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※本日二度目の投稿です。

 

 ハーラルトは取るものもとりあえず、わずかな側近のみ連れてエドゥアルトの救出隊と合流する。

 そこにはフロレンツもいた。この付近で見失ったのだという。

「おお、迅速なお出まし、かたじけのうございます」

 救出隊を指揮する隊長はエドゥアルトの優れた武将であり、神子姫奪還への意気込みを感じさせる。


 ふたりは顔を見合わせると、両手を組み、ウルリーケ神に祈りをささげた。儀礼的なものだが、今や、神にも縋りたい気持ちだ。ハーラルトは戦地で既知を得た蛇神にも祈った。取るに足らない地を這う自分の祈りが届くとは到底思えなくても、いずれかの神の意識に触れるわずかな可能性に縋った。

「じきに日が暮れる。急ぎましょう」


 救出隊の隊長は目星をつけておいた人を隠しやすい場所、立てこもることを可能にする建物などを市街地のあちこちを指差しながらハーラルトに説明する。

 すでに何か所か回ったが、空振りで、街を出られては救出が困難になる焦りから、救出隊を数手に分けると言った。

 常ならぬ冷静さを欠いている様子に、さもありなんと思う。それでも、今は沈着に事を勧めなければならない。

 ハーラルトが口を開こうとしたとき、それは起きた。


 目の前にすう、と波打つように白っぽいような、うす水色のような筋が走る。それは明らかに前と後ろがあり、一方向に向けて進んでいる。後ろは尾のように先がとがり、左右に揺れていた。


「蛇神さま?」

 ハーラルトにはそれが蛇のように見えた。そして、ふと以前訪れた他教の神殿が祀る神の御姿が思い起こされた。

 その声に呼応するように尾が大きく左右に振られる。そして、まるでハーラルトを誘導するようにするすると中空を水平に滑っていく。


「こちらです」

 熱に浮かされたようにハーラルトは言っていた。

「ハーラルト殿?」

 救出隊の隊長が戸惑った声を上げるが、ハーラルトは薄い蛇身を見失わないように追いかけた。

 水の中にいるように、動きが緩慢である心地になる。焦っている自覚はある。もっと早く動けないことがもどかしくて仕方がない。


 エドゥアルトの救出隊はハーラルトの後ろ姿を見失わないようにと必死だった。

 そして、街の片隅の人気がない一角にたどり着いた。

 石造りの二階建ての建物に、白色がかったうす水色の蛇身はすうと吸い込まれて行く。


 ハーラルトはすぐにでも飛び込んでいきたいのを堪え、離れた場所から観察する。窓をふさぐ木の覆いのほとんどが破損され、隙間風が入り込み放題だ。この地方では風は砂を含むので、特に日中は木の覆いで遮断する必要がある。だというのに、正面の扉は硬く閉じられている。長く人が住まなくなった建物に、誰かが潜んでいるというのが明白だ。用心深く、外から人影が見えないように窓に近寄ることはない。

 ハーラルトがそんなことを考えていると、救出隊が追いついた。


「ここにおられるというのか?」

 追いかけては来てみたものの、不審を隠さず救出隊の隊長が建物を見やる。

「はい。神の啓示を受けました」

「は? ハーラルト殿は聖務者(ヴァルトルート)に転身されたのですか?」

「いいえ。ですが、神がイルムヒルトさまを助けるようご教示くださったのです」

 神子姫のなかでもとくに神の寵愛を受けると言われているイルムヒルトだ。彼女を助けるために助力を賜ったのだと言えば、救出隊の面々は納得する。


 彼らエドゥアルトはもともと第二位の部族で、自身らを頂点に押し上げることとなった神子姫(フランツィスカ)をこよなく敬愛している。その奪還とあって、雄々しく勇敢に立ち向かった。

「神子姫さまのご無事であることが最優先されます」

「建物の二階、一番右です」

 ハーラルトが指さす窓に、うっすらと蛇身が漂っている。

「「「おお!」」」

 救出隊の面々にも見えたらしく、小さくどよめきが起きる。


 さっそく、救出隊はみっつに分けられた。一隊は正面玄関を突破してなだれ込む。もう一隊は側面と裏手の警戒に当たり、神子姫が連れて逃げられないようにする。

 そして残るもう一隊は二階の右端の窓に直接乗り込む。ハーラルトがその先陣を切る。

 ロープの先の鉤を窓枠に引っかけ、登って行くのだ。それと同時に正面玄関へ突入する。あとは時間との勝負だ。神子姫を攫った人間が下手な真似をする前に事を収束させる必要がある。


 ハーラルトは身体の重みをものともせずにロープを掴んで壁を登っていく。

 転がるようにして窓の中へ体を入れ、そのまま床の上を回転する。室内へ入って棒立ちになれば、相手の的になるも同然だ。そうして移動しながら素早く室内に視線を走らせる。


 階下の騒ぎに気を取られ、扉の傍に立っている者がふたり、そのほか部屋の奥の長椅子に座ったほっそりした人影がある。イルムヒルトだ。両手両足を拘束されていることを見て取ったハーラルトは腹の底から湧く怒りでもって、扉の前に立つ男たちを切り伏せる。動きを封じると、手早く縛る。

 その段には窓から次々に救出隊の人間が入り込んでいた。


「ご無事で」

 男たちを救出隊の者に任せると、ハーラルトはイルムヒルトの傍に駆け寄った。

「はい。フローラとフロレンツは、助かりましたでしょうか?」

「もちろんです」

 ハーラルトの言葉を聞いて、イルムヒルトの蒼ざめた顔に少しばかり生気が戻る。フローラは怪我をしていた。イルムヒルトは攫われる前にその場を見ていたのだ。自分が下手な抵抗をして周囲の人間が傷つくことを恐れたのだろう。


 イルムヒルトは無事に戻ることができた。

 ハーラルトは婚約者である神子姫を奪還した勇者として歓呼を持って迎えられた。





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