14話 心の中の2人
「驚いたな……」
式者じゃない小娘の中にある世界に私は驚いていた。
おそらくあの子が言う、お姉ちゃんが生み出している世界なのだろう。
「しっかり砂だ。」
「水も冷たい。」
ここまで環境を精巧に再現した式域は初めて見た。
「……綺麗だな。」
思わず言葉を漏らしてしまう。ここまで綺麗な青い海はテレビや本でしか見たことがない。
「満足してもらえているようで良かった。」
気が付かなかった。
「どうしてそこまで式を隠したがる?」
「私が力を出すことで、麻希に迷惑がかかる。」
「だから隠している。」
優しいやつだ。ただ不思議な点もある。
「どうして、そこまでしてあの子を守りたいんだ?」
「私からしたら一人の子どもにしか見えないんだが。」
式霊はゆっくりと口を開いた。
「可哀想。」
「そう思ったからだ。」
「そうかい。」
「いじめでも受けてたのか?」
「そうだな。」
「親からも。」
本人がいないところではあまり深掘りできない話だな。
事情が分かったら深堀りする必要はないか……。
「この海は麻希に落ち着いてもらうために作った場所だ。」
式霊はゆっくりと私の近くに歩いてきた。
「……出ていった方がいいか?」
「いや……」
「好きにしてくれて構わない。」
「そうか。」
私は赤と白のビーチパラソルを作り、砂浜に刺した。
「日に焼けるのは嫌か?」
「あ、ダメだった?」
「真っ先に影になるものを作り出したから気になっただけだ。」
「別に置いてくれて構わない。」
「雰囲気が出るから置くだけだよ。」
なんというかよく分からんやつだ。
いつも不機嫌そうというか……式霊だしそんなもんか...
「じゃあ、お言葉に甘えて色々置くからな。」
「わかった。」
式霊は私から少し離れ、三角座りをした。
私はパラソルの他に、レジャーシートやビーチチェアを置いた。今度出かけた時は食べ物とか買っておこう。
私はビーチチェアに横になった。
「お望みの環境は整ったか?」
「果物とか飲み物があれば完成かな。」
「今はないから出せないけど……」
今使ったのは「創造式」。
私は他人の式をコピーし、自分のモノにすることもできる。この創造式もコピーしたものだ。
記憶の中にあるもので、細胞を持たないものは大体生み出すことが出来る式らしい。あ、式結晶は無理だよ。
「椅子が3つあるのは?」
「これから一緒に過ごすだろ。」
「仲良くすればわかることもあるはずだ。」
「使っていいのか……?」
「好きに使ってくれ。」
式霊は目を輝かせて嬉しそうな顔をした。こんな顔するんだな。なんだか子供みたいなやつだ。
式霊はビーチチェアに横になった。少し大きめに作ったからサイズは問題ない。良かった。
「私は零式って呼ばれている。」
「お前、名前は?」
「思い出せない。」
「ただ、麻希は私をお姉ちゃんと呼んでいる。」
「好きに呼んでくれて構わない。」
「そうかい。」
式霊には名前などないことが普通だから珍しくない。
ただ、名前を覚えていないと答えるのは珍しい。
「全体的に黒いし、クロって呼ぶよ。」
「まるで、ペットにつけるような名だな。」
「悪かったな。ネーミングセンスが無くて。」
「いや、名前をつけてくれて嬉しい。」
「ありがとう。」
嬉しいって感情があるんだな。
「零式。」
「私はお前からすれば倒される存在のはずだ。」
「なぜ倒さない?」
「理由ねぇ……」
「この体の持ち主が倒すのを拒んでるから。」
「あとは、この子とクロについて詳しく知りたい。」
「そんなところだよ。」
「そうか。」
「麻希はいい子だから……」
そういうとクロは静かになった。
「……寝たのか。」
クロが寝ると、私の耳に入る音は波の音だけになった。




