第15話 Side レア その馬鹿力はどんな仕掛け(タネ)?
「ところでずっと疑問に思ってたんだけど、カーミラのその怪力も魔技なの?」
あたくしは出会ってからずっと不思議に思っていた疑問を口にした。
「怪力?」
「だって、普通に考えたらそんな細腕であんな大きな剣振り回せるはずないもの」
カーミラの腕の太さはあたくしとそんなに変わらないし、筋肉質のようにも見えない。それに対して剣の重さは200kgくらいありそうだ。あたくしは当然持てないとしても、ジークですら持ち上げるだけで精一杯ではないだろうか。それを振り回すなんて正気の沙汰とは思えない。
「多分違う。あれは繋がっている感じがしないから」
「繋がっている?」
「ん、繋がっている力と繋がっていない力がある・・・みたい」
「魔技を使うときには繋がっている感じがするっていうことかしら?」
カーミラは頷いて肯定する。
「何と繋がっているって言うの?」
「分からない・・・」
嘘を付いていたり、隠し事をしているような様子は見受けられない。
現時点では本人が分からないのなら判断のしようがない。生憎とあたくしたちの方にもそのことに関しては何も伝わっていないのだから。
それにしても一体何と繋がっているというのだろうか。神?それとも悪魔?
代償を捧げなければいけないところは悪魔崇拝にも似ているが、もしそうならもう少し魔女がいてもいい気がする。そもそもなぜ魔女だけ代償と引き換えに魔技を覚えられるのだろうか?
ダメね。いくら考えても確証が持てないんじゃ意味がない。
「あといつも繋がっている感じがするものがいくつかある」
そう言うと突然カーミラは革の胸当ての下に着ていたシャツをめくり上げた。
「これ」
「ちょっと!!」
「お姉さま!」
なんと胸当てごとシャツが捲り上がってしまった所為で下乳が見える。わずかに見える下乳はまるで重力に逆らうかのように張りがあり、とてもやわらかそうで・・・はっ!
とっさに横を振り向くとジークが明後日の方向を向いている。
さすがジーク、一見とても紳士だ。しかし・・・
「見ましたわね?」
「見ておりません」
あたくしが半目で問いかけると、ジークの顔から一筋の汗が流れ落ちる。
これは確定だ。確かにいきなりシャツを捲ったカーミラも悪いが、だからと言って乙女の柔肌を見た罪が許されていいのだろうか?|(反語)
あたくしはもう一度テーブルの下でジークの足を思いっきり全力で蹴っ飛ばしてやる。
さっきの10倍は気持ちを込めて。
「ッッッッッ!」
全く男というのは本当にしょうもない生き物ね・・・。
「この四つが繋がっている感じ」
カーミラが指差すヘソの辺りには確かに四つの文字が浮かび上がっていた。
「分かった、もう分かったからシャツを下ろして」
あたくしがなだめると、カーミラはようやくシャツを下ろした。
やることなすこと本当に心臓に悪い。
「お、お姉さま。男性のいるところでお腹や胸を見せたらダメです!」
ルミアちゃんが膝の上でカーミラを嗜める。最初はうんうんと笑顔でお説教を受けていたカーミラも、ルミアちゃんの「そんな恥ずかしいことするお姉さまは嫌い」発言が出ると見ているのが可哀想なくらいしょんぼりしてしまった。そして最後には・・・。
「・・・ごめんなさい」
と涙を貯めて謝っていた。意外なことにパワーバランスはルミアちゃんの方に傾いているらしい。
・・・・・・意外でもないわね。
「ま、まぁまぁ次から気をつければ大丈夫よ。ね、ルミアちゃん」
「王女様の言うとおりです。お姉さま、次からは気をつけて」
「・・・これから気をつけたら嫌いにならない?」
カーミラが涙をためて上目遣いでルミアちゃんに聞いている。
何この可愛い仕草・・・。同じことをあたくしがしても多分あざとく見えるだけでジークからも白い目で見られそうな気がする・・・。まったく・・・、同じ女として匙を投げたくなるのも仕方がないのではないかしら。
しかし、こういうところを見ると何となく似たもの姉妹という感じがして微笑ましくもある。
「うん、嫌いになんてならないから」
そう言ってルミアちゃんがカーミラの頭を撫でると花が咲いたような笑顔へと変わっていった。
何だろう、この言葉では言い表せないような微妙な気持ちは・・・。
「そ、それで、その四つはどんな力か分かるのかしら?」
「一つは力を周りから集める力」
力が集まる力・・・、心当たりはある。
「もしかして魔力を集める力ということかしら?」
「バジリスクとの戦いで感じた強大な魔力・・・しかしあれは本格的に魔技を使った状態・・・覚醒状態とでも言いましょうか、そのときの力ではないのですか?」
確かにあの魔力が高まっていく状態では既にジークの言う覚醒状態にあったはずだ。
しかしカーミラは首を振って答えた。
「力を集めるのはいつでもできる。あれは集めた力を斬る力に変えるためにマギ・・・?を使ったの」
通常あたくしのような魔術師は睡眠や休憩により体内に魔力を溜め込むのだけれど、カーミラは魔技によって魔力を集めることができる状態にある、ということになる。
あのとき感じた魔力は本当に凄まじいものだった。下手をすると魔術師100人分くらいの魔力が集まっていたかもしれない。
やっぱり大気中の魔力を集めたのかしら?
「じゃあ、試しにその繋がっていない力というのでルミアちゃんを持ち上げてみてもらえる?」
「ん」
カーミラは座ったまま軽がるとルミアちゃんを持ち上げる。まるで、赤子を高い高いしているみたいだ・・・。
しかし特に変わったところは見られない。
「ちょっと失礼」
身体を乗り出してルミアちゃんを持ち上げているカーミラの腕を掴んでみる。
これは・・・
「ありがとう。降ろしていいわよ」
「ん」
「無意識で猛る巨人の膂力の魔法でも使っているのかと思ったけど違うみたいね。これは恐らく魔力によるものよ」
「魔力・・・・・魔法じゃなくて?」
ルミアちゃんが不思議そうに聞く。
「そうよ。実は魔力のコントロールというのはとても難しいことなの。例えば風の魔法でこのコップを吹き飛ばすことはできても、宙に浮かせたまま留めることはできないのよ。もちろん風の威力を何段階かコントロールすることはできるけどね。それがカーミラの場合、手足に力を込めるのと同じように、自由自在に扱えているんでしょうね。そして魔力そのものは実体があるわけでも、害があるわけでもないから風や炎と違って影響力・・・とでも言えばいいのかしら。それがとても小さいの。だからあたくしたちは魔法を使うためのエネルギーとして魔力を使っているわ。だけど、カーミラは魔技のおかげで普通の人よりずっと多くの魔力が集まってくる状態にあるの。だからその影響力の小さな魔力を直接使っても十分な影響力を得ることができるのでしょう。しかも、筋力の代わりに使用して発散した魔力は魔技によって再び吸収されているようね。そしてその作業全てが身体の中で行われているから外から見ても魔法を使っているようには見えなかった・・・というわけね」
俄かに信じられないが、カーミラの身体の中の魔力の流れを見ると、そうなっているとしか思えない。
確かに理論上は可能とされてきた技術だが、難易度・魔力消費量の観点から実用性がなく、使い手も恐らくカーミラ以外にはいないだろう。しかもそれが身体の中だけで行われているということは、カーミラは魔力を身体の一部と捉えているのかもしれない。
「お姉さますごい!他の3つはどんな力があるの?」
「他は・・・よく分からない・・・」
どうやら自分で使える魔技でも実際に使ったことがあるもの以外はよく分からないらしい。
手記によると伝説の魔女も前世での記憶はなかったらしいし、そういうものなのかもしれない。
でもあと一つは想像がつく。
「もしかすると一つは魂に魔技を刻み込むための継承魔法かもしれないわね。まぁいいわ。学園は銭湯だからタオルで隠すようにしましょう。4つくらいならそれほど目立たないだろうしね」
「銭湯・・・って何ですか?」
「みんなで入る大きなお風呂のことよ」
「「わぁ・・・」」
2人から感嘆の声があがる。
確か一般市民の中では家に風呂があるのは珍しかったはずだ。現にこの家にも風呂は見当たらない。そういった家では普段は蒸しタオルで身体をぬぐい、たまに水浴びや公衆浴場で身体を洗っているらしい。
だったら学園でも同じだろうと思うかもしれないけれど、学園にはあたくしのような王族や貴族も多く在籍しており、それを差し引いたとしても大勢による集団生活において衛生面の管理はとても重要視されている。とは言えそれでも男子寮の匂いに関する武勇伝なんかはよく聞く話だ。
ちょっと脱線してしまったけれど、話を戻そう。
「というわけで特に異論がなければ、二人とも王都へ行って学園へ入学。それ後カーミラはあたくしの近衛騎士を目指すっていうことでいいかしら?」
「ん(はい)」
二人から元気のいい返事が返ってきた。色々問題は山積みだけど引き受けてもらえて本当によかったと思う。
「それじゃあ、出立の支度を始めましょう」
かくしてあたくしたちは王都を目指すこととなる。あたくしの目指す道はきっと前途多難となるだろうが、これからの学園生活を考えると胸の高鳴りを止められない。
ここからあたくしたちの物語は幕を開けるのだ。
これで長かった2章は終わりとなります。次からはカーミラの学園生活が始まるのでお楽しみいただければと思います。あとよろしければお気軽にご意見ご感想をよろしくお願いします。