第13話 Side レア 王を目指す意味
「王女さまが命を!?」
ルミアちゃんが驚いて声をあげる。本当に期待通りよく驚いてくれる子だ。あたくしは満足して笑みを浮かべてそのまま言葉を続けた。
「そう、兄上たちからね。今あたくしには兄上が二人と姉上が一人、そして弟と妹が一人ずついるの。それで今のあたくしの王位継承権は第5位、ということになっているわ」
この国の王位継承権はまず正妃の子供に与えられ、次に次妃の子供に与えられる。正妃の子には兄と姉と弟がおり、次妃の子には兄と妹とあたくしがいる。そして王位継承権は性別に関係なく年齢順となるため、あたくしの王位継承権は5番目となる。そうやって代々次の王を決めてきたため、女王が国を取り仕切ることも珍しくはない。最も女王になるのが嫌で弟に王位を譲る者も中にはいるけれど・・・。
「それじゃあ、レア王女様のお兄様が次の王さまになるんですか?」
「そうね。恐らくこのままいけば二番目の兄上が王位を継がれるでしょう。第一王子は正妃の子じゃないからね」
「それならどうして・・・・・・」
「自分で言うのも変だけど、あたくしはどうやら優秀すぎたらしいのよね」
「本当に自分で言うようなことではありませんね」
ジークが余計なちゃちゃを入れてくる。本当に一言も二言も多い男だ。
「うるさいです。ジーク、あなたはもう少し主人を敬うということを覚えるべきよ、まったく・・・・」
だから恋人の一人もできないのだと早く気づいて欲しいんだけれど・・・、とジト目で睨みつける。
「でも本当にこれがあたくしの妄想なら良かったんだけどね。王宮内でもあたくしを持ち上げて次期国王の座に据えようとする派閥が既にあるくらいなのよ。もちろんそんな奴らの尻馬に乗ってやるつもりなんてないわ」
今まで我が国では今回のように後継者争いになることなんてほとんどなかった。
「それでも最近周辺国がきな臭い動きを見せてきてね。もしかするとそのうち戦争に発展するかもしれないの」
「そんな!?」
そんなときだからこそ後継者争いが熾烈になるのかもしれない。国が追い詰められるほどに本当に強き王、賢き王が求められるようになってくるのだから。
「平穏な世の中だったら兄上でもよかったでしょう。でも、兄上たちに乱れる世を御する力は残念ながらないの。あたくしならそれができる。ならあたくしがこの国を導いていくしかないでしょう?」
あたくしは立ち上がり、腕を組んで一人うんうんと頷く。
「言っていることが些か自信過剰かと思われるかもしれませんが、その・・・王子殿下たちは良くも悪くも王族として育ったもので・・・」
そうなのよね。ずっと平和だったからこの国の王族貴族たちは随分と甘やかされて育ってしまっている。もちろん他国に比べたら、という話だけれど。
あたくしはまだその中でもマシな方だとは思っているけれど、軍国主義である帝国の中に入れば凡庸な部類に入ってしまうかもしれない。
だからジークに自信過剰と言われても・・・・・・え。
ジークったらまた余計な一言を・・・。
じろりとジークをにらみ付けると、ジークは明後日の方向を向いてそしらぬ顔をしていた。
本当にいい性格をしている。あたくしは椅子に座りなおし、テーブルの下でジークの足を思い切り蹴飛ばしてやった。
「いッッ!」
蹴りはグリーブ|(具足)の隙間を縫って見事にクリティカルヒットした。
さすがのジークもうめき声を上げて眉を歪ませる。
「どうしたの?」
「い、いえ、何でもありません。どうぞ話を続けてください」
カーミラがその様子を心配そうに覗きこむと、ジークは何とか我慢して答える。
その様子を見ていると心が晴れていく気がするのはきっと気の所為ではないだろう。一言で言えばすっきりした、ということになる。
満足したあたくしは、にっこりと笑って話を戻した。
「あたくしはこの国が好きよ。魔女の国、なんて言われてるけど、あたくしはこの国に生まれたことに誇りを持っているわ。だからあたくしはあたくしの手でこの国の平和を守りたいの。確かにジークたちもあたくしを守ってはくれてはいるのけれど、あたくしは女だから男の騎士を傍に置けないときもあるの」
そう、例えば浴室やトイレ、その他にも後宮や出産の場など男子禁制の場は意外と多い。普通の王女として生きるならそういった場所でもさほど危険はないだろう。だが王を目指すとなれば話は別だ。
「それにね、カーミラ。あなたにはあなたにしかない力があるわ。その力はきっとあたくしの助けとなってくれる。だから、あたくしにはあなたが必要なの」
あたくしはカーミラに向かって真っ直ぐに手を差し出す。きっと分かってくれると期待して。
「ん」
カーミラはしっかりとあたくしの手を取ってくれた。
多分、難しい話は分からなかったかもしれない。でもきっとあたくしがあなたを必要としていると言うことは分かってくれているはずだ。
「ありがとう、頼りにしてるわ。あたくしのナイト様」
出会ってまだ間もないが、あたくしはカーミラならきっと期待に応えてくれるだろうと確信していた。
これでも人を見る目はある方だ。そのあたくしの直感がそう告げているのだから間違いない。
「あ、それとね。学園には通ってもらうわよ。教養以外でも学べることはたくさんあるわ。もちろんルミアちゃんもね」
「わ、私も!?」
ルミアちゃんが目を白黒させる。きっと、自分も騎士の学園に通わさせられると思っているのだろう。しかし、さすがのあたくしでもルミアちゃんに騎士を目指せなんて言わない。
「もちろん身体に負担がかからない程度にだけど」
「で、でも私が騎士の学園なんて」
「大丈夫です。学園は騎士のためだけにあるのではありません。学者を目指すもの。医者を目指すもの。魔術師を目指すもの。神官を目指すもの。様々なことが学べるようになっています。そしてレア様も」
「王を目指すものとして、ね」
あたくしはそう答えてウィンクして魅せた。
学園・・・正式名称王立ラヴァンティエールアカデミーは騎士を育成する機関ではなく、国の仕事に従事する者を育成する機関だ。なぜわざわざ違う分野の者たちを一緒に学ばせるようになったかというと、視野の広い人物を育成するため、または身分の違うものとの付き合い方を覚えるためなどと言われている。
「そして騎士を目指すに当たって、約束して欲しいことがあるの」
そう、これは絶対に守ってもらわないといけない。
「約束?」
「うん、これからは魔技を使わないで欲しいの」
「・・・まぎ?」
やっぱり・・・カーミラはあの力が何なのか分からずにずっと使ってきたのね・・・。
「カーミラ。バジリスクに止めを刺したときのことを覚えてる?」
「うん」
「あのとき、自分の身体がどうなってたか知ってる?」
「ん、アレを使うときはいつも赤い文字が身体に出てる」
「そう・・・、あれはあなたには文字に見えるのね」
バジリスクとの戦いの最後で浮かんでいた紋様・・・あれは文字だったらしい。
あたくしも古代文字や神官文字など幾種類かの文字を見たことはあるが、カーミラの身体に浮かんでいた文字はそのどれとも似ている感じはしなかった。だから、てっきりあれは紋様か何かだと思い込んでしまっていた。
「今もその文字を出せる?」
「やってみる」
そういうと、まさにあのときと同じように・・・・・・そう、バジリスクと相対していたときのことを再現するかのように瞳が真紅の輝きを放ち、体中に紅い文字が浮かび上がってきた。
「・・・・・・出た」
カーミラは自分の身体に出たそれをじっと見つめる。
「これは不思議ですね。このようなもの今まで聞いたこともありません」
「お姉さま、目まで・・・綺麗・・・・・・」
「ルミアちゃんも今まで見たことなかったの?」
「見たことは・・・あったと思います。でもあんまりはっきりとは・・・」
「なるほどね」
確かに普通に生活をしていたらあんな力を使う場面はなかなかないのかもしれない。だからこの状態のカーミラを目撃する機会はほとんどなかったとしても不思議ではない。
「これはこの国の王族にのみ伝わっている話なんだけど、その文字は・・・・・・魔女の証、らしいの」
私も早く物語を動かしたい思っているのですが、あと少しだけこの話が続きます。よかったら長い目で見ていただけたらと思います。




