14
ハーラルトは部下をやって街の内外の様子を探らせていた。外へ向かわせた者が駆け込んでくる。
「一般人に偽装した兵士が街の外に集まりつつあります」
神子姫を取り戻した弛緩した空気がぴりっと引き締まる。
「人員を増やして監視せよ。人数、どの国の者か、どの者と通じているか、逐一報告を。気取られるな」
「はっ」
「市街地、他部族、神殿においてなんらかの動きを見せていないか、内偵につなぎを取れ」
ハーラルトは矢継ぎ早に指示を出した後、報告と取りまとめを父に任せ、自身も動いた。五部族を回って協力体制を整える。
エドゥアルトとエトヴィンの長の長子、そしてエーレンフリートの長の甥とエーヴァルトの長の第三子に声を掛け、集まる。
以前から部族間の協力体制を整えられないかと考えていた。エドゥアルトとエトヴィンは次代の長とみなされる者たちからは賛同されたが、エーレンフリートとエーヴァルトの長の長子からは断られた。ハーラルトはそこで諦めなかった。エーレンフリートとエーヴァルトでも優秀とみなされる者たちと話し合い、同意を得るにこぎつけた。
「なれど、長の権は強固です。我らがどれほど言葉を連ね賛成を得ようとも、長の一声で覆ります」
それは外敵に対抗するためのものだった。いつしか形骸化し、既得権益を手放したくない者によって、都合よく取り違えられてしまうようになった。
「今はそれでも良いではありませんか。いつか、必ず、力を合わせる必要が生じます」
ハーラルトはそう答えた。そして今、その時が迫っていた。
「エメリヒの子息は来ていないのか?」
「連絡が取れないのです」
エドゥアルトの子息に答えながらも、ハーラルトはある予感を抱かずにはいられなかった。
「エメリヒでは長よりも子息の方が頼り甲斐があるというのにな」
エトヴィンの長の息子の言葉に、集まった他の面々は頷いたり苦笑したりする。
ハーラルトはエメリヒ不在のまま、事情を話した。
「我がエアハルトの長から各部族長へ改めてお話し、協力して事に当たることを提案します」
「それが実現するよう、我らが口添えすれば良いのですね」
エーレンフリートの長の甥がいち早く理解する。
エドゥアルトとエトヴィンの長の息子らが素早く視線を交わす。エーレンフリートは次代の長を彼に任せれば安泰なのに、という考えを言葉なく伝え合った。
「巷では我がエーヴァルトが他国と通じて神子姫を誘拐したという噂が流れていますが、もちろん、そんなことはございません」
エーヴァルトの長の第三子が硬い表情で言う。
その噂はまさに今、偽装兵士たちが街を取り囲まんとしている現状と合致している。
る。
「エーヴァルトの長はなんと?」
「非常に混乱しておいでで、その、砂漠に現れた泉に溺れているかのようでありました」
「砂漠に現れた泉に溺れる」というのは、「蜂の巣をつついたよう」というのと似たような意味合いだが、前者はありもしないものに騒乱状態になる、という要素が加えられる。
「それはなんともはや、」
「無理もありません。事は神子姫さまに関わる出来事なのですから」
エドゥアルトの子息が肩をすくめ、エーレンフリートの長の甥が労わる。
「その一件だけでも早期解決を図れて重畳だ。これも、神子姫さまの婚約者であるハーラルト殿の尽力あってこそ」
エトヴィンの長の長子の言葉に、ハーラルトを除いた面々が頷く。
「あまりにタイミングが合いすぎます。敵は今この時を狙って集まって来たのではないかと思っています」
「なるほど。手引きをした者がいるとお考えなのですね」
エーレンフリートの長の甥の言葉に、ほかの三人がはっと息を呑む。
ハーラルトはもう一歩踏み込むことにした。
「わたしの考えではありますが、エアハルトの長も同意しています。そして、今、ここにエメリヒの長の子息がいらしていない」
この言葉には、さすがのエーレンフリートの長の甥も絶句する。
エメリヒの長の長子はもはや引き継いだのではないかという手腕を発揮する者だ。
「エメリヒが裏切り者だと?」
「断定はできませんが、わたしはそう考えています」
顔を見合わせた四部族の若者たちはすぐに長の下へ向かった。




