君に贈る貯金箱
私の想いを形にするため、今日から少しずつ貯めていくことにした。
貯めるのは貯金箱。
大きいのがよかったけど、何より時間がかかるから、大きすぎず、小さすぎず、ちょうどいい感じのサイズを選んだ。
毎日は貯められない。
よくて週に1回。忘れたりいろいろあると月に2回くらいになることもあった。
それでもちょっとずつ、ちょっとずつ、コツコツコツコツ貯めていった。
持ち上げて軽く振ると貯まっているのがよくわかる。
ホントにちょっとずつだけど、それでも貯まっていくものは貯まっていくのだ。
努力が形になるのはうれしいものだ。
貯まっていくにつれて私の想いも、気持ちも募っていく。
このままだと、私が私を止められなくなるかもしれない。
ちょっと怖い。
私が私を止められないって、私が私じゃなくなるみたいだ。
そのときがきたら、私は私じゃない私に乗っ取られて、私じゃない私が望むままに行動して、私はそれをそばで見てるだけなんだろう。
なんだか、私じゃない私がかわいそう。
望むままに行動してるのに、その行動は誰かに強制されてるみたいじゃないか。
そうだ。そうなったら、私は私じゃない私を慰めてあげよう。
あなたは私だけど私じゃなくて。
気持ちもわかるけどわからなくて。
でも、だから一緒に泣いてあげられる。
大丈夫。私もあなた、あなたも私。
ひとりのようでひとりじゃない。
私じゃない私を私は受け入れよう。
それはきっと私じゃないとできないし、私がするべきことなんだと思うから。
でも、考えたら、貯金箱に貯まった私の気持ちはある意味、私じゃない私なのかもしれない。
私の思いであり気持ちでもある貯められたあなた。
あなたをいつかあの人に渡したいって思ってる。
あなたはきっとよろこぶはず。
でも、あの人はよろこんでくれる?
あなたはあの人をよろこばすことができる?
私は自信がなくなってきた。
いや、怖くなってきた。
想いを伝えることが怖くなってきた。
あなたを誰かに見せることが怖い。
あなたは私。
私の想い、私の気持ち。
なんて思いながらもコツコツコツコツ貯め続けた。
とうとうそれは貯金箱いっぱいになった。
これを私はあの人に?
怖い。
まだ怖さがある。
伝えたい気持ちもあるのに、それ以上に怖さがある。
私に必要なのは勇気。
そうか、勇気なんだ。
勇気があれば?
勇気、出るに決まってる。
だって、あなたがいるから。
あなたは私。
私の想い、私の気持ち。
そう思うと、少し気持ちが軽くなった。
あなたが少し持ってくれてるのかな。
そんなあなたをあの人に贈ろう。
私の想い、私の気持ち、
私の爪の詰まった貯金箱。
〜 * 〜 * 〜 * 〜
あなたをあの人に渡すことができた。
よかった。
さらによかったのは、あの人がよろこんでくれたことだ。
あの人は私の爪をすり潰し、煎じて毎朝飲んでいるみたい。
私の渡した貯金箱はあの人に渡って茶筒になったみたい。
……いやいやいや、煎じて飲むのは爪じゃなくて爪の垢よ?
【割れ鍋に綴じ蓋】というお話