【第2話】魔法のおむつでトラブル解決!
「うぅ……そ、そなた……何とかしてくれぇぇぇ!」
朝一番、施設に鳴り響いた悲鳴。
駆けつけた優一が見たもの――それはミルダが魔導士のローブのまま床にへたりこみ、顔を真っ赤にしていた。
「……漏らした……」
瞬間、施設内に立ちこめる“異臭の魔法”。
「大丈夫です! すぐに片付けましょうね!」
優一は慌てず騒がず、消臭草と雑巾を取り出し、手際よく清掃を始める。ミルダはその姿を見て目を潤ませた。
「……こんなこと、昔はなかったのに……」
「昔はみんなできてたんです。年を重ねるって、そういうことですから」
この事件をきっかけに、優一は施設の重大な課題に気づいた。
(この世界、おむつ文化がない)
このままでは毎日が“漏れとの戦い”になる。
「よし、作るしかないな。異世界用・魔法おむつ」
素材は地元のスライム皮。伸縮性があり吸水力も高い。
中に小さく砕いた“水吸い草”を詰め、布で包む。固定にはトゥリルおばあちゃんがくれた“くっつき魔糸”を使用。
「問題はにおいと処理……どうするか……」
そこで優一は、村の神官から古びた魔法石をもらう。触れた対象の匂いを1時間だけ消す「簡易浄化石」だ。
「うおっ、すごっ。スライム汁の匂いも消える!」
試作品は上々。優一は自ら“実演試着”までして村の広場に立った。
「見てください! 履き心地抜群! 臭いません! しかも魔法対応!」
集まった村人たちは、半信半疑ながら興味津々。
「えっ、それで本当に…“出して”も……?」
「もちろん! こちらをご覧ください、“使用後”も快適!」
(※スライムの模型を使ったデモ)
場がどよめく中、一人の男が手を挙げた。
「……ワシ、試してみようかのう……」
それはゴルム。ミルダと同じく高齢のドワーフ。
かつて一流の鍛冶職人だったが、今は杖なしでは歩けない。
「……夜中に何度も起きてな、眠れん日が続いておってな……漏らすのも、もう嫌で……」
その夜、ゴルムは試作品を使って眠った。
翌朝――
「……朝までぐっすり眠れた……こんなこと、何年ぶりじゃろうな」
彼は笑っていた。しかも「改良点を伝えたい」と言って、魔法おむつに金属製の止め具を提案してきた。
「これは発明になるぞ。ワシも手伝わせい!」
優一は思った。
(この人たち、自分の役割をもう一度持ちたいんだ)
その後、優一は「セカンドリーフ福祉工房」を作り、入居者と一緒に魔法おむつの量産を始めた。
初めて自分の価値を再確認したミルダとゴルムは、利用者から“職員”へと変わり始める。
もちろん、おむつの宣伝文句はこうだ。
「恥ずかしさゼロ! 魔法の吸収力で、今日も快適! 異世界型・超安心おむつ!」
こうしてまたひとつ、優一はこの世界で“誰かの居場所”を作ることに成功したのだった。
次回:「銀の葉と、介護のお値段」
異世界にだって金はかかる!?優一、ついに“お金問題”にぶち当たる!
2話では、介護の中でもとくに繊細な「おむつ介助」をテーマにしました。
現場では、単なる“身体介助”ではなく、相手のプライドや感情にも向き合うとても大切なケアのひとつです。
利用者さんの尊厳をどう守るか。
僕自身、日々考えながら働いています。
そんな“ほんの一場面”を、物語の中で描いていけたらと思っています。