身体の弱い私を心配しすぎる従兄弟に困ってます!!
「クルア! 倒れたと聞いた!」
「うぅん……煩いので、帰って」
私、クルアはベッドの中で声を発する。頭がくらくらして起きていられない状況に、従兄弟の大きな声は辛い。基本的にお兄様達がいらっしゃるときは、追い返してくれる。
具合の悪い私のことを思いやって、従兄弟の対応をどうにかしてくれるのだ。私が人と喋るだけの気力がないことを分かっているから。
……ただこの従兄弟は、全くそのあたりのことを考えてくれない。
ビリアーノという名の従兄弟……私がビリ兄様と呼んでいる彼は、私の母親の兄の息子である。それでいて侯爵子息という立場で、男爵令嬢でしかない私よりは身分が高い。
私の事を妹のように可愛がってくれていることは有難いことなのかもしれないけれど、体調を崩す度に押しかけてくるのは本当にやめてほしい。やんわりと断っているのに全く自重してくれない。
最近思うのだけど、この人は私のことを思っているわけではなく、身体の弱い従姉妹を心配する自分に酔っているだけでは? と思っている。
「クルア、聞いているのか!?」
「……ああ、うん。そろそろ帰って?」
「そんなことを言うなよ。心配してきたんだぞ」
本当に帰って欲しい。
そう思ってならないのに、結局従兄弟はお兄様が帰ってくるまでずっと傍で喋りかけてきていた。
従兄弟に対してうんざりしながらも過ごしていたら、予想外のことが起こった。
「……あなたが、クルアさんですか」
ビリ兄様の婚約者である伯爵令嬢のデライナ様だ。同性の私の目から見ても美しい人だった。
……なんで、従兄弟の婚約者と顔を合わせることになってしまったのだろうか。それにデライナ様の表情が暗いことも気になる。
なぜ、従兄弟は自分の婚約者がこんな表情をしていることに気づかないのだろうか? なんなの? デリカシーがないの? というか普段からこんな風に気が利かないのだろうか……。
ビリ兄様は侯爵家の三男なので、デライナ様の家に婿入りする予定だと聞いている。それなのに婚約者にこんな態度だなんて駄目では?? と思ってならなかった。
「初めまして、デライナ様。ベッドの上から失礼します……」
それに私が体調不良でベッドから起き上がれない中で、連れてこないでほしい。せめて元気な時に連れてきてよと文句を言いたい。
「構いませんわ。体調不良の中、押しかけてしまってごめんなさい。……本当に身体が弱い方だったのね」
ん? ぼそっとデライナ様が呟いた言葉に、私は疑問を感じる。私が仮病を使っているなどと思われていたのだろうか。どうしてかよく分からない。
「ビリアーノ様、彼女は体調がすぐれないご様子なので帰りましょう」
それにしてもデライナ様はビリ兄様と違って常識人のようだ。私の様子を見てすぐさま帰宅を選択してくれた。
ぜひ、ビリ兄様を連れ帰ってもらいたい。
正直調子が悪い時は人と接するのは少し辛いのだもの。
今日は早く帰ってくれるかな? と期待して喜んでいるのに「デライナ! そんなにクルアが気に食わないならお前だけ帰れ」などとビリ兄様は言い放った。
「はぁ?」
思わず低い声が出てしまった。
いや、だってこの従兄弟、何言っているのだろうかと理解が出来なかった。
「私は……」
「全く! お前はいつも俺がクルアの元へ行こうとすると、文句ばかり言って……! 今回はクルアと話をしたいというから連れてきたが、それなのにすぐに帰ろうとするとは……!」
……頭に響くから大声を出さないでほしい。あと、本当に何をほざいているんだろうか。
あと嫌な予感がぴんぴんしてきて、私は益々顔が青くなってしまう。ビリ兄様の言葉から推測するに、もしかしてこの従兄弟、私が具合悪いのを聞いたらデライナ様と一緒に居ても駆けつけたってこと? 最悪すぎるのだけど!!
「ビリ兄様! 今すぐ帰ってください! あと、ごめんなさい! デライナ様、少しお話を聞いてもいいですか?」
一先ず私がやらなければならないことは、この煩い従兄弟を追い返すこととデライナ様からお話を聞くことだ。
だけどしばらくの間、ビリ兄様はずっと文句を言って中々帰らない。いや、本当に帰ってよ。
なんて思っている間にお兄様が帰ってきて、ビリ兄様を無理やり連れて行ってくれた。
ほっと私は一息を吐く。
なんとかベッドから立ち上がり、残ったデライナ様に頭を下げる。
「私の従兄弟が申し訳ございません!! あの言い方からするに、従兄弟はあなたと一緒にいるのに私の元へ駆けつけたりしていたのでしょうか? 婚約者であるデライナ様を蔑ろにするなんて許されません。それに婚約者にあんな言い方をするなんて……!! 本当に申し訳ございません」
私が真っ先にしたのは謝罪だった。だって、申し訳なくて仕方がない。私のせいで、婚約者に蔑ろにされたデライナ様はどれだけ傷ついただろうか。それにさっきも婚約者に向かって怒鳴りつけていたのもあり得ない。もしかして普段からあんな風なのだろうか。婚約者としても最悪だわ。
なんとか謝罪を終わらせようと必死だったのにふらついてしまった。
「クルアさん! あなたからの謝罪は要りませんわ。それよりも横になってくださいませ」
私がふらついたのを見て、デライナ様はそう言ってくださる。良い方だわ! お言葉に甘えてベッドに戻る。
「ビリアーノ様は確かにあなたを理由に待ち合わせ場所に来ないことも度々ありました。私は……もしかしたらクルアさんがビリアーノ様の気を引こうとしているのではないかと勘違いしていたの。それは申し訳なかったわ」
そう言われて、益々申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
私のせいでそんなことになっていただなんて!
「そうなのですね……。従兄弟は私のことを心配しているのか、来なくていいといってもこちらに来ていたのですわ。従兄弟とはいえ、向こうの爵位が上なので強くは言えなかったのですけれど……流石に伯父様に報告します。……デライナ様は、あんな婚約者でいいのですか?」
「そうね……。もしかしたら婚約解消はするかもしれないわ。でもそれはあなたのせいではないから気にはやまないで。それにしてもあなたは何かの病気なのかしら?」
「……私は魔力量が多くて、それに身体が耐えられないんです。もう少し年を重ねれば少しは楽になるとは言われているのですが」
「まぁ、そうなのね……」
そう、私の体調不良は魔力量が多すぎることに起因している。大きすぎる魔力で、もっと幼い頃は何度も死にかけたほどだ。
十四歳になった今は、まだ幼い頃よりは楽になっている。
「それとあなたに伝えたいことがあるのだけど……ビリアーノ様の行動が従姉妹の体調不良によるものというのが広まっているの。目撃者が多い場所であの方はあなたを理由にして、すぐに予定を切り上げたり、来なかったりしたものだから……」
「そ、そうなんですか?」
私が思っているよりもずっと、ビリ兄様はやらかしているらしい。貴族同士の婚約者でおでかけとなると、それこそ貴族たちがよくいる場所に赴くだろう。私は身体が弱いから、婚約者の一人も作れていない。そもそも大きくなれば楽になるだろうとは言われていても、本当に健康体になるか定かじゃないから。
従兄弟は婚約者とのお出かけの際に私を理由に去ったりしていたらしい。最悪だ。
「だから……あなたのことが悪く噂されてしまっているわ。ビリアーノ様が婚約者として問題だという噂は当然だけど、クルアさんまで悪く言われるのは私も望んでいないの」
「……それは困りますね」
今はともかくとして、そのうち私も婚約者を探そうとは両親とも話していた。それなのに、従兄弟のせいで悪評が広まっているなんて困る。
「そうよね……。私の方でもクルアさんが悪くないということは正しく伝えるわ。もしビリアーノ様と婚約解消することになってもならなくても、クルアさんのことは正しく伝えるから」
「ありがとうございます!」
やっぱりデライナ様は良い方だなと私はほっとした。
――それから私はデライナ様と仲良くなった。
お医者さんや魔法使いの方を連れてきてくれて、私の体調がよくなるようにと動いてくださった。
デライナ様はビリ兄様と婚約解消したらしい。あと、ビリ兄様の所業は伯父様達に正しく伝えられて、謹慎させられているそうだ。私のことが悪く広まっているというのも伯父様は怒っているらしい。伯父様は妹である私のお母様のことをとても可愛がっている。
だからお母様にそっくりな私のことも大好きだ。よく贈り物ももらう。
「クルアさん、私は隣国に行こうと思うからあなたも一緒に行かない?」
そう言って誘われたのは、デライナ様と出会って数か月たったある日のことだった。
「隣国?」
「ええ。私はビリアーノ様に非があるとはいえ婚約解消された令嬢として見られるの。だから噂の出回っていない他国に行こうと思って。クルアさんの身体は、調べた限り隣国の魔力の方が合いそうなの。だから一緒に行ってくださらないかなと思って。私も……一人で他国に行くのは少し不安なの」
デライナ様は私に向ってそう言った。
予想外の言葉に驚いた。
考えてみる。確かにデライナ様は婚約解消して、少しだけ腫物のように扱われてしまうだろう。幾らビリ兄様が悪いとはいえ、そんな噂をする人は居るのだ。
それに私だって、貴族の婚約を解消に至らせた令嬢だと噂はされるだろう。どれだけデライナ様達が違うと言ったとしても……。
空気中を漂う魔力は場所によって性質が異なる。魔法使いの方々が調べてくれたことによると、確かに私の身体は他国の方が合うらしいと言っていた。
「行きたい……とは思いますけれど、私の家はそんなお金がないから……」
行きたいのは確かだけど、行くとなるとデライナ様に迷惑をかけることになってしまう。
「もしあなたが行くなら侯爵家が費用を持つといっていたわ」
「……そうなのですね」
「あなたの家が親族の侯爵家に寄りかからないようにしていることは知っているけれど、たまには甘えてもいいと思うわ」
デライナ様にはそう言われてしまった。
確かに私達一家は、従兄弟の家である侯爵家から補助を受けすぎないようにしようとは思っていた。だって甘え過ぎたら家のためにもならないもの。
……でもいいのかな。
「侯爵家もあなたの身体が良くなることを望んでいるわ。どうしてもというのならば私の家から費用を貸出する形にも出来るわ。って、こんなに必死になってごめんなさいね。私はクルアさんと一緒に行きたいの」
必死な様子でそう言われたら、結局私は断れなかった。
――そうして私は、デライナ様と一緒に他国へ向かった。
それから一年後。
「デライナ姉様! 見てください、私の魔法、どうですか?」
私はデライナ様のことをデライナ姉様と呼ぶぐらいには仲良くなった。ちなみにすっかり身体の調子も良くなっていた。やっぱり隣国の魔力の方が私の身体に合っていたみたい。
それから私は持ち前の魔力を使って、魔法を学び始めたのだ。
「とても素晴らしいわ。クルアは凄いわね」
デライナ姉様はそう言って笑ってくれて、嬉しかった。
「デライナ姉様に褒められると、頑張ってきた甲斐があるわ。デライナ姉様はこれからデート?」
「ええ。そうよ」
デライナ姉様には新しい婚約者が出来ていた。隣国の魔法使いの方で、私の魔法の先生でもある。
デライナ姉様が幸せそうで私も嬉しい。
ちなみに私にも婚約者が出来た。この国の騎士の方!
祖国に居た頃は、身体が弱くてなかなか起き上がれない日も続いた。有り余る魔力が私をむしばんで、思うようにならないことばかりだった。
そして私の元へ押しかけてくる従兄弟に困惑して、どうするべきか悩んでいた。
デライナ姉様に会わなかったらどうなっていただろうか。どうすることも出来なかったのだろう。
あのまま私は従兄弟の婚約を解消させた令嬢として、悪評が広まっていたかもしれない。
だから、デライナ姉様に出会えてよかった。この隣国に来られて良かったと私は思ってならなかった。
……従兄弟は、祖国で大変らしいけれど。まぁ、それは自業自得よね。婚約者を大切にしなかったのが悪いんだもん。そう思っているので、私達に会いたいというビリ兄様からの手紙は全部断っている。
そうして私とデライナ姉様は、隣国で楽しく生きているのだった。
勢いで書いた短編です。よくある病弱系の女の子が常識人だったら的な話です。よくある系統のものをひねるのが好きなので、急に書きたくなりました。
クルア
男爵令嬢。魔力が多すぎで身体が弱い。見た目は小動物系。庇護欲を誘う。
いつも従兄弟が寝たいのに押しかけてきて困っていた。従兄弟の婚約者と仲良くなり、そのまま婚約解消後も一緒に隣国へ。今は幸せに暮らしている。動けなかった分、身体が丈夫になってからは魔法を習ったり、身体を動かしたりかなりお転婆に過ごしている。
デライナ
伯爵令嬢。クルアの従兄弟の婚約者だった。婚約者が毎回、病弱な従姉妹を理由に約束をすっぽかしたりいなくなったりするためモヤモヤしていた。
実際にクルアに会うと本当に具合が悪そうで、婚約者のせいで悪評が立っていることにどうにかしなければ!と思い、行動。
隣国に行く際にクルアも誘ったのは、仲良くなりたいと思ったから。一年経って、すっかり実の妹のように可愛がっている。
ビリアーノ
侯爵子息。三男。クルアの従兄弟。クルアのことを可愛がっているのは本当だが、本人の迷惑を考えずに押しかけていた。婚約者への扱いもひどく、婚約解消後相手が見つからない。
従姉妹と元婚約者に会いに行こうとして、拒否されている。両親や兄達に滅茶苦茶怒られて猛省はしている。ただし「クルアのことを思って行動しただけなのに」と自分の悪いところを理解出来ていない部分もある。
お兄様
クルアの兄。男爵子息。シスコン。従兄弟が具合の悪い妹の元へ押しかけるため、いつも追い返していた。ビリアーノのことは好きじゃない。時々隣国に遊びに来ては元気になったクルアを見て、幸せそうな顔をしている。




