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最初のお手伝い

早朝

私は耳もとで鳴っているベルの音を聞いて目を覚ました。


「おはよう、寝坊助さん。早速だけど3番のお茶を用意して。お菓子は要らないわ」

「ふぁい…ふぁぁぁ…」

「それが終わったらもう少し寝てもいいわよ。でも、7時には起きるように」


そう言って、魔女様は私の部屋を出て行った。

時刻は…まだ5時だ。

魔女様はこんなに朝早くから起きてるのか…


急いで身支度を最低限整えると、言われた通り3番お茶を入れる。

香りがどこかフルーツのようで、色の薄いお茶。

昨日見つけた前任者のメモを見ると、朝はオレンジを輪切りにしたものを乗せるといいらしい。


果物かごからオレンジを取り出し、薄い輪切りにして切り込みを入れ、カップのふちに付けてみる。

…なんかそれっぽい。


砂糖とミルクを用意して一緒に持っていくと、執務室の机で何かを書いている魔女様の前に置く。


「失礼します」

「うん、ありがとう」

「…魔女様は今何を?」


何をしているのか気になった私は勇気を出して魔女様に聞いてみた。


「これ?新しい教科書に載せるこの国の情報よ」


紙に書かれている内容は、確かに社会科で習ったものと同じ。

この国に関する情報が記されていた。


「教科書の原稿を貰って、載せていいものと駄目なものを私が添削するの。6年に一回は教科書を変えているんだけど…全教科を見ないといけないから大変なのよね」

「あの教科書…全部一度魔女様が目を通していたんですか…」


予習や復習で使った教科書は、全て魔女様の手が入っていて、相応しい内容が記されるようになっている。

魔女様の公務にはそんなものがあるのか…


魔女様の公務を見ていると、急に顔色を変えて真剣な表情を見せる。


「…マリー、仕事だ。ついてきなさい」

「え?」


魔女様は教科書の原稿を空間の穴に入れた。

そして、何かの魔法であっという間に着替えると、統治者としての豪華な服ではなく、魔女の服装へと早着替えした。


「これからもこう言ったことはよくある。絶対に尻込みするなよ?」

「は、はい…」


魔女様に連れられて館を歩き、外へ出る。

途中ですれ違う全てのメイドや召使、役人が頭を下げてきて違和感が凄かった。


…みんな私に頭を下げてるわけじゃないけど、なんというか…むずかゆい。


多くの人たちから頭を下げられることに慣れていない私は、猛烈な違和感を感じる。

そんな私を無視して進む魔女様は迷うことなく外へ出ると、近衛兵に誰かが囲まれていた。


「彼を放しなさい。私が対応する」

「魔女様!?」

「ですがこの者は…」

「私が対応すると言っているの。聞こえなかったかしら?」


魔女様が言葉を強めると、近衛兵はすぐに引き下がった。

そして、囲まれていた男がやってくる。


「いや~助かったよ。こんな所で足止めを食らうとはね」


男はヘラヘラした様子で、頭を搔きながらうすら笑いを浮かべている。

魔女様は嫌そうにしながらも男を館へ上げると、執務室へ連れて行く。


そして、お茶を用意しようとする私を止めて、男の話を聞き始めた。


「商売話を持ってきたんだ。ベルン公国が禁酒令を解除した。これであの国にも酒を売れるぜ」

「…中央諸国の国が禁酒令を解除したところで、私が儲かると思っているのか?」

「ああ。あの地方は昔から酒豪が多い。そして、暫く抑制されていた分、その反動は想像を絶するぞ?」


…そうかな?

中央諸国なんて、売りに行くだけで大変なはず。

仮にお酒の需要が爆発的に増えて、かなり売れたとしても…そこまでの長旅で赤字になりそう。


「帰れ。話にならん」

「ちょっ!?待ってく――」


魔女様は何かの魔法で男を包み込むと、窓が開いて何処かへ吹き飛んでいった。


「マリー。あの手の魔法使いは結構頻繁にやってくる。大抵がクソみたいな話だから、私が何か言わない限りお茶は出さなくていい」

「分かりました…」

「客に出すお茶は1番でいいわ。それか、私が出してほしいお茶の番号を言うから、それをお願い」


お客様への茶は1番。

それを覚えておけば、特別な時は魔女様が指示した番号のお茶を出せばいい。

意外と簡単だね。


「…しかし、禁酒令の解除ね…?一応、種は撒いておこうかしら?」

「種、ですか?」

「ええ。確か、ベルン公国には魔女の街があったはず」


魔女様は空間に穴を開けると、そこからいくつものお酒を取り出して、中身を確認している。


いくつかを飲み比べ、なにかを決めた魔女様は突然姿が搔き消えて私は目を見開いた。


「え?魔女様!?」


何処に消えたのか。

あれも魔法なのか。


混乱して正常に物事を考えられずに居ると、魔女様が帰ってきた。

それを見てホッとしていると、突然頭を撫でられる。


「いきなり消えてごめんなさい。こうやって転移魔法でものを取りに行く事があるから、そのうち慣れるわ」

「は、はい…」


転移魔法…

瞬間移動の魔法ってやつか。


いいなぁ…私もやりたいな?瞬間移動。


「さて…私は少しここを離れるけれど…あなたも付いてくる?」

「え?ええ?」


転移魔法の事を羨ましがっていると、魔女様がいきなり外出すると言い出した。


しかも、口ぶり的に一人でいくつもり。

護衛も召使も付けずに外出するなんて…


「わ、私も行きます!側付きですから!」

「そう。じゃあこっちにおいで」


魔女様は私を誘うと、私と手を繋いで魔法を使う。


転移魔法を使ったのか、一瞬司会が真っ白になり、浮遊感を感じた後に景色がまったく別のものに変わっていた。


豪華な執務室から、寂れた酒屋への移動。

落差が凄い…


「北西の魔女……こんな所にどんなご要件で?」


酒屋の奥から1人の女性が現れ、魔女様に対して礼儀正しい態度をとる。

この人も魔法使い…いや、魔女か。


「聞いたわよ。禁酒令が解かれたらしいじゃない。あなた、ニューライトのお酒はいかが?」


そう言って、空間の穴から大量のお酒を出現させる魔女様。


それを見て、酒屋の魔女は目を丸くして魔女様を凝視する。


「この酒……こんな高価なお酒を買えるほど、今お金は無いのだけれど…」

「今直ぐ払えとは言わないわ。売れたらその売上をくれればいいの」

「…売らなかったら?」

「私の読みが外れたって感じね。それはあげる」


酒場の魔女は訝し気に魔女様とお酒を交互に見る。


「まあ、大魔女様の願いとあらば、私に拒否権などありませんが…どういった風の吹き回しでこんな小銭稼ぎを?」

「小遣い稼ぎ?あなたが酒を仕入れればいいじゃない」

「魔法使いの誰もがあなたのように転移魔法を使えると思わないでもらえませんか?」


転移魔法でお酒を仕入れる。

でもそれはすべての魔法使いが出来る事ではないらしい。


だけど、魔女様は何か考えがあるご様子。


「この国には転移魔法が使える魔女が居るでしょう?彼女とは面識があるから、私の方から仲卸を頼もうか?」

「それなら…」


他の魔女に仲卸を頼んで、この国でお酒を売る。

…でも、立った一か所で売っても意味なんてないと思うけどなあ。


それこそ、この人が言っていたように小遣い稼ぎにしかならない。


「どうしたの?まだ不満?」

「…ここはあなたの住む北西とは違うのです。この街であなたの作る酒を売れば、聖教にこの隠れ家を嗅ぎ付けられる」


神聖教会…このアトランティットで信仰されている一大宗教で、魔法使いの天敵。

そんな聖教に目を付けられる恐れがある中で、私達の国のお酒は売れない。


この魔女はそう言っているのだ。


「じゃあ私の紋章をしれっと飾っておく?いっそ開き直って私の傘下ということにしておけば、聖教も手を出せないわ」

「それにどれほどの効果があるか……失礼、そちらにお座りになられてください」


酒屋の魔女は端の席に私達を案内すると、魔女様が用意したお酒を隠す。


その直後、酒屋に大勢の人が押し入ってきた。




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