしまった。
そして少し慌てたように私たちを急かす。
「い、急ぎましょう。初日だから余裕を持っていかないと」
それから私たち三人は先生たちが待機しているという教員室というところへと向かった。
私たちの住んでいる寮を出ると、まわりには他の学生が住んでいるという寮の建物がいくつも建っていて、私たちと同じように学園に向かっている学生をちらほら見かける。
そしてそこを抜けると広場があり、草や花も生えていたりもする。その広場を抜けるとすぐに学園があるため、ルミアの身体でも学園に通うのは大丈夫という話だ。
それから私たちは学院の一階にあるという教員室へとたどり着き、クラスが違うということでルミアとは別れた。
ルミアは学園で楽しくやっていけるだろうか。心配で堪らない。もしルミアを苛めるような人がいたら・・・。そんな不安を気を取られていると突然近くで声が聞こえた。
「入学おめでとう。これから約1年お前の入るクラスの担任となるバロック=シュタインだ」
気がつくと目の前にバロック先生がいた。
そういえば、私たちは職員室に来ていたんだった。どうやら、これから一年間この先生のお世話になるらしい。
「よろしく、お願いします」
「あたくしもよろしくお願いしますわ」
私とレアは挨拶するが、先生は少し驚いたような顔をした気がする。気がする・・・というのもこの先生の顔はちょっと怖くて、険しい表情からほとんど変化がないからだ。
「・・・王女も授業を受けられるのか?」
「ええ、それに将来騎士になるものたちの励みぶりを見ておくというのもいい経験になると思うの。問題ないわよね?」
「執政クラスの生徒がどの授業を受けようと問題はない。それでは二人とも、ついてきなさい」
「「はい」」
私たちはバロック先生の後ろについて教室を出た。
何でも私たち騎士クラス1年生の教室は2階にあるらしい。階段を上がって廊下の端にある教室まで来たところでバロック先生が足を止めた。
「ここが今日から通うことになる騎士クラス1年の教室だ。既に他の生徒たちは席に付いている。付いてきなさい」
そういって先生は教室の扉を開け中へと入っていった。続いて私も中へと入る。
部屋に入るときなんかはレアよりも私の方が先に入るように入るようにして欲しいってジークからも言われている。何でも部屋に入るときはむぼうびになりやすくて、狙われやすいらしいかららしい。
そして私の後ろからレアが入ってくる。
教室に入ると机がたくさん並んでおり、私と同じくらいの年頃の男の子たちがたくさん座っていた。
男の子たちは私たちが入ると少しざわめき始め、みんなこっちの方を見てきた。しかし、そんなざわつきも私たちを目にするとまるで息を飲みこんだようにみんな黙り込んでしまった。
な、何かおかしなところでもあったのかな・・・。
私はとりあえず言われたとおりみんなの前に立っているバロック先生の隣まで歩いき、先生と同じようにみんなの方を向いた。
「既に知っている者もいるだろうが、執行クラスから騎士クラスの授業を受けに来たレア・セイレ・ローズマリア王女とこれから同じクラスの仲間となるカーミラだ」
「これから皆さんと同じ授業を受けるレア・セイレ・ローズマリアよ。王女だけどあまり畏まった態度を取る必要はないわ。よろしくね」
そういってレアはにっこりと笑う。なんというかレアのしぐさは全体的に大人っぽく見える。私にはとてもまねできそうにない。続いてみんなの視線が私に移ってくる。
次は私が自己紹介・・・すればいいのかな。
「カーミラ、です」
他にも何か言ったほうがいいのかな?でも、何を言えばいいのか全然思い浮かばない・・・。
「それでは二人とも、空いている席につけ」
「ちょ、ちょっとまってください、バロックティーチャー。もう少し何か紹介があってもいいんじゃないですか?」
突然一人の生徒が立ち上がって声をあげる。やっぱり私の紹介がダメだったのかな。
「そんなもの後ですればいいだろう」
「しかしですね。ここである程度まとめてしておいた方がみんな何度も同じことを尋ねなくてよくなるのではないでしょうか」
「・・・・・・まぁいいだろう。お前たちもそれでいいか?」
「ん」
やっぱり私の紹介が悪かったんだ。いきなりちょっと落ち込む。
「それでは何か知りたいことがあれば質問形式でお願いしますわ」
「はい!はい!」
さっきの男の子が手を上げる。
「そちらのレディカーミラの家名なんですか?」
「かめい?」
かめいって何だろう
「カーミラに家名はありませんわ」
レアが変わりに答えてくれる。どうやら私にはかめいがないらしい。
「それはレディカーミラが貴族ではないと?」
「そうよ。何か問題ある?」
「もちろんノープロブレムです。私たちの中にそんなことを気にする仲間はいない・・・ですよね?」
「何が仲間だ、馬鹿馬鹿しい」
別の人が座ったまま声をあげる。
「気にしないで下さい。デュークはツンデレですから」
つんでれって何だろう。
「誰がツンデレだ。それより俺も質問がある」
「何かしら?」
「お前がリセの竜殺しというのは本当か?」
デュークと呼ばれた男が私を指して聞いてくる。
「本当よ」
「王女には聞いていない。どうなんだ?」
レアも同じようなことを言ってたけど、多分、私・・・のことだよね?
「竜は、殺したことない」
「竜は、か。だったら何を殺した?」
「魔物・・・」
「馬鹿にしているのか。魔物の何を殺したことがあるかって聞いているんだ」
「デューク、レディにはもっと優しく接しないと。それに質問の仕方が悪い」
「・・・・・・今まで殺した中で一番強かった魔物は何だ」
今までで一番強かった魔物・・・そんなこと考えたこともなかった。うーん・・・・・・大きな犬の魔物は大変だったような気がする。動きが素早くって口から火を吹いていたっけ。名前は・・・。
「えっと、確か・・・・・・がれむ?がるむ?」
「ガルムか!暴獣じゃないか!」
デュークは声を荒げて立ち上がる。な、何かダメだったのかな。
「デュークテンション上がりすぎです。ちょっと落ち着きなさい」
「む、むぅ」
「デュークはモンハンオタクですから」
「オタク言うな」
「モンハンオタクって何かしら?」
「モンスターハントオタクの略です。つまりレディたちの心をハントするよりも魔物をハントする好きっていう物好きのことですよ」
つまりこの人は、ルミアとお話したりするより魔物を狩る仕事をしてる方が好きってことかな。・・・・・・変な人。
「年中女の尻ばかり追いかけているお前に言われたくない。俺の質問はこれで終わりだ。また今度魔物を狩ったときの話を聞かせて欲しい」
「ん」
私は頷いた。ちょっと怖くて変な人だけど悪い人じゃないような気がする。
「デューク、抜け駆けはいけませんよ。そのときは私がお茶を用意してレディたちにおくつろぎいただきましょう」
「勝手にしろ」
そう言ってデュークは席に付いて腕を組んだ。




