シュガーハウス
支給された服に着替えた私は、魔女様に頭を撫でられ、可愛がられていた。
「似合ってるわよ。これからずっとその格好だから、頑張ってね?」
「はい……あの、この資料は?」
魔女様の机に置かれた紙の束を見て、私はそう質問する。
友達と接するよう、気軽にして欲しいと言われているので、簡単にそうやって聞いていいと思ったんだけど…大丈夫かな?
「これ?このシュガーハウスの全体図よ。あなたに覚えてもらおうと思って用意したのよ」
渡された紙は全部で12枚。
シュガーハウスは全4階で構成され、それぞれ中央棟、西棟、東棟の3つが4階分ある。
まあ…『棟』といっても全部つながってて、一つの建物なんだけどだけどね?
渡り廊下があるわけではなく、純粋に建物が大きすぎて地図が作れないため、こんな分け方をしてるんだろう。
……にしても、部屋多すぎない?
「私も詳しい部屋の数は覚えてないけど、色々なことに使うから何処に何があるかしっかり頭の中に入れてね?」
「が、頑張ります…!」
「いい調子よ。じゃあ部屋は後で覚えてもらうとして、次はこれね」
そう言って、魔女様は私と魔女様の部屋がある方向とは反対側の扉へ向かう。
その扉の向こうは台所になっていて、たくさんの調味料や香辛料、食材なんかが置かれていたり、お茶とお菓子があったりする。
…なんの部屋?
「ここは私が軽食を食べたいと思った時に、あなたが料理を作る部屋よ。お茶を飲みたいときにもお願いするから、私の執務室、自分の部屋の次くらいによく使うと思うわ」
ここで私が料理やお菓子を作って、お茶と一緒に魔女様に出す?
えっ?でもそれは…
「えっと…私、魔女様にお出しするような料理は作れませんよ?」
自炊ならできるけど、この国の長である魔女様にお出し出来るような料理は作れない。
とてもレベルが低すぎて、不釣り合いだ。
「別に料理の完成度はどうでもいいわ。美味しくて、簡単に食べられれば何でもいいの」
「ですが…」
「困ったら毎日料理長に作り置きさせればいいのよ。それを出してくれれば、こっちで勝手に温めて食べるから」
作り置きの料理を…あたためて食べる?
そういう魔法があるのかな?
私にはあまり想像できないね…
それがどんな様子なのか想像できずにいると、魔女様は私の目の前で手を降って意識を現実へ引き戻す。
そして、私を連れて奥の扉へ向かう。
廊下側の扉を指して口を開いた。
「こっちの扉は一般メイドや使用人が使うものよ。不足してる食材や調味料、お茶なんかを補充してくれるわ」
この軽食づくりの部屋に置かれているモノは、無くなればすぐに補充されるそうだ。
残量を気にせず使っていいって事だよね…?
今度は執務室がある方向を指さして話し始める魔女様。
「こっちは入ってきた時と同じよ。ただ、違うところがあるとすればこっちは来客用ってことかしらね?執務室に来客があるときは、こっちから出て客にお茶でも出してあげなさい。……もっとも、相手が私の机の目の前にいたら話は別だけど」
「は、はい…」
なるほど…同じ部屋へ繋がる扉が2つもあるのは、そういう
意味があったんだね。
「他の部屋については、使うときになったらほかのメイドと一緒にやって、時間をかけて覚えればいいから、今はこの三つだけ覚えなさい。あと他の部屋はこの全体図を見てどこにどんな部屋があるか一応頭に入れておいてね」
「はい」
「よろしい。早速だけど、お茶が飲みたいの。Eの17をお願いできる?」
「えっと…どうすれば…」
いきなりそんなことを言われても分からない。
魔女らしい悪意に満ちた笑みを見せる魔女様は、私を連れて台所に入るととある棚を指さす。
「ここに5つの棚があるでしょう?右からABCDEの棚で、お茶とお菓子の材料や、お菓子が入っているわ。Eの棚はクッキー。そして20種類あるお茶のうちの、17だからこれ。クッキーと17番のお茶を持ってきてくれたらいいの」
「は、はい」
「ちなみに、Aはトースト。私が食べったそうなジャムを塗ってくれればいい。Bはサンドイッチ。何を挟むかは任せるわ。Cはカップケーキよ。Dは日替わりでメイドたちが持ってくるケーキ。これが一番多いわ。それと、ケーキは一日で交換だから、夜になっても私が食べてなかったらあなたが食べてもいいわよ?どうせ翌朝の早くに他のメイドが食べるだけだから」
ケーキと言えば、お金持ちが食べるお菓子だ。
しかもこれ…その中でも一部の富裕層しか食べられないっていう、ショートケーキ!?
こんなものを毎日食べるなんて…流石は魔女様だ。
「これは後のお楽しみだから、その時になったら用意して」
今はクッキーの気分だという魔女様は、棚からクッキーを取り出すと、17番のお茶を水で作り始めた。
「あの…」
「ん?なんだ?」
「お茶を入れるときはおるを使われた方が…」
「あ~…そうだな、あなたが作るときはそうして頂戴」
「え?」
意味が理解できず困惑していると、魔女様はどこからともなく杖を取り出すと、何かをした。
杖の先端とティーポットの中身が光ったかと思ったら、なんと湯気が立ち始めた。
これが魔法…
「さて、仕事に戻りましょう。私は執務室に居るから、何かあったらこのベルで呼ぶ。あなたは、このキッチンに何があるかを覚えて、どんなものが作れるか考えておきなさい」
「はい!」
「いい返事ねそのくらい元気がある方がいいわ」
そう言って、魔女様はクッキーとお茶をもって執務室へ戻っていった。