第20話 Side カーミラ 王家の信頼(シンボル)
「ごう・・・かく?」
次の日学園の事務員さんから信じられない言葉が告げられた。
「カーミラ、ルミアの両名はそれぞれ騎士クラス、医学クラスへの入学が受理されました」
「二人ともおめでとう!」
レアが嬉しそうに私たちに腕をまわして抱きつく。私は目の前の人から告げられる言葉を理解しようとするのに精一杯でなすがままにされていた。
「お二人の入学金・授業料・そして必要な書類はお二人の後見人である王女様からすでに提出済みですので、明日から通っていただいて問題はありません。また、必要なことはこちらの学園マニュアルに全て書いてあります」
そう言って事務員さんは分厚い本を私たちに手渡した。・・・・・・鈍器?
「それではよい学園生活を」
それだけ言い残し、事務員さんはさっさと立ち去ってしまった。
「お姉さま、おめでとうございます」
ルミアがレアの抱擁を受けたまま笑顔を向けてくれた。
「ルミアもおめでとう」
そういって私もルミアを抱き締めた。でも、分からない。どうして合格できたんだろう?
「何で自分が合格したのか分からないって顔をしているわね」
レアがまるで私の心を見透かしたように言う。私は目を丸くして頷いた。
「この学園の試験っていうのはね、合計点で合否、つまり合格不合格が決まるわけではないの。試験の点数はあくまで判断材料。それらの数値を参考にしてそのクラスに相応しいかどうかが決まるの。だからカーミラの場合筆記が0点でも、実技で優秀な成績を収めたから騎士クラスとして相応しい・・・立派な騎士になる可能性を秘めた生徒と判断されたわけ。噂では今年の新入生の中にはカーミラと逆のパターンの人間もいるって話よ」
「私と逆?」
「そう、実技が全くダメで筆記試験、特に戦術試験で満点を上回る解答をした者がいたらしいわ。まぁ騎士にも強い人、頭のいい人、何でもそつなくこなす人、色んな人が必要ということなのよ」
私と逆の人か・・・どんな人なんだろう。
合格が決まってほっとしたせいか、まだ見ぬクラスメイトのことを想像するとわくわくしてくる。
「とは言え当然だけど入学よりも、進学、卒業の方が難しいわ。これからは一緒に頑張りましょう」
「ん(はい)」
私とルミアは声を合わせて返事をした。あれ、そういえば
「ルミアのいがくクラスって何?」
ルミアも学園の入学試験を受けることは聞いていたが、クラスまでは聞いたことがなかった。
「医学クラスっていうのはお医者様になるための勉強をするクラスなの」
「そうなのよ!医学クラスなんて学園の中でもかなり難関のクラスなのにルミアちゃんったらあっさり受かっちゃうんだもの!」
「お医者様・・・すごい!」
「えへへ、自分の病気のことを知りたかったっていうのもあるんだけど、お姉さまが怪我をしても治してあげられるようになりたかったの」
ルミアが照れるように笑みを浮かべながら言う。なんて姉想いのいい子なんだろう。
「ところでレア様は何クラスなんですか?」
「あたくし?あたくしは施政クラスよ。法や経済、大衆の心理なんてものまで幅広く学ぶことになっているわ」
「さすが王女様、すごい・・・」
ルミアが感嘆の声をあげる。よく分からないけどしっせいクラスというのはとにかくすごいらしい。
「とはいえ卒業まで必要な単位はもう全て揃っているのよね」
「ぇ・・・・・・えっ!?レア様まだ入学して2ヶ月ですよね?!」
「そうよ。でも執政クラスにいる人の中には自分のクラスの勉強だけでは全然足りないって人結構いるのよ。それにクラスの人数もそれほど多いわけじゃないから好きなタイミングで試験を受けることができるの。あたくしはもう入学前からその辺りの知識は全て頭に入っていたから入って早々試験を受けて単位を取得したってわけ」
「それじゃあ、何のために学園に?」
「執政クラスの人は自分のクラス以外にも好きな授業に出ることができるの。だからあたくしはこの2ヵ月間魔術師クラスの授業に出ていたわ。3年生のだけどね」
「それで魔法にも詳しかったんですね」
「うふふ、小さい頃はよく母上にせがんで伝説の魔女の話をしてもらったものよ。その頃から魔女に憧れて魔法の勉強を始めたの」
「小さいレアも見てみたかったな」
小さい頃のレアか・・・・・・きっとルミアとはまた違った可愛さがあったんだろうな。
「・・・ゴホン、まぁその話はいいとして、これからは騎士クラスの授業を受けようと思っているわ」
「騎士クラス・・・私と一緒に?」
「そうよ。カーミラはまだ騎士にはなっていないけれど、学園の中ではもうあたくしのことを守って欲しいの」
「ここでもレアは危険なの?」
「大衆の目のあるところであからさまにあたくしの命を狙ってくるようなことはないと思いたいのだけれど、ないとも言い切れないわ。前まではジークたちを連れてたけれど、これからはカーミラがいてくれるしね」
「ん、分かった」
どうすればいいかはジークからも聞いている。
まず第一に敵の攻撃からレアを守る。その上で、できることなら敵を無力化する。
レアの敵はルミアまで狙ってくる可能性があるから容赦する必要はないらしい。でも、敵を全員殺せばいいかって言われるとそうじゃなくて、殺しちゃいけない人も中にはいるらしい。そういうときはレアが教えてくれることになっている。そしてルミアにも守ってくれる人がこっそり付いてるから安心してもいいって言ってた。
「それでね、二人には渡したい物があるの」
渡したい物・・・・・・一体何だろう。
レアは綺麗な細工の入った袋に手を入れ、すっと何かを取り出した。
黒くてガラスのように透き通っていて光沢のあるそれらは花の形をしているように見える。
「黒いバラの・・・髪飾り・・・ですか?」
ルミアが自信なさそうに尋ねる。
そういえば私たちは今までアクセサリーを買ったことがなかった。だからこんなに近くで髪飾りを見たことがない。それが今レアの手の上に二つ乗っている。
「そうよ。バラは国家の象徴。そして黒いバラは今代ではあたくしを象徴する花なの。そして王族には自分を象徴する花を模した水晶の装飾品・王家の信頼を、信頼を置く者に与えるというしきたりがあるの。しかもこれ国家の秘匿技術で作られたものだから偽者かどうかは一目瞭然なのよ」
「あの・・・確かにすっごく綺麗ですけど、普通のガラス細工とは何が違うんですか?」
ルミアの言うとおり黒いバラの花はレアの手の皴まで透かして見えるほど透き通っていて、びっくりするくらい綺麗だ。
「まず第一に、王家の信頼はその全てが水晶で作られているわ。そして第二に・・・私の手を見て何か気付かない?」
レアの手には一つがコブシくらいの大きさの水晶の髪飾りが二つ並んで置かれている。特に変なところは・・・・・・あれ?
「影が・・・・・・ない?」
「あ、ほんとだ!」
「そう、王家の信頼は普通の水晶細工と違ってこんなに黒い色が付いていても見ての通り全く影を作らないの」
「これを、・・・私たちに?」
「そう、簡単に言えばこれはあたくしからの信頼の証、そしてあたくしのお手つきってこと」
「おてつき?」
ルミアの方に目をやると顔が真っ赤に茹で上がっている。一体どういう意味なんだろう?
「あら、ルミアちゃん意外と耳年増なのね」
「あ、う、」
意地悪そうにレアが笑うとルミアはますます縮こまってしまった。
「確かにそういう意味もあるけれど、今回の場合は2人とも私のものだから兄上たちは手を出さないでねっていう意思表示になるのよ」
「お、お姉さまはともかく私なんかにそんなものを渡してしまっていいんですか?」
ルミアは顔を赤くしたままレアに尋ねた。
「もちろんよ。確かにカーミラを独占するためにルミアちゃんを囲い込むっていう意図もないわけじゃないけれど、これでもルミアちゃんには期待してるのよ。それにね、あたくし思うんだけどカーミラとルミアちゃんはお互いに苦手なところを補い合ってるっていうのかな。つまり二人で一人なんじゃないかなって思うのよ」
私とルミアが二人で一人・・・・・・そんな風に思っていてくれたなんてすごく嬉しい。言われてみるとすごくしっくりくる。
「レア・・・」
「なにかしら?」
「・・・ありがとう」
「ふふ、どういたしまして。さぁ二人とも付けてあげるわ」
レアの手が優しく髪を撫でる。それから私たち一人一人の髪に黒いバラの髪飾りを着けてくれた。私は頭の左側、ルミアは頭の右側に、二人で向かい合うとちょうど鏡に映ったみたいに見える。
「一応左右対称のデザインになっているから間違えないようにね」
「ん(はい)」
ルミアの白い髪に黒い髪飾りがよく似合っている。今までは生活するだけでいっぱいいっぱいだったけど、これからはもっとルミアに可愛い服を着せたりできるだろうか。
「ルミア、よく似合ってる」
そう言って私もルミアの髪を手でなでる。
「お姉さまも」
私たちはお互いに見つめ合い、すっかり見惚れてしまっていた。
「・・・・・・あなたたちが褒めあうと自画自賛のように聞こえるわよ」
そうは言っても、私から見たらルミアの顔は自分の顔に見えないし、悶えるほど愛らしいのだから仕方がないと思う。ずっと見てるとチュッチュしたくなってくるのも仕方がないと思う。
3/10「第18話 Side カーミラ 戦技試験」を添削。カーミラに少しだけ病み属性を入れてみました。




