8話 名案
沈黙が続く。
「あ!」
学長は何かを思いついたかのような顔をした。
「その子、零式に世話してもらうのはどうやろか?」
……この人は何を言っているのだろうか。
零式を世話するように言ったのあなたですが?
「どういうことですか?」
「そのまんまや。」
「零式とその子を相互監視にするってわけよ。」
この人、無茶苦茶なことを言ってることにいつ気がつくのだろうか。それが出来るのならとうの昔にやってる。
「無理ですよ。」
「何度か試みましたが、全て失敗に終わりましたからね。」
「わかっとるよ。」
「別に何も考えずに言ったわけちゃうで。」
「零式は力を貸すことを拒否したんやろ。」
そうである。零式は自身の式を貸すことを拒んでいる。
理由は、零式が力を貸したことによって、数名の生徒が原因不明の事故で亡くなっているからである。
「あの人は頑固ですよ。」
「一回決めたことは曲げないと思います。」
「そうやね。」
「だから、零式自体をその子の近くに置いとくわけや。」
「零式がいれば、その子に取り憑いた式霊を倒すなり出来るはずやろ。」
「それに、零式は人の話を聞かないようなわがまま姫やないはずや。」
確かに。零式は普段、わがままではあるが、戦闘時以外は人の話をしっかりと聞く。僕以外の監視する人間の指示もしっかり聞いていたみたいだし。
「とはいえ、相手は学生ですよ?」
「零式とも会ったことあるわけじゃないし……」
「まぁ、そこは君が上手くやってちょうだいな。」
仕事がまたひとつ増える予感。仕方ないか……
「……二人の相性が悪かったらどうする気ですか?」
「その時はその時よ。」
「切り札はあるの。」
「切り札って?」
この人、たまにすごい秘密とか持ってるから怖いのよ。
僕もひとつ弱みを握られている。全宇宙に一つしかない、学園所有の武器を一度壊したことがある。なんとか修理できたそうだが、その時に掛かった修理費数十億を学園で払ってもらった。なにかまずいことしたらその修理費全額請求されるらしい。式等級零式の式霊を数体討伐してやっと稼げるくらいなので、かなりやばい借金を背負う可能性がある。
「零式のお世話代ってどこから出てると思う?」
察した。もはや人じゃないよ、やってること。
「詳しい額は知らないですが、学園ですよね。」
「Exactly!」
「ちなみに白銀くんの修理費くらいもう使ってるよ。」
……あの子をここに連れてきて5年経ってないと思うんだけど。
「内訳って……」
「研究所のドアの修理費とかやね。」
「あとは大阪で暴れた時の色んなお金。」
もう色々察する。心当たりしかない……
「全額請求する気ですか?」
「そうやね。」
「まぁ、最後の切り札や。」
最後の切り札とはいえ、だいぶやってること酷いような……まぁ、数年でその額使い果たす零式も大概か。
懸念する点はいくつかあるけど、試してみる価値はあるのかもしれない。
零式が監視下にある理由は暴れると大勢の人間が危険にさらされる可能が高いからであるが、もうひとつ理由がある。暴れた際に止める人間が近くにいないと、静止するのに時間がかかるからだ。
「学校側としていいんですか……?」
「零式様も退屈しとるんやろ。」
「外出の許可が降りるんやで?」
「説得は必要だろうけど、あの方からして悪い話ではないと思うで。」
……明日、軽く零式に聞いてみようか。




