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晩餐会

私はこのシュガーハウスのベッドが好きだ。

ふかふかの柔らかいベッドは、私の体を優しく受け止めてくれる。

少し重たいくらいの毛布に包まれれば、まるで雲の中で寝ているかのような心地よさ。

何時間でも寝ることのできるこのベッドが、私は大好き。


「こら!いつまで寝るつもりなの!?」

「んん~…」

「いい加減起きなさい!」

「んん~!」


…ただ、その夢のような時間を壊す人が1人。

わたしが包まっている毛布を強引に剥ぎ取り、厳しい口調で私の事を叱ってくる。


「全く…いい歳してこんな起こされ方して」

「…プイッ」

「こら!」


もう少し寝ていたい私は、顔をベッドに埋めて抵抗すると、強く叱られた。

そして、体を掴まれて無理矢理起こされる。


「むぅ~…ベッドに戻してください…」

「駄目に決まってるでしょ?もう日が落ちかけてるのよ?」

「えっ?」


魔女様に言われて外を見てみると…確かに空がオレンジ色になりかけている。

驚いて魔女様の顔を見ると、どこか呆れた様子で私の事を見つめていた。


「全く…今日は晩餐会だから遅くまで寝ていても良いとは言ったけど…まさか夕方まで寝るとは思わなかったわ」

「その…日々の疲れが…」

「そうね。もう怒らないから、早く着替えなさい」


そう言って、魔女様は異空間から取り出した少し豪華なメイド服をベッドの上に置くと、私の部屋にある椅子に座った。

私が着替えるのを待ってくれているみたい。

…でも――


「その…見られていると恥ずかしいので…」

「はぁ…分かったわ」


魔女様にお願いして、部屋に一人にしてもらう。

後でしっかり謝らないと…











「お早いお戻りですね」

「そういう年頃なのよ。全く。かわいくて仕方ないわ」


執務室に戻ると、代理のメイドが皮肉を言ってきた。

彼女はマリーが来る前に私の専属メイドをしていた人間で、この道のプロだ。

…だからこそ、今のマリーの待遇が気に入らないらしい。


「お気に入りになるというのは、大切な事ですね。私なんて、魔女様よりも遅く起きただけで舌打ちをされたというのに…」

「…私、そんなに酷い事してたかしら?」

「ええ。機嫌の悪い日や、面倒なことがあった日の翌日などは…」

「それは悪かったわね。あなたには感謝してる」

「光栄です」


マリーの待遇は、今までの専属メイドからすれば異質そのもの。

私のお気に入りということで特別扱いされ、とても大切にされている。

彼女は、私の機嫌の悪い日は少し遅く起きただけで舌打ちされていたらしい。


わざわざ私の方から優しく起こしに行き、起きるまで待ってあげる。

とても、メイドが受ける待遇ではない。


まあ、その分お給料は多めに渡しているので、我慢してもらいたい所。

それに、マリーには一般メイドとそんなに変わらないくらいのお給料しか渡してないし…そういうところで差別化を図っている…ということにしよう。 


「晩餐会、ですか…」

「あら?行きたかったの?」

「いえ全く」

「即答ね。まあ、そうでしょう…」


彼女は晩餐会にいい思い出が無い。

行きたくないと思うのは当然だろう。

だからなのか、さっきまで厳しい目をしていた彼女の瞳が、哀れんでいるようにも見える。


そして、役割は終わったと言わんばかりに部屋から出ていこうとする。


「またご用事があればお呼びください。…もちろん、特別手当もお願いします」

「12年でずいぶん強かになったものね。昔はもっと可愛げがあったと言うのに…」

「人は変わるものですよ。12年という時間は、魔女様にとってあっという間にでも、私達にはあまりにも長い人生の一部ですので」

「そう…手当には色を付けておくわ」


そう言って彼女を送り出すと、私も準備をする。

マリーに、妙な虫が付かないようにするために、ね…?









魔女様に誘われてやって来た晩餐会。

そこは豪華なお屋敷で開かれる、魔法使い達の宴。

会場には数多くの魔法使いが集まっていて、皆お酒を手にワイワイ話している。

しかし、少し変なこともある。


「…誰も料理に手を付けていませんね?」

「そうね」


お酒を持っている人は沢山いるのに、誰も料理を食べていない。

いや、それどころか、お酒に手を付けている人もいない。

なんのための晩餐会なんだろうと思うような光景だ。


状況が飲み込めない私に、魔女様が小さな声で理由を教えてくれる。


「この屋敷の主がまだ来てないのよ」

「偉い人なんですか?」

「いや?そう言う伝統なだけ。屋敷の主が音頭を取ってからって、昔からのやり方」


魔女様は、私の分のジュースを用意すると、高そうなグラスにジュースを注いでくれた。


「もうすぐ来るでしょうし、もう少しだけ待ってあげて」

「はい」


果実のジュースを見つめてお腹が鳴りそうになったけど…何とか無事だった。

その事に安心していると、奥の方にある扉が開かれて背の低い中年の男性が現れた。


その男性は、魔法を使って声を大きく、響くようにしているのか、少し遠くに居るのによく聞こえる。


「お久しぶりですな、皆さん。今年も晩餐会を開催できたことをに、私は感激しております」


見た目のわりに澄んだ声の男性は、会場の真ん中に向かって歩く。


「今年も実りある晩餐会になるよう、どうか流血沙汰や危険な魔法の行使、会場に大きな影響を与える魔道具の使用はお控えください」


危険な魔法や大きな影響を与える魔道具…確かに、そんなものを使われると、晩餐会どころじゃないよね。

ひとり納得していると、会場の真ん中にその男性がやってくる。


「では、第129回の晩餐会を開会します!乾杯!」

『乾杯!』

「か、乾杯…?」


男性の音頭で会場のすべての魔法使いが乾杯をした。

魔女様も静かに乾杯していて、一口お酒をんでいる。


そしてすぐに、沢山の視線が集まるのを感じた。


「マリー。私は話す人が沢山居るから隣にはいられないけれど…晩餐会を楽しんでね?」

「えっ?」

「それと、何か貰ったらこのカバンに入れなさい。何があってもポケットに入れたり、手で持ったりしない事。髪飾りなんかのアクセサリーもよ」

「は、はい…」


そう言って、魔女様は私にカバンを渡すと何処かへ行ってしまった。

一人取り残されて固まっていると…


「失礼。いっぱいいかがかな?」


すぐに男性に声を掛けられた。



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