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【第5話】ドワーフ式リフォームと、涙の入浴介助


「ふぅ……この壁、今にも崩れそうだな」


優一は風呂場の石壁を指で押してみた。ギシ、と音がしてヒヤリとする。

設立以来、なんとか持ちこたえていたセカンドリーフの浴室。だが連日の使用でガタがきていた。


「そんなもん、ワシが直してやるわい!」


そう豪語したのは、入居者のゴルム。元・鍛冶職人にして、頑固一徹のドワーフじいさん。

彼は工具を片手に、古い石材を削り、風呂釜の底まで修繕しはじめた。


「タイルなんて洒落たもんはないがな、耐火粘土と火蜥蜴の灰で充分じゃ!」


優一が口出す暇もなく、翌日には頑丈なドワーフ式風呂が完成していた。


「やるじゃん、ゴルムさん!」


「ふん、ワシの仕事じゃけぇの」


だが、事件はその夜に起こった――


「……うう、手がすべって……」


浴槽の中で、ミルダが倒れていた。


優一が慌てて駆けつけ、両脇を抱えて起こす。滑る石の上、支えるのも一苦労だ。


「大丈夫ですか!? どこか痛めてません?」


「……いや、なんともないが……情けないのう……」


ミルダは震える声で言った。


「……ワシは、もう“自分で入る”ことすらできんのか……」


その言葉に、優一は何も言えなかった。


夜。施設のベンチで、優一はうなだれていた。


(もし自分が風呂場にいなかったら……)


(夜中に誰かが転んでも、誰にも気づけないかもしれない)


たった一人で、見守り・食事・掃除・入浴・記録……全部こなすのは無理がある。

疲れは溜まり、夜も浅くしか眠れない。


(現実の施設だって、夜勤と日勤は分けてシフトを組んでた。それを今、全部1人で回してる……)


自分の限界が、静かに迫っていた。


翌朝、ミルダがぽつりとつぶやく。


「のう、優一……“職員”は増やせんのか?」


「えっ?」


「ワシも昔、弟子を育てた身じゃ。最初は頼りなくとも、続けりゃなんとかなるもんじゃ」


ゴルムも頷いた。


「村には職のない若いのが多い。あんたのとこで働けるなら、食いっぱぐれも減る」


「教えりゃ育つさ。“介護”がどんな仕事か、広めりゃええ」


その言葉に、優一の背筋がピンと伸びた。


(――そうか。俺は、また“チーム”を作ればいいんだ)


現代でも、どれだけ優れた介護士でも、1人では限界がある。

だからこそ、仲間と支え合ってきた。

それはこの世界でも、きっと同じ。


「……やってみるか」


優一は立ち上がり、村の掲示板に向かって歩き出す。


掲示板に貼った紙には、こう書かれていた。


「職員募集! セカンドリーフでは、仲間を求めています」


【仕事内容】:お年寄りのお手伝い(掃除、話し相手、お風呂の手伝いなど)

【条件】:年齢・種族不問! やさしさと思いやりがあればOK!

【特典】:まかない付き・魔法学べます・モテるかも?


張り終えた優一は、ちょっとだけ笑った。


(さて、どんな奴が来るかな……)


次回:「職員、求む!異世界はたらき口案内」

やって来たのは問題児ばかり!?優一、まさかの採用面接地獄へ!



第5話までお読みいただきありがとうございます。

今回は、介護の現場でもとても大切な“チームで支える”ということを、

異世界らしい要素を交えながら描いてみました。


介護はひとりではできません。

職員同士、地域の人、時には利用者さん自身も含めて、

支える側もまた、支えられているのだと実感する場面がたくさんあります。


そんな“助け合いの循環”が、この世界の中でも自然に根付いていけば――

それこそが、本当の福祉の始まりなのかもしれません。


それでは次回も、少し不思議で優しい日々をお届けできたらと思います。どうぞお楽しみに!

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