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ハーラルトの予想を裏切って、エアハルトの呼びかけにほかの四部族はすぐさま応じた。すなわち、エドゥアルト、エトヴィン、エーレンフリート、エーヴァルトの長たちは外敵に向けて一丸となって協力する姿勢を見せた。
「元々、敵に対しては遠慮しなくて済むからな!」
そう言って、父は集まって来る情報を下に、各部族の長たちに連絡を走らせる。
共に相争うエドゥアルトとエトヴィンは見事な連携を見せ、敵を蹴散らす。自分たちが不意を衝くものだとばかり思っていた偽装兵士たちは面白いほど簡単に倒され捕縛された。
漁夫の利を狙うエーレンフリートは適切な補佐を務め、手薄な箇所に戦士を送り、負傷者を回収する。エーヴァルトは市民に呼びかけ、みだりに慌て恐れなくても良いとなだめた。その一方で、この機に乗じて物品の値を吊り上げようとする動きを牽制する。商人はどんなときでも逞しく、商機を捉えようとするものだ。
ハーラルトは父とともに戦場に出て、張り切る年長者たちがともすれば深追いしないように手綱を引く役目に従事する。これが難しいのだ。腕に覚えがある年長者ほど扱いづらいものはない。その役割を上手くこなすハーラルトは自然と同年代の者たちから尊敬の念を集めた。
そして、ヴィンフリーデは勝利をおさめた。
戦いが終われば宴会、というのは六部族の中で不文律となっている。
「勝利の宴だ!」
「「「おー!」」」
「戦勝の酒だ!」
「「「わー!」」」
六部族の長たちの杯に酒を注ぐハーラルトは、彼らから返杯とともにばっしばっしと背中や肩を叩かれる。
「さすがはヴィンフリーデ随一の戦士!」
「それ、長たちを止めることができる者の称号じゃないですからね?」
機嫌よく笑うエドゥアルトの長にハーラルトが眉尻を下げる。
「なにを言う! それが最重要にして最難題じゃないか!」
「自分で言わないで下さい」
エトヴィンの長のとんでもない言葉にハーラルトが唇をひん曲げると、ほかの長たちが笑い声を上げる。
「神子姫さまの伴侶ともなれば、このくらい、軽いものよな」
散々、エトヴィンを煽っていたエーレンフリートの長がそんな言い方でハーラルトのことを認める。
「そうですね。神子姫さまを安心して任せられる」
エーヴァルトの長までもが同意し、しみじみと頷く。
「神子姫さまの伴侶に乾杯!」
エアハルトの長が杯を高く掲げる。ほかの長も同じようにして唱和する。
「「「「乾杯!」」」」
飲みたいだけなのではないかなと思いつつも、勝利の高揚が手伝ったお陰で神子姫の伴侶を認めさせるという難事をなんとか乗り越えることができたことに、ハーラルトは安堵する。父はそれを見越して乾杯を言い出したのだろう。やはり、父の域に達するにはまだまだ足りないばかりである。
「ハーラルトも飲め!」
差し出された杯を飲み干した後、ハーラルトはこの機を逃さじとばかりに、エドゥアルト、エトヴィンの長の長子のほか、エーレンフリートの長の甥やエーヴァルトの長の第三子とともに協力体制を取っているのだと話す。
「長たちが共に力を合せているように、次代においても手を取り合い、今日のような勝利を得たいと思っているのです」
「ほう」
「うちのは俺を越えるだろうからな。今はまだ譲らんが、そのうちな!」
エドゥアルトの長がまんざらでもなさそうで、エトヴィンの長が息子を認めつつも負けず嫌いを発揮する。
「俺も甥の有能さは分かってはいたさ。そりゃあな。妻にしようとする女性に見目麗しい少年を送り込むなんて真似はせんだろう」
「うちの三男が? まだまだ子供だとばかり思っていたのですがねえ」
エーレンフリートの長が渋面から次第に涙目に移行し、エーヴァルトの長が面食らう。
エーレンフリートの長にすかさず父が酒を注ぎ、ハーラルトはエーヴァルトの長にここぞとばかりに子供の成長の速さを伝える。
ヴィンフリーデの部族は互いに事情を抱えていたとしても、有事にはともに立ち向かうことができる。決して、神子姫ひとりに背負わせることはない。ハーラルトは改めてそのことを思い知らされた。
六部族の協力体制はまだ道半ばで、進む先は険しい。それでも、実現不可能ではないと思うことができた。今後も、諦めないで進もうとハーラルトは心に誓う。




