4話 海
解放されたと同時に、いたはずの図書室は海に変わった。
(式域……?!)
式域。現実世界とはかけ離れた亜空間を生み出すことができる式。
式を極めた者にのみ使うことができる、非常に強力な式。
式域の開放者は式域内で最も優位な位置に立つことができる。
「誰ですか……?」
「えっと……」
焦る。
式域は何回か遭遇したことはある。
焦っているのは式域を解放されたからじゃない。
ただ、直感でこの式域はマズイとわかる。
絶対に強い式霊がこの空間にいる。
大怪我じゃ済まない気がする。
焦る。
「君は式者なのかな?」
彼女は不思議そうな顔をする。
「やったことないです。」
「楽譜読めないし……」
多分、指揮者と勘違いをしているのだと思う。
ただ、式者という言葉を知らないのであれば、もっと思考がまとまらなくなる。
なぜ、これほどの式域を生み出すことができるのか。
どこで、どのように手に入れたのか。
もっと焦る。
「なぜ、周りを見渡しているんですか……?」
無意識に周囲を見渡していたらしい。
「綺麗な海だなと思ってね……」
言葉が出てこなかった。
やっとの思いで出てきたのがこの言葉だった。
「……見えているんですか?」
彼女は驚いた顔で言った。
「見えているよ。」
次第に彼女の顔色が悪くなる。
「……お願いします。」
「……見逃してください。」
「え?」
どういうことかと思って彼女の方を見た。
驚愕した。
驚愕と同時に戦闘体勢に入る。
彼女の背後にいたのは、おそらく式域の展開者。
黒いワンピースを着ている2mほどの背の高さがある式霊。
思考がすべてまとまる。
「話してもらえるかな?」
「見逃してもらえるのであれば……」
「場合によるかな。」
これほどの式霊を生かしておくことはできない。
ただ、この強力な式霊はこちらを睨んでいるが、攻撃をしようとする素振りは見せていない。
「この人は、私の恩人です。」
「見た目は怖いですけど……」
今の言葉で後ろの式霊は悲しそうな顔をした。
(感情がある……?)
感情を持つ式霊は珍しい。
「私が施設に来る前に住んでた家にいたオバケさんだと思います。」
「そう……」
これほどの式霊が一般家庭にいることはあり得ないはず。
いたのであれば、すでに討伐されている。
「何?」
式霊は高校生の耳にささやいた。
「ここに来た目的は何か聞いてって?」
話せるのか……
只者じゃないね。
「目的としては、その大きいお姉さんの討伐になるかな。」
と僕は伝えた。
次の刹那。
目の前に黒い拳が飛んできた。
敵意がないと思っていたから警戒を解いていた。
油断した。
重い一撃を喰らい、体が空を舞う。
追撃。
今の一瞬でわかった。
この式霊と戦うことは不可能。
2分もすれば殺されてもおかしくない。
「まあ……」
「話聞けよ……!」
3発目の打撃を防御する。
少し後ろに押されたところで、式霊は高校生の後ろに隠れた。
砂埃が舞う。
(砂浜だからすごい擦り傷が出来ちゃったな……)
全身を地面に叩きつけられたため、少し体を動かしただけでも全身に激痛が走る。
「だ、大丈夫ですか……?」
「どちらかというと大丈夫ではないかな……」
「少し座るよ。」
「お姉ちゃん!」
彼女は式霊に怒ったような口調で話しかけた。
式霊は驚いたような顔をした。それと同時に式霊からは先ほどまでの殺意を感じなくなった。
黒いワンピースを着た式霊は反省した子供の様な顔になった。




