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新人専属メイド

あっという間に時間が流れ、学校を卒業した私は、推薦状をもって豪華な迎えの馬車に乗せられて旅をすること一週間。


ようやく目的地近くまでやってきた私は、護衛の人や御者さんの許可を貰って外の席に座っていた。


「あれが魔女様が住むこの国の首都…ホワイトシュガータウンかぁ」


眼前に広がる光景は、今見えている範囲だけで私の知るどの街よりも美しく、壮大で、煌びやかな都だった。

『白亜の町』『砂糖の町』と称されるだけあって建築物は白を基調としたものばかりで、立派な庭や生け垣が太陽の光の反射でまぶしく感じて今うことを抑えている。


街の中へ入ると、煉瓦で舗装された滑らかな赤い道路がまっすぐ続いている。

その突き当りは、ここからでもその大きさが分かるほどの、大きな豪邸がある。


「あれがシュガーハウスですか?」

「そうだ。魔女様がお住まいになられている館、シュガーハウスだ」


私が居た学校の何倍もの大きさを持ち、敷地面積は小さな町のそれに匹敵するといわれる大豪邸。

馬車が進み、近づくほどにその大きさに驚かされる。


大きな金属の門が開かれ、館の入り口の目の前にやってきた私は、この館で働いているメイドに連れられて中へ入った。


「うわぁ~…」


中はまさに豪華絢爛という言葉が似合う様相で、学校の校長室が貧民のあばら家に思える。どこまでも続く明るい赤のカーペットに、シミ一つない美しい壁。

柱にはその一つ一つに装飾がなされ、それを剝がして売るだけでしばらくは遊べそうだ。


天井を見上げれば、常に光を放つシャンデリアが等間隔に配置され、廊下でさえ外のように明るい。

いたるところに隅々まで装飾が施された机と、その上に美しい花が挿してある花瓶が置かれ、廊下を賑わせている。


そんな光景に圧倒され、時間があっという間に過ぎていく中で私はいつの間にかある部屋に案内されていた。


「私の案内はここまでです。くれぐれも、魔女様にご無礼の無いように」


そう言って、メイドはくるっと180度回転すると、スタスタと歩いて行った。

私はそれを見送ると、深呼吸をして緊張を少しでもほぐし、ドアをノックする。


「し、失礼します!」


慎重にドアを開けて、部屋の中の人物に挨拶をすると、私も中に入る。


「ろ、ローズマリーです。えー…お会いできて光栄です、魔女様」


こういう時、どんなことを言えばいいのか分からない私は、とりあえず本で読んだそれっぽい事を言ってなとかする。


すると、さっきまで外を見ていた女性が振り返り、私の顔を見つめる。


「待っていたよ、マリー。ようこそ、シュガーハウスへ」


そう、優しく語り掛けてくる魔女様。


身長は私よりも遥かに高く、高身長な男子生徒と同じくらいはあるだろうか?

肩にかかる長い髪は黒曜石のような艶めきを持つ漆黒で、瞳は暗いブラウン。


もの和らげで、大人な空気を漂わせる優しい顔の女性こそが、これから私が仕える主。

大魔女『テラ・ニューライト』様だ。


「私はこの国の支配者だけど…身近な人間まで堅苦しくなるのはキライなの。友達に接するように、気を抜いてくれていいわ」

「ですが…」

「今すぐそうしろとは言わない。それよりも、先にやってほしいことがあるの」


そう言って、魔女様は私を手招きで呼ぶと、部屋の奥にある2つの扉の1つに案内した。


「こっちは専属メイド用の部屋。ここはあなたの部屋だから、どんな風に使ってくれてもいいわ。寝室としても、仕事部屋てしても、或いは訓練部屋としても使ってくれて良い。なにか必要なものがあれば好きなだけ言いなさい」

「は、はい…」


私のための部屋?

しかも、必要なものは全て用意する…


専属メイドは…そこまで待遇がいいのか。


「この部屋は特殊でね。隣の私の執務室の音がよく聞こえるようになっている。なにか用事があれば、私がベルを鳴らすわ。そうしたら、どんな時でもそこから出て来て、私の指示に従いなさい」

「はい」

「夜中に呼び出すこともあれば、早朝に呼び出すこともある。お昼寝の時間や、お昼ご飯の時間だって呼ぶかも知れないから、いつ呼ぼれてもいいよう、休めるときにしっかり休むことね」


……なるほど、ちょっとした用事から、大切な用事まで。

色んな時に呼び出すから、常に側で待機させるための休憩部屋って事か。

夜中にも呼び出すって事は、多分この部屋は寝室になりそう。


「ちなみにだけど…もう一つの扉の向こうは私の部屋だから。そこにドアがあるでしょ?私の部屋に居る時も呼ぶかも知れないから、ちゃんと起きられるようにね?」

「えっと…どんな時にお呼びになられますか?」


今のところ、いつ呼び出されるかわからない。

そして、多分だけど魔女様の身の回りのことを、一番近くで支える仕事だ。


それはつまり…年中無休、24時間労働ということでわ?


「そうね。…日中と夕方が多いかしらね?その時間はしっかりとベルに気付けるようにね?」

「は、はい…」


なるほど…その時間は絶対に寝ないようにしないと。


もし寝ちゃってて、仕事ができなかったら大変だ。

……だけど―――


「あの…お休みはどれくらいありますか?」


仕事の内容は置いておくとして…問題は勤務日数と時間だ。


先生も言ってた、就職先の勤務日数と時間はしっかり見ておけって。

専属メイドはどうだろう?

少しでも休みがあればいいんだけど…


「残念だけど、年中無休よ。勤務時間も……まあ、ほぼ1日中ね。夜中に起こすこともあるから、休みなんて無いと思ったほうがいいわ」

「は、ははっ…そ、そうなんですか……」


やばい…職場環境がやばすぎる。

私…これからやっていけるんだろうか?


まだ仕事が始まってもいないのに、私はあまりにも過酷なことを想像して、ここへ来た時のワクワクが全て消し飛んでしまった。

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