第19話 Side カーミラ 学術試験
「ほら、泣かないの。負けたからって不合格になるわけじゃないんだから」
レアの白い指が私の涙を掬い取る。
そう・・・・・・なの?負けても合格できないわけじゃないの?
「それにしても凄かったわよ。ほんと竜巻みたいにそんなに大きな剣をぶんぶん振り回してるんだもの。それに最後の一撃なんて折れた刃が木を砕いて向こう側の校舎に突き刺さってるわよ。本当にすごいわ!それにしてもそれだけ動いて疲れないの?」
身体は疲れていなかったけど、ずっと緊張していた所為か頭が重い。それをそのまま告げるとレアが呆れた顔する。
「本当に大したものね。何か色々とあたくしの中の常識が崩れていくわ」
「でも剣が・・・」
自分の剣に目を向けると刃が真っ二つに折れてしまっていて到底使い物になりそうにない。これしかないのにどうしよう・・・。
「それなら心配しなくていいわ、国で最高の鍛冶屋に超特急で作らせるから」
「いいの?」
「いいのよ。自分の騎士に剣を授けるのも王族の役目だもの」
レアは村を出るときからまだ騎士になれるかどうかも分からない私に本当によくしてくれている。ルミアのことだけでも感謝したりないのに、いつかこの恩を返せるように立派な騎士になりたいと思う。
「訓練用の剣は私の方で用意しよう」
驚いたことにブリュンヒルデ先生がそんなことを言う。もしかしてこれからこの先生に稽古を付けてもらうことができるんだろうか?
「カーミラの戦い方を見てぴったりのものを思いついたよ。王女、念の為予備の剣も用意してくれ」
「それはもちろんそのつもりでしたわ」
そこへバロック先生が会話に割って入った。
「そういう話は入学が決定してからしてはいかがですか。カーミラにはまだ学術試験が残っています」
「それはもういいわ」
レアが首を振って答える。
「・・・・・・どういうことですか?」
「騎士クラスの学術試験って確か算術、語学、歴史、戦術、礼儀作法の科目だったわよね」
「その通りです」
「全部0点でいいわ」
「・・・・・言っている意味が分かりかねます」
「カーミラは自分の名前どころか数字も読めないから筆記の試験はするだけ無駄なのよ」
「何・・・本当なのか?」
「・・・はい」
バロック先生が怪訝そうな顔をして聞いてきたので私は正直に答えた。確かに私は文字も読めないし、数字も十までしか分からない。だからリセの村にいたときから仕事のことはうたげ亭の主人に全部任せきりだった。
「それでよく騎士クラスを受けさせようと思ったものですね」
「今の戦いを見れば分かったでしょう?カーミラはこの国に必要な人材よ。もし仮にあなたが他国の人間だったとして、カーミラが一般兵や傭兵のような身分で雇われていたらどうするのかしら?」
「それは・・・、より高待遇で自分の国に引き込むだろうな」
「でしょう?それが一兵士ではなく騎士の引抜ともなれば、国家間の問題や信用にまで発展することになるから他国からも安易には手を出せなくなるわ。それにね、できる限りカーミラとは人を挟んで連絡を取るような状態になりたくないの。見ての通り素直だから、誰かに利用されるようなことでもあれば、その力がそのまま我が国に向かってくることになるかもしれないのよ?」
「なるほど・・・・・・全て承知の上での騎士クラス、というわけですか。とはいえ、ローズマリアの騎士全体の信用にも関わるので採点を甘くすることはできないのは承知していますね」
「それはもちろんよ」
「明日には結果が出るだろう。コリン先生は先に実技試験の採点をお願いします。俺はちょっとこいつらを鍛えなおしてからいく」
そう言ってバロック先生が周りを見渡すと、そこにいた生徒たちのほとんどが一斉に竦み上がったように見えた。
「くくっ、それはおもしろ・・・もとい、いい酒の肴になりそうだ」
お酒の・・・おさかなって何だろう?
「ヒルデ・・・少しはお酒を控えたらどうかしら?」
「如何に王女の頼みといえど、命まで投げ出すわけにはいかない」
「あたくしそんな重たい話はしていませんわよね!?」
「ハァ・・・」
コリン先生は一人ため息をついていた。しかもそのため息をつく姿がとても自然で、いつも苦労している様子が簡単に想像できる。きっとこういう人を苦労人って言うんだろう。
そして話をしている間もブリュンヒルデ先生は暇さえあればお酒を口にしている。どう考えてもあの酒瓶の大きさ以上に口の中に入っていっているように見えるのは気のせいではないと思う。
こうして私の入学試験はよく分からないまま終わりを告げた。
そして私たちは部屋に戻り、夕方頃になるとようやく試験を終えたルミアが戻ってきて今日の試験の話になった。
「・・・ということがあったの」
「そうだったんだ。私はお姉さまとは反対で、ずっとお勉強のテストだったよ」
「うぁ・・・」
想像しただけで顔をしかめてしまう。私には絶対耐えられそうにない。
「でも、テスト中にすごい殺気を感じたからびっくりしちゃった」
「さっきって?」
「えっとね、殺気っていうのは相手を倒すぞって気持ちのことかな。でもそれがすぐにお姉さまだって分かったから」
「あぅ・・・テストの邪魔しちゃってごめんなさい」
「ううん、それどころかお姉さまも頑張ってるっていうのが伝わってきたから私も頑張れたよ。・・・・・・先生は真っ青になってたけど」
「ルミアちゃんは意外と肝が据わっているのね」
「えへへ、そうかな。でも大丈夫だったんですか?何だかすごい騒ぎになっていましたけど・・・」
「ふふ、きっと今頃噂になっているでしょうね。明日が楽しみだわ」
寮の部屋で二人は楽しそうに入学試験の話をしているけど、私はその話をしている間ずっと落ち込んでいた。試験で0点だったことも恥ずかしかったし、先生たちの反応を見てもとても受かっているとは思えなかった。もし、試験が不合格だったら・・・もし試験に合格していたら・・・、これからのことを考えると不安ばかりが募る。どちらにしても結局私の頭が悪いということは変わらない。私なんかが騎士を目指しても本当にいいのだろうか。
ようやく再開です。抑揚のない話しか思いつかなかったのが納得できなくて続きを投稿するのが遅くなってしまいました。
よかったら引き続き物語を読んでいただけたらと思います。
ちなみに添削によって変わった名詞
大型の魔物>巨獣>暴獣
竜殺し>リセ(地方名)の竜殺し
魔法名 です
それと全体的に添削を行いましたが、「第9話 Side レア 処刑させなさい!」では、王女の人格に含みを持たせるように修正しました。