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魔術師

シュガーハウスに戻ってきた私と魔女様は、客人を迎える準備をしていた。


…とは言っても準備をしているのは魔女様だけで、私はただそこに立っていろと言われてしまう。

なんでも、お茶菓子を用意する必要のない相手らしい。


とりあえず魔女様の言う通り立っていると、一人の男性がノックもなしに部屋に入ってきた。


「ノックもせず勝手に入って来るとは…相変わらず礼儀がなっていないな」

「礼儀なんて必要無いだろう。今回は私用で来たのだからな」


そう言って乱暴にソファーに腰掛けると、足を組んで私を見ながら机を指でトントンと叩く。

意味が理解できず、魔女様に視線を向けると、首を横に振られたので、何もしない事に。


「お茶も出してくれないのか?」

「泥水なら出してやらん事もない。お茶が欲しければその態度を改めろ」

「ならいい。早く帰れと言う気配しか感じないから用件だけ伝えて帰るとしよう」


…かなり仲が悪い様子。

確かに、あの男性の言う通り魔女様からは『早く帰れ』と言う気配が滲み出ている。


それに耐えかねたのか、あの男性も魔女様のことが嫌いなのか、用件だけ伝えて帰ろうとしている。


「今年も晩餐会が開かれる。以上だ」

「…それは本当に私用?」

「別にそれとなく頼まれただけで、伝言役を指名されたわけじゃない。砂糖と薬を買いに来たついでに、ここに寄ったまでだ」

「そう…」 


それだけ言うと、立ち上がって部屋を出ようとする男性。

一度こちらを振り返ると、私の事をじっと見つめて呟いた。


「明日は雪かもしれんな」


そう呟くと、部屋を出て行ってしまった。


魔女様はため息をつくと、椅子の背もたれにもたれ掛かり、力を抜く。


「やれやれ…失礼な奴め」

「何がでしょうか?」

「明日は雪だと?私が弟子を取ることがそんなにおかしいか」


また大きなため息をつき、立ち上がって窓の外を見つめる魔女様。


どうやらあの男性が私を見た理由は、魔女様が珍しく弟子を取った事に対する興味だったみたい。

そして、その珍しさから『明日は雪』なんて言ったよう。

…確かに失礼だね。


でも、そんな失礼が出来るってことはつまり…


「あの人は魔法使いなんですか?」

「ああ。それなりに力のある魔術師だ。私には遠く及ばないが…有象無象と片付けてしまえない魔法使いではある」 

「…それって強いんですか?」

「強いさ。聖教が横槍を入れなければ、国を一人で滅ぼせるくらいには、な」

「かなり強いですね…」


一人で国を滅ぼせるって…相当な強さだ。

でも、聖教が妨害をしてくるとそれはできない程度。

…十分すぎる強さじゃない?


「もし戦ったら…苦戦しますか?」

「…まあ、やつのホームグラウンドで、入念な対策と多数の罠、そして更に私が完全に油断している状態での奇襲なら…少しは苦戦するかもね」

「…つまり?」

「普通に戦って負けることはまずありえない。そう言う相手よ」


まず負けることのない…と言っても、それは魔女様だからの評価。

私やそこまで強くない魔法使いからすれば…すごく強い相手なんだろう。

そんなすごい魔法使いを伝達役に使うような魔法使い…魔術師かな?

その人はすごく強いんだろう。


確か、晩餐会って言ってたような気がするけど…


「晩餐会って、なんですか?」

「…簡単に言うと、沢山の魔術師たちが集まって色々な情報交換をしたり、契約をしたりする食事会。まあ、ご飯を食べながらの交流会ね」

「へぇ~」


魔術師たちにとっては大切なイベントなのか。

そんな晩餐会に、魔女様も招待されたと…

いいなぁ…きっと、おいしい料理に沢山のお酒を飲んで、ワイワイ騒ぎながら夜を明かす。

私も行きたいなぁ…


もしたら、そこでいい人と出会えたり?

魔術師の集会だから王子様は居ないだろうけど、まるで王子様みたいにかっこいい人がいたり~?


そんな事を考えていると、どこか呆れたような声で魔女様が話しかけてくる。


「…なにをニヤニヤしてるの?」

「はっ!?べ、別に変な妄想はしてませんよっ!」

「まだ何も言ってないじゃない。そそっかしい子ね」

「うっ!」


私の事をそそっかしいと言い、頭を撫でてくる魔女様。

可愛がられるということは、愛されている証拠だから嫌な気はしないけど…いつまでも子ども扱いしないでほしい。

…まあ、500年以上生きている魔女様にはみんな子供に見えるよね。


頭を撫でられることに対して自分の中で解釈して諦めていると、魔女様が仕事モードに入る。

そして、こんなことを聞いてきた。


「晩餐会、行きたいかしら?」

「えっ?」


私も晩餐会に来たいか?

もちろん、答えは行きたい。

でも、別に呼ばれていない私が行っていいのか?見習いもいいところの魔女である私にふさわしい場所なのか?


そんな事を考えてすぐに答えを出せずにいると、魔女様は表情を柔らかくする。


「別にあなたにふさわしくない場所だなんてちっとも思っていないわ。むしろ、専属メイドとしてついて来ない方がおかしいくらい」

「そ、そうですか…?」

「ええ。だから気にする事は無いのよ。私は、行ってみたいか興味がないか聞いてるの」

「…行きたいです」

「うん。よく言えました」


そう言って、再び私の頭を撫でる魔女様。

まるで子供を甘やかす母親のような様子だけど…もしかして、私の事を娘みたいに思ってるのかな?


私の方から抱き着いてみると、少し驚いたのち、すぐに優しい笑みを浮かべて変わらず私の頭を撫でる魔女様。

そして、暫く抱き着いたままでいるとなんだか眠たくなってきて、そのまま魔女様の腕の中で眠ってしまった。



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