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部族長たちは迅速に見合い相手を送り込んできた。
真っ先に場を整えられたのは第二位の部族エトヴィンの子息だ。
その日の午後には第三位のエーレンフリートの子息と会った。翌日の午前には第五位のエメリヒ、午後には第六位のエーヴァルトの男性たちと会った。いずれも、魔力を豊富に持つという触れ込みだ。
二十代から三十代後半で、イルムヒルトよりも父の方に歳が近い者までいた。
「うつくしいな。十代じゃないって聞いていたからどうかと思っていたんだけれど、うん、合格。僕にふさわしい」
エトヴィンの子息は三十代後半でありながらそんなことを言って、イルムヒルトを頭のてっぺんからつま先まで何往復も眺めた。
「魔力が必要なんだってね。いいよ、あげるよ。でも、そうしたら、君は俺になにをしてくれるのかなぁ」
エーレンフリートの子息は始終ねっとりと笑っていて、なんだか体中がかゆくなり、身じろぎした。
「可愛いがってあげますよ。だが、あなたも可愛いがられる努力をしなければなりません」
エメリヒの子息は顎を上げて傲然と言い放ち、自分から話しかけることなく、それでいて会話の添削をする風情であった。
「ぼ、僕なんかが、その、夫になんて。でも、妻というものは夫のためにあり、夫を立てなくてはいけなくて、」
エーヴァルトの子息は上目遣いでおどおどしつつ、なのに時折女性は男性に尽くすべしといった心得のようなものを語った。
イルムヒルトは四部族の男性たちと会って、エアハルトのハーラルトが言っていたことを思い知ることとなった。
イルムヒルトとて、神子姫として意に染まぬ相手に縁づくのはしかたがないと思っていた。
けれど、魔力だけではなく、中身が伴った者と添い遂げたいと切実に願う。
なにも、容姿に優れているとか素晴らしい能力を持っているとか、裕福であるとかいうことを求めているのではない。四部族の魔力豊富な男性たちと会った結果、いっしょに過ごす上で負荷の少ない人であってほしいと思うに至ったのだ。
「エメリヒの子息以外の三人は妻帯者らしいですよ」
「……奥方さまはどうするおつもりなのかしら」
「エトヴィンのご子息は愛妻家らしいです」
ならばなぜ、見合いを受けたのか。
「エーヴァルトのご子息のご夫人は賢妻と名高く、身を引くとおっしゃっておられるとか」
「フローラはとても情報通なのね」
「フロレンツを方々にやって情報を集めました!」
胸を張る姉の隣で、フロレンツが疲れた顔にかろうじて笑みを浮かべる。
「残るエーレンフリートのご子息はですね、」
フローラが珍しく言いよどむ。
「無類の女好き、だそうです」
イルムヒルトは無言で額を抑えた。
魔力が多ければいいというものではないと言いたいところだが、とにかく、雨乞いの儀式を再会させようという強い意志が感じられる。
イルムヒルトは当事者なのだから完全に気持ちは一致する。
それに、イルムヒルトは縁談を押し付けられる代わりに、ウータ、ウーテにフローラ、フロレンツをと推挙した。それらは受け入れられ内定している。要望だけ通して相手の要求を蹴れば不当だとそしられる。神子姫として横暴を通すまいとしてきたイルムヒルトの姿勢に反することとなる。
見合いの後に、各部族から贈り物が届いた。エトヴィンからは宝石が、エメリヒからはきらびやかな服が、エーヴァルトからは花が贈られた。
そして、その「贈り物」を見た瞬間、イルムヒルトはにべもなく言った。
「返してきなさい」
「贈り物」であるという見目麗しい少年に、イルムヒルトは無表情となる。
「今のはどちらの部族からかしら?」
「エーレンフリートからですよ」
「なに考えているんでしょうねえ」
自分が女好きだから、イルムヒルトも見目麗しく若い異性を好むとでも思ったのだろうか。おそらく、相手にとんでもない侮辱をしたという自覚はないだろう。
顛末を聞き、あまりのことに頭を抱えた聖務長が、エアハルトとは誰とも見合いをしていないことに気づき、さっそく連絡を入れる。
「ですが、ご長子のハーラルトさまはこの縁談に反対なのでしょう?」
「神子姫さまのお言葉ならば、否やはないですよ」
「そうね。五部族すべての方とお会いしてみてから決めれば良いわよね」
もう何でもいいような気もしてくるイルムヒルトはそう言った。
そして、後日、エアハルトの見合い相手としてハーラルトがやって来た。