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補習待ちの二人

今日、所属する部活の部長さんと考え方を語り合いました。


皆が帰った部室、鞄を置いて行ってしまった先輩の補習が終わるのを二人で待つ間の会話。他の友人と先輩は全員帰ってしまった。私は部長さんが一人待つのは可哀相だと思う気持ちと、さっきから二人で喋ってた流れから居座る事にした。彼とこんなに長く喋るのは珍しい。

しかし、話のネタは切れてしまう。私達の趣味は全くと言って良いほど共通していない。だから私は黒板に落書きしながらどうでもいい事を口にする。


ふと、部長さんが言った。


「世の中優しい奴なんていないよな。」

『そんな事ないですよ。私は優しくない人間はいないと思ってます。』


私は黄色いチョークで汚れた手を止める。パイス椅子に座る彼を首だけを動かして見下ろした。彼は私を見上げる。

また彼から口を開いた。


「そんな事言ったら、犯罪者も優しい人間なのか?」

『ええ、そうです。

例えば、此処にABCの三人がいます。AはBの事が嫌いで、BもAの事が嫌い。人間が嫌う理由なんて単純だからそこは省略します。しかし、AとCは友人で、友人には普通優しいもの。だからAとCは優しい人間。BもCとはそこそこ仲が良い、けど此処にいないDとは親友です。親友には他の友人よりも特別に優しくしますよね。だから、Bも優しい人間なのです。

これが私の持論です。高校生風情が何言ってんだとか思っていただいても構いませんよ。』

「いーや、別に否定はしないよ。

じゃあ、世の中には悪人はいねぇんだな?」

『そうですね。』


彼は長いテーブルに肘をついて頬杖をつくる。私は説明の為に書いた構図を黒板消しで消して次の説明の準備をする。粉が器官に入ってコホコホと咳込んだ。部長さんが『大丈夫か?』と心配してくれたので『ありがとうございます』と笑顔を向ける。彼は何時も笑顔のような顔だから感情の起伏が読み取れない。彼自身が言うには『そこまで変わらない』らしい。確かに一年近く彼を部室で見てたが、ほとんど変わってない。ちょっと怒ると軽い暴力を振るわれるが。

私は気を取り直して黒板に構図を書き始める。カッカッとリズミカルな音が部室に響く。


『私からしてみれば、悪人と呼ばれる人間は自分勝手なだけで、ただの一般人とかわりないです。ただ、何処かで世間に続く道を踏み外してしまった、世間から嫌われた人間。結果彼、彼女らは追い詰められて“悪人”となってしまった。

私は自分に係わり合いがなければ、基本的にどうでもいいです。嫌いでもないし好きにもなりません。

私の持論ですけどね。』

「ふーん。世の中そんなものか。」

『そんなもんです。単純で、複雑。それゆえに面白い。』

「……。」


フフッと笑うと部長さんは斜めってた体を起こした。私は真っ黄色になった手を端に設置されてある手荒いで洗う。まだ黄色が残ったがハンカチで拭ったから問題ない。

テクテクと部長さんと鞄を置いたテーブルを挟んだパイス椅子に座る。

部長さんとまた雑談する。


『マヤの予言もうすぐですね。』

「あー、そういやそんなのあったな。俺は信じてないけどな。そもそも、そんな簡単に地球が滅びるとは思っていない。」

『そういうの信じなさそうですよねー、部長さんって。非現実的なもの信じないタイプだ。

そういう私も信じてませんけどね。』

「信じてねぇのかよ!何故話振った?」

『特に私が口にする事は意味ないですよ。そんな事随分前に教えたと思いますが?一昨日くらいに。』

「随分って言わねぇ!それは最近だ!

そういや言われた気もするな。」

『でしょー?』


ガチャ、


突然後ろの扉が慌てて開いた。そこには補習を受けていた先輩が。

先輩は驚いた顔で私達を見て、また慌てて謝罪した。


「バンビ(部長さんのニックネーム)、待たせてごめんね~。っと、黒田ちゃんも待っててくれてたの?ありがと~。」

『補習お疲れ様でした。』

「ああ。お疲れ。」

「ありがとう~。二人共ごめんね。」


鞄に補習に使った用具をしまう先輩。私も『そろそろ帰りますか。外暗いですし』と部長さんを促す。

二人で食べていたスナック菓子の袋をごみ箱に入れ、部長さんは鞄を持って帰る準備終了。鞄のチャックを閉じてる横を先輩が通り過ぎ、先に部室を出る。部長さんは入口で軽く急かすので『女性は準備に時間がかかる生き物なんですよ』と冗談で呆れたため息をハァと吐くと『さっさとしろぉ!』と怒られた。怒られた時にはチャックが閉まってたから私は怒られ損だ。

鞄を肩にかけて何時も通り『遅くてすいませんねぇ』と口にしてから待っていた先輩と並んで歩く。部長さんも鍵を閉めた後、後ろで会話に参加する。

待ってた理由、その間何をしていたか、先に帰った先輩や友人達の事。彼女は『だろうねぇ。聞こえてたよ』と乾いた笑い声。


私達三人は一年生と二年生の下駄箱が違う場所にあるので、一年生と三年生の下駄箱の前で別れた。

今日はお互い久しぶりによく喋った一日だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人の会話が、行き当たりばったりのようで、でも、どこかにしっかりと主題を持ちながら、進んでいくのは面白かったです。 [気になる点] 素人意見ですみませんが、ひとつだけ。「先輩」が、あまり説…
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