【第4話】夢の中の声と、転移の痕跡
「……目を覚ましてください。あなたには、“役割”があるのです……」
誰かの声が聞こえる。遠く、やさしく、でも確かに呼んでいた。
「――優一さん」
ぱちりと目を開けると、そこはセカンドリーフの一室。
朝日が差し込み、スライムの長老が枕元でとろけていた。
「ぐるぅ……(寝言がうるさかった)」
「……悪かったな」
優一は額をぬぐった。冷や汗でびっしょりだった。
(夢……? いや、あれは……)
声は確かに自分の名前を呼んでいた。現実とは違う、“どこか別の場所”にいたような感覚だけが残っている。
その日、施設の裏庭を整備していると、地中から黒くこげた“何か”が出てきた。
「ん……? これ、金属片?」
取り上げてみると、それは見覚えのあるプレートだった。
【カンダ・ユウイチ】
名札。介護施設で使っていた職員証の一部だった。
「……これ、なんでこんなところに……?」
まるで、ここに“自分が落ちてきた”証拠のようだった。
(やっぱり、ただの事故じゃないのか?)
その夜、また夢を見た。
暗闇の中、白い服を着た少女が立っていた。目元は霞んで見えない。
「優一さん。あなたは、この世界に選ばれたのです。
ここで、誰かを“救う”ために――」
「選ばれた? なんで俺が……」
「それを、あなた自身が思い出す日が来ます」
そう言い残して、少女は霧の中に消えていった。
翌朝、ミルダがふと口にした。
「優一、顔色が悪いぞい。夢でも見たか?」
「……変な夢をね」
「おぬし、時折“この世界に来るべくして来た者”の顔をしとる」
「どんな顔だよそれ……」
「ワシも昔、“異なる地から来た者”に会ったことがある。数百年前じゃが……」
「えっ、それ本当!?」
ミルダは思い出すように目を細めた。
「そやつも、なんか“使命”とか言うてたのう。結局、何を成したかは知らんが……
ただ、誰かのために動いとった。それだけは覚えとる」
優一は、その言葉を胸に刻む。
(俺は何のためにここに来た? 誰かを救えって、誰を?)
今のところ、自分ができるのは――
「はい、ゴルムさん。今日もマッサージしながら関節の運動しますよー」
「おお、たのむぞい。あとでおむつの試作品もチェックせにゃな!」
――目の前の誰かを、笑わせて、安心させることだけだ。
それがいつか、何か大きな“意味”につながるのだとしたら。
夜、優一は再び名札の欠片を手にとった。
(俺が来た理由……この世界が教えてくれるのを、待ってみるか)
名札の裏には、かすれたマジックでこう書かれていた。
「誰かの“その先”を照らせ」
それが、現場の誰かがくれた言葉だったのか、あるいは――。
次回:「ドワーフ式リフォームと、涙の入浴介助」
改修工事中に大事件!?そして、優一が“介護の原点”に立ち返る感動の一夜!
第4話までお読みいただき、ありがとうございます。
少しずつ、利用者さんと職員たちの“心の距離”が近づいていく様子を描いてみました。
介護という仕事は、ただ「お世話をする」だけではありません。
ときには寄り添い、ときには踏み込みすぎず、
相手の“心のライン”を見極める繊細な関係づくりが必要です。
一人ひとりに向き合うことの難しさと、その先にある小さな信頼。
そんな日常の断片を、物語の中でも大切に描いていけたらと思っています。
次回もまた、ちょっと不器用だけど優しい時間をお届けできたら嬉しいです。