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テラ・ニューライト

大魔女テラ・ニューライトの朝は早い。

早朝。日が昇る少し前のまだ少し暗い時間帯。

私はこの時間帯に目を覚まし、素早く着替えて執務室へ向かう。


朝早くに私用を済ませなければ、午前中は忙しいため、この朝の時間はとても貴重。

着替えを終えた私は執務室にやってくると、まずはマリーに教える魔法についてメモを作っておく。

マリーに魔法を教えるのは私の公務とは別。

こういう隙間時間に済ませておくべきものだ。


次は各地に隠している術式の点検だ。

遠見の魔法で魔法の中心から確認をはじめ、数百ある術式をひとつずつ調べていく。

一つでも不備が見つかれば、全部の術式を見直さなければならない術式もあるため、面倒だけどやならないと他の魔女や魔術師に対する隙を与えてしまう。


本来魔法使いは、国を支配することがない。

自分の縄張りを守るためにその土地に様々な術やトラップを仕掛けて、自分以外が近付けない。或いは攻撃された時に相手を不利になるような仕掛けを施している。

国なんて支配すれば、国土全域にそれを張り巡らせる必要があるから、それだけでいっぱいいっぱいになって、結局縄張りを奪われる事がしばしば…

そんな面倒なことになるくらいなら、始めから少ない縄張りだけ支配していた方がいい。

というわけで、これだけ広い縄張りを持っているのは私くらい。


持っていたとしても、仲間や部下に各地域の支配を任せるのが普通。

個人でこれだけの縄張りを持つ私が異端なのだ。


「ふぅ…魔力補充もしておくか。前やったのは3日前だし」


私は特殊な術を使って私が持つ魔力を国中に散らす。

そして、各地に存在する魔力タンクに私の魔力を一杯になるまで注ぎ込むのだ。


この魔女王国では、私が作った魔導具が一般的に使用され、少し経済に余裕がある家庭なら一式揃えているという家計も珍しくない。

魔導具とは本来、魔法使いの間で使用される戦闘用や防衛用の道具ないし兵器なのだが…私はそれを家電に転用した。

理由は簡単、私が前世のような暮らしがしたいから。


……そう、私は俗に言う転生者というヤツ。

現代日本人の記憶を持つ、転生者だ。

自分が前世にどんな事をしていた人間だったかなんて、もうほとんど思い出せない。

覚えているのは自分の名前と家の形と家族の顔。そして、死んだ瞬間くらい。

別に人生が大成功したわけでも、それほど失敗した訳でもない、何でもない人生の事なんて自然と頭から抜け落ちていった。

忘れてはならない思い出なんて無いし、友達もいなかった私には家族の顔と家さえ覚えていれば、特に困りはしなかった。

それに、この世界に現代日本人の知識を持ち込めた事のほうが大事だ。


典型的な陰キャ――いや、無キャと呼ばれるタイプの人間だった私は、とにかく知識を欲していた。

様々な知識を得ることだけを生きがいにしていた私は、一般人であれば到底知る由もないような専門的な知識を幅広く持っていてる。


和洋中華風の料理の作り方。


工業農業電子産業に関する知識。


ラジオやテレビなどの家電から、車や電車、ひいては飛行船や飛行機等の設計図等の、人類の進歩と言える様々な知識を持っている。

…なぜそんな事を知ってるかって?

他にやることが無かったからさ。

部活もしていなければバイトもしていない、友達もいない、趣味もない、勉強もしない、行事にも興味がない。

とにかく暇を持て余していた私は、中学1年生から大学3年生に至るまでの9年間、ひたすらに知識を溜め込んだ。


…前世の記憶の殆どを無くしている原因は、そもそもハッキリとし思い出せるような思い出が無いからなのが原因だったりする。

決して、500年生きてボケたわけじゃない。


「おはようございまぁす…」

「おはよう、マリー。顔を洗って着替えてきなさい」


魔力タンクを満タンにしていると、マリーが目を覚ました。

眠そうな表情をし、髪はボサボサで、まだ意識の半分は夢の中にいるマリーに顔を洗うよう言う。


私の前を通り過ぎて台所へ行ったマリーは魔道具によって3階まで組み上げられた水で顔を洗っている事だろう。


「さて、私も公務の準備をしないとな」


マリーが顔を洗って目を覚まし、着替えたあとは朝食の時間。

それが終わればすぐに公務の時間になる。

今日は書類の処理をした後に砂糖園の視察があったはず。

魔力をタンクに送りながらは少しつかれるが…頑張らないと。


「マリー。今日は外出の予定がある。身嗜みは整えておきなさいよ」

「はぁ〜い…」

「まだダメか…」


マリーはまだ眠そうだ。

もう少しだけ待ってあげるとしよう。


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