10話 黒い点
「麻希ちゃん。」
「電話がかかってきてるよ。」
一体誰からだろうか。
親とは何年も会っていないから、電話がかかってくるのは珍しい。
「すぐ行きます。」
「あいつじゃないか?」
「前来た銀髪の……」
この声はお姉ちゃんの声だ。
私の中にはもう一人の誰かがいる。
名前を知らないお姉ちゃん。本人は名前が無いって言ってたような気がする。
「お姉ちゃんが人を覚えるだなんて珍しいね。」
「ただの気まぐれよ。」
「悪いやつじゃなかったし……」
一昨日くらいにお姉ちゃんに殴られた学園関係者を名乗る男の人。そういえば、名前聞いてないや。
私は受話器を耳に当てた。
「はい、赤羽です。」
「赤羽さん?」
あの男性の声がした。
「以前の方ですよね?」
「お姉ちゃんが見える……」
「そうそう。」
「実は会ってほしい人がいるんだけど、空いてる日とかあるかな?」
「赤羽さんの都合がいい日ならいつでも大丈夫だよ。」
私に用事は特にない。起きている時の過ごし方は、毎日本を読むか学校に行くかのどちらかしかない。
「いつでも大丈夫です。」
「そう?」
「学校が終わったあととかでも大丈夫かな?」
「大丈夫です。」
そんなに急用なのかな?
「了解。」
「明日の夕方そっちに行くね。」
「あの……」
「名前を伺ってもいいですか?」
「明日会う人?」
確かに明日会う人もそうだけど……
先にこの方の名前を聞かないと、後々不便だよね……
「明日会う方も教えてほしいですが……」
「先にあなたの名前を教えていただきたいです。」
「え?!」
「名前言ってなかったっけ?」
「僕は白銀翔。明日会う人は零式だよ。」
零式……?
人の名前じゃないような気がするけど、まぁそこは明日わかるのかな。
……………………………………
……………………
…………
今日は白銀さんがいる学園に行く日だ。
何となく緊張していたのか、昨日は寝つきが悪かった。
「……昨日はあまり寝れなかったんだな。」
「わかる……?」
「何となく……わかる気がする。」
「安心しなよ。いざという時は私が守るから。」
お姉ちゃんの背中が大きく見えるような気がした。見えてないけど。
私の心の中には海が存在してる。記憶の中にある場所をお姉ちゃんが再現して生み出してくれたらしい。お姉ちゃんはいつもその海の世界にいる。
「麻希ちゃん。」
「誰かが来てるよ。」
「はい。すぐ行きます。」
お姉ちゃんと軽く会話をしていたら、白銀さんが来たようだ。
「お待たせしました。」
「ちょうど僕も来たところだよ。」
「それじゃあ行こうか。」
「あの。」
「学園ってどこにあるんですか?」
白銀先生は空に指を指した。
え?
「あの空を飛んでる黒いの見える?」
黒いの……?
あぁ、あれなら昔から気になっていた。
友達に言っても全く見えないと言われていた物体。
「白銀さんもあの黒い点が見えるんですか?」
「あぁ……そうか。」
「友達とかに話しても見えないって言われたでしょ。」
「そうです。」
「あの黒いのが今向かってる、空挺学園・式って学園だよ。」
「あそこは一般の人には見えないようにできてるんだ。」
え?どうやって見えないようにしてるの?
そもそもどうやって通うの?
空なんか飛べないですけど?
「……空を飛べないのですが、どのように通学すればいいのでしょうか?」
「大丈夫。」
「寮があるから。」
なるほど。
空は飛べなくても通学できることはわかった。
……今からどうやって行くの?
そんなことを考えながら歩いていると、白銀さんが足を止めた。
「ちょっと待ってね。」
そう言うと白銀さんは携帯を取りだし、電話を始めた。
今から会う人を呼んでいるのだろうか。
白銀さんの電話が終わると、目の前に蛍ほどの白く、弱い光が現れた。
突然、その光は強く発光し、私の目の前は真っ白になった。




