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転生魔女のヤンデレ英雄譚  作者: ネクロノミ娘
第3章 学園生活
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第18話 Side カーミラ 戦技試験

 昨日置いた剣を手に取るといつもの重みがずしりと加わる。この剣ももうずいぶん古くなってきた。そろそろ新しいものに買い換えた方がいいのかもしれないけど、これだけ使い勝手のいい大きさの剣は他に見たことがない。

 先生たちのところへと戻る途中、遠くにいる生徒たちの話声がふと聞こえてきた。


「お、おい、あんな剣持ってあいつは一体何と戦うつもりなんだ」

「これから戦技試験するみたいだから先生・・・じゃないのか?」

「すっげ・・・ありえねぇ・・・」

「あんなの食らったら例え刃を潰していようが死ぬだろ・・・」

「じ、実はすごく軽い金属でできてるとか?」

「先生大丈夫かな・・・」


 といった内容だ。何だか私の剣はあまり評判が良くないらしい。

 そして先生のところに戻るとそこには思わぬ人物がいた。


「レア・・・どうしてここに?」

「そりゃあ、あなたの戦いぶりを見たくて来たのよ。あたくしだってまだ一度しか見たことないんですもの。それとね、あなたにぴったりの剣の先生を連れてきたの」


 そう言ってにっこり笑うレアの横には見知らぬ女性がいた。歳は20才後半くらいだろうか。綺麗な金髪をポニーテール結んでおり、鋭い目つきが凛々しさをより一層際立たせていた。

 腰を見ると二本の剣を左右にさしており、今までに出会ったどの人とも決定的に何かが違っている感じがした。

 身長は私よりも少し低いくらいなのに、あのバジリスクよりもずっと大きく感じる。


「初めまして、ブリュンヒルデ・オデュッセウスだ。君が王女ご執心のリセの竜殺しだね」


 ブリュンヒルデはよろしく、と握手を求めて手を差し出してきた。


「カーミラ、です」


 私も自分の名前を告げ、差し出してきた手を取り、握り返した。

 握手をした瞬間に伝わってくる。この人強い・・・それにすごい匂い・・・。

 再び腰に目をやると剣の横に酒瓶のようなものが吊るしてあった。匂いからして既に相当お酒を飲んでいるみたいだ。


「ブリュンヒルデさんはこの世界で唯一剣聖を名乗ることを許されているランスロット様のお弟子さんなの。実はこの方ジークの剣のお師匠様でもあってね、カーミラにこれから3年間剣を教えてくださるそうよ」


 よく分からないけどとにかく凄い人らしい。どうしてそんなに凄い人が私に剣を教えてくれるんだろう?


「何、別に道楽というわけじゃない。ジークから面白い奴がいるから見て欲しいって言われてね。あの堅物がそんなことを言い出すなんて初めてだったから驚いたが、会ってみて得心がいったよ」


 私を嘗め回すように見ながら言う。何だろう・・・何だか何もかもが見透かされているような感じだ。


「それに三食寝床付きで飲み放題だって聞いてるからな。昔師匠に言われてここで剣を教えてた頃もあったから、悪くない・・・と思ってね」


 そういえばジークはここの卒業生だって言っていた。きっとそのときに剣を教えていたのがこの人なんだろう。


「ちょっとヒルデ!酒代(さかだい)はご自分のお給金からきちんと支払っていただきますからね!」

「くくっ、まぁそう堅いこと言うな」


 レアがそんな話はしていないとばかりに口を挟むが、ブリュンヒルデは涼しい顔をしてそれを受け流す。


「さて、まずは入学試験だったな。バロック先生」


 バロック先生は肯定して私の方に向き直った。


「カーミラ。戦技試験の相手はレア様の要望でブリュンヒルデ先生に勤めてもらうことになった。全力を尽くしなさい」


 どうやらこれから試験でこの人と戦わなければいけないらしい。

 私はバロック先生の言葉にしっかりと頷くものの、この人を倒すイメージが全然沸いてこない。


「ブリュンヒルデ先生、くれぐれも無茶なことはなさらないでくださいね」

「くくっ、前向きに検討するよ」

「はぁ・・・」


コール先生はため息をついて、バロック先生と共にこの場を離れていった。


「がんばってね。応援しているわ」

「見学するのは構わないが、危ないから私たちの周囲30m以内には入って来ないようにな」

「分かっています」


 レアもそう言ってこの場を後にした。


「それじゃあ、始めようか。全力でかかってきなさい」

「ん、よろしくお願いします」


 先生は右手側の剣を抜き放ち片手で正眼に構えをとった。

 どこへ斬り込んでも当たる気がしない・・・。

 でも、だからと言って考え込んでいてもどうにもならない。今はとにかく攻めよう。


「はっ!」


 私は一気に距離を詰めて剣を横に振り抜いた。

 しかし、先生が僅かに剣を動かすだけで私の剣は先生の剣の腹をするすると滑り、攻撃が逸れる。不思議な感じだ。剣に手ごたえを全く感じない。


「足りないな」


 私は流れた剣をすぐさま切り返すがまたも先生の剣によって攻撃が逸らされる。

 そして今度はそのわずかな隙を突いて私の首に剣が伸びてくる。


「ッ!」


 私が何とか身体を捻ると、その剣が先ほどまで私に首があった位置を通り過ぎていた。

 紙一重の状況に神経が研ぎ澄まされていく。

 少しでも相手の手を止めようとすかさず切り返すが、先生が私の斬撃を剣の根元で受け止めた瞬間、剣に強い衝撃が走り、攻撃が大きく弾かれた。

 こんな感触は初めてで一瞬何が起こったのか理解できなかった。

 その隙に再び先生の剣が伸びて来たため、私は横へ跳び攻撃を避けつつ距離を取った。


「君の力はこんなものなのか?くくっ、このままじゃ晴れて落第。田舎に帰ってもらうことになるよ」


 その言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった。

 ここに来てようやく希望が見えたというのに、この人に勝てないとリセに帰されてしまう?

 今帰されてしまったら、お城のお医者様に見てもらうことなんてできないのに。

 この人は、ルミアが生きることを阻むの?

 この人は、ルミアに死ねっていうの・・・?


 ルミアを・・・・・・殺す・・・の?


 そんなことは・・・・・・させない。


 ―――――― ルミアノタメニ ――――――


 ―――――― 死ネ ――――――


 

 私の心が悲鳴を上げる。


「くくっ、ようやく本気というわけか」

「これは・・・やっぱりあの時の殺気はあなただったのね」


 敵は喉を鳴らして笑い、レアが嬉しそうに唇の端をにっこりとあげて笑っている。

 このままじゃきっと勝てない。もっと速く、もっと強く。そのためなら私は死んだって構わない!

 私は低い姿勢を取り、足に力を貯め、全力で地面を蹴って駆け出した。もう止まるつもりなんてない。


「ハッ!」


 身体が流れる勢いのまま、剣を下段から斜め上に一気に振り上げる。

 敵が再び私の攻撃を受け流すと、先ほどと同じように剣の腹を滑るが、先ほどと違い、僅かに剣に抵抗を感じる。私はそのまま剣を握りなおし、敵の剣に目掛けて無理やり力を込め、鍔迫り合いに持ち込む。

 しかし、その瞬間にまた私の剣に強い衝撃が走り、大きく弾かれる。

 さっきはここで敵の攻撃が来た。そのときは何が起こったのか分からなくて対処が遅れてしまったけど、今度はいける。


「くッ!」


 予想通り向かってきた敵の攻撃を避けるため、右手を剣から離して身体を横に逸らし、剣を持った左手に力を込め、弾かれていた剣を再び強引に振り下ろす。

 しかし、敵は僅かに身体をずらすだけで私の攻撃を避け、お互いの剣が空を切ることになった。


「君は本当に魔物と戦い慣れているな。だが、人間は魔物じゃない」


 しかし、その後私は体勢を立て直すのに手一杯で敵に攻撃する隙を与えてしまっていた。

 姿勢を下げ、横に振りぬかれた剣を何とか避ける。


「確かに相手が魔物なら攻撃を避けるのは正しい。だが、君は魔物を狩るために騎士になるわけじゃないだろう?君が攻撃を避けるたびに君の後ろで守られている者が命を落とす。ほら既にレアが4回死んでるぞ」


「ちょっと!不吉なこと言わないでくださいます!?」


 レアが抗議の声を上げるが敵は全く取り合う気がないらしい。


「だが、真実だ。そう、君は攻撃を防ぐことを覚えなければならない」


 避けずに防がないとリセに、帰すの?・・・ルミアを、殺すの?

 私は言われたとおり斬撃を剣で受け止めた。しかし、そうすると敵はすぐに切り返してくる。反撃の隙がなく、私は一方的に攻撃を受け止め続けた。このままじゃルミアが殺される!


「攻撃を受け止めるというのは避けることより隙が大きい。ならばどうする?」


 確かにその通りだった。受けるだけではこの不利な状況から抜け出せない。ルミアが殺されてしまう。敵は確か私の攻撃を剣で受け流していた。

 私も敵の真似をして斬撃を受け流す。しかし敵と同じようにうまく斬撃が流れていかず、すぐに切り返される。

 それでもただ受け止めたときよりは時間が稼げたし、体もすぐに動き出せる。だから私もその僅かな時間に敵の剣に向かって切りつけることができた。剣と剣とがぶつかり合い、火花を散らせる。ようやく私は敵の剣を弾く事ができた。


「そうだ、私のように受け流すか弾くかだ。剣を止める時間は短ければ短いほどいい。いつ如何なる時も、次の行動へと移る自分の姿を常にイメージしろ」


 次の行動をイメージ・・・・・・、徐々に攻撃と防御がうまく繋がり始める。

 そこからは激しい打ち合いへともつれ込んだ。敵の斬撃よりも私の斬撃の方が速く、徐々にこちらの手数が多くなりはじめる。なのに・・・


「人間と魔物は違う。ほらほら、君の方が手数が多いのに追い詰められてきたんじゃないか?」


 その通りだった。私の方がたくさん攻め続けいるのにどんどんこちらに余裕がなくなってきている。いや、私の方が攻め続けているというより攻めさせられ続けているといった方がいいのかもしれない。手を止めたら終わる。


「どうしてッ・・・死んでくれないのッ!」

「恐ろしいな。君は本能のまま戦っているのだろう?魔物相手ならそれでよかっただろうが、少し剣の覚えのあるものなら次に君が何をしてくるか手に取るように分かる。だからいくら攻めても倒せない。そしてそれどころか私は簡単に君を追い詰めるように戦いを運ぶことができるというわけだ」


 ダメ・・・

 このままじゃルミアが殺される!


「そして・・・破ッ!」


 私は力の限り剣を振りぬいた。

 しかし、次の瞬間敵の剣は私の視界から消えていた。


 ガキン!


 気がつけば私の剣が中ほどで真っ二つに切れ、先が地面へと落ちていた。

 唖然となる。今まで何を斬っても折れることがなかったのに・・・。


「秘剣・斬鉄・・・・・・君はまだ剣技を知らない。試験はここまでだな」


 先生が鞘に剣を収め、試験の終わりを告げる。私は・・・


「負けた・・・」


 私は・・・負けた。どうやって負けたのかも分からない。

 そうだ。私は、・・・負けたんだ。ルミアの希望を私が消したんだ。私の所為だ。私の・・・所為・・・。


 気がつけば涙が溢れていた。


 騎士になるのは難しいとレアは言っていたけれど本当だった。ごめん・・・・・・、ルミア・・・。



「しかし、今年の一年はだらしがないな。バロック先生」


 やれやれといった風に先生が周りを見渡している。

 なぜか訓練所にいた一年生はほとんどの者が武器を落として膝をついていた。


「面目次第もありません」

「こんなことでは戦場に立つことすらままならない。まぁいい、すぐに私が殺戮マシーンへと鍛えなおしてやるさ」

「騎士にです!」


 レアがすかさず否定する。


「くくっ、本気にするな。ユーモアだ」

「それでどうですか、彼女は?」

「ふむ、まさに原石だな。剣に関しても対人戦闘に関しても完全に素人だ。だが、戦闘における嗅覚、身体能力はまさに獣。まぁ私に任せておけば万夫不当の戦術兵器へと作り変えてやるさ」

「戦術兵器じゃなくてあたくしの近衛騎士にです!」

「くくっ、そうだったか?」



 そう言ってブリュンヒルデ先生は嬉しそうに笑っていた。

添削と先の物語を考えたいので次の更新には少しかかるかもしれません。

これからもよかったら読んでいただけたらと思います

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