16話 夜
私は寮のお風呂に来ていた。
時刻は22:30。
さすがに誰も来ていなかった。
「こんな広いのに、一人だと寂しいね……」
私は思わずひとりごとをこぼした。
「誰もいないから、みんなで入るか。」
零式さんが提案する。
「大丈夫ですか?それ。」
「バレないだろ。」
「それに私も入りたい。」
風呂場を金魚鉢にした零式さんは、しばらくお風呂に入っていないのだろう。
しかし、零式さんと会った時、特に異臭はしなかった。
「私も入っていいのか。」
「いいんじゃないか?」
「この時間に入るやつは見たことない。」
私の目の前にお姉ちゃんと零式さんが現れた。
「あったかいなぁ。」
「今までお風呂はどうしてたんですか?」
「普通にここに来てたぞ。」
なるほど。だから、この時間に入ってる人を見たことを知ってるのか。
ここには複数の浴槽がある。まるでお風呂屋のようだ。
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私達は寮のお風呂からあがり、零式さんの家に帰ってきた。夕方まで明るかった、この部屋は暗くなっていた。家の中の光が当たりを照らしていた。
家には布団が敷いてあった。枕元に紙が置かれていたので、拾い上げてみた。
「赤羽さんへ。」
「明日、目が覚めたら零式に僕を呼んでもらってね。」
裏面にはそう書かれていた。
私は寝る支度を済ませ、布団に入った。
「もう寝るのか?」
零式さんの声だった。
「疲れてしまったので……」
「でも、楽しかったです。」
思わず笑みがこぼれてしまった。
「楽しかったのなら良かったよ。」
「これからよろしく。」
零式さんは優しい声で言ってくれた。
三人とはいえ、複数人で話しながらお風呂に入ったのは数十年ぶりだった。楽しかった。
ただ、疲労感がすごい。色んな人と話したからだろうか。
そんなことを考えながら目を瞑った。
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目を開けると、いつもの海だった。上手くいったようだ。
仕組みは未だに理解できていないが、横になり目を瞑った状態で、お姉ちゃんを呼ぶと来ることが出来る世界。
お姉ちゃんが作り出してくれた、この世界には傘と椅子がたっていた。こんなのあったっけ?
何かが動いた様子だったので、ゆっくりと近づいてみた。
近づくにつれ、聞いたことがある声が聞こえた。
「麻希。」
椅子に横たわっていたのはお姉ちゃんだった。その隣の椅子には零式さんが横たわっていた。
「赤羽麻希?」
「寝れなかったのか?」
零式さんは漫画を読む手を止めて、私を見た。
「何となく、海が見たかっただけです。」
「そうか。」
「クロの隣のビーチチェアは使っていいぞ。」
お姉ちゃんのビーチチェア?は大きめに作られていた。
その隣に零式さんと同じくらいの大きさのビーチチェアが置かれていた。私が今日着ていた服と同じ色な気がする。
「お姉ちゃん。」
「いつから置いてたの?」
「今日。」
「零式が作ってくれた。」
「いい椅子だ。」
「気に入ってもらえてよかったよ。」
なんだか本当に仲良くなってるみたいで良かった。
私はお姉ちゃんの横にあるビーチチェアに横たわった。
普段とは違う眺めで、何となく新鮮な気分になるね。
「赤羽麻希。」
「麻希でいいです。」
「そうか。」
「寝なくて大丈夫なのか?」
「眠くなったら、すぐ寝ます。」
「お姉ちゃん以外の人と話すのは久々だから……」
「もう少し話したいって気分です。」
「そうか。」
「何を話したい?」
「どのような漫画を読んでいるのですか?」
「ラブコメディってジャンルの漫画。」
「恋愛のことはよく分からんが、読んでて気分がすごく良くなるから最近ハマってる。」
「読みたかったら、いつでも貸してやるよ。」
「なるほど……」
「他には?」
「バトル系はよく読むな。」
「かっこいいから気分があがる。」
どれも私があまり読んだことがないジャンルだった。
「ミステリーとかは……?」
「難しいからあまり読まない。」
……何となく悲しくなった気がする。
そんな会話を交わしていると、急に眠気が襲ってきた。
「寝るのか?」
「寝ます。」
「おやすみなさい。」




