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※本日二度目の投稿です。
「その、わたしは女性に対して気の利いたことができないのですが、」
「それはわたくしとは結婚したくないとおっしゃるの?」
婚約者となったことの挨拶に出向いたものの、神殿にいればなにかと人目がある。というか、人の視線が全身に突き刺さるような心地になるので、ハーラルトはイルムヒルトを街に連れ出していた。
「わたしはずっとあなたに憧れていました。でも、あなたは望めばどんな方をも伴侶に迎えることができましょう」
「そんなこと、」
イルムヒルトは真っすぐに見てくるハーラルトからふいと顔をそむけた。
「どんなに宝石を持っていても、わたくし自身が望んでいなければ色褪せます。きらびやかな服も、きれいな花もそうですわ」
そう言って、額の上の布を引っ張った。
イルムヒルトは今日も今日とて頭から布を被っている。
ハーラルトはふと思いついて、とりどりの色、さまざまな紋様の布を売る店へ連れて行き、イルムヒルト自身に選ばせた。
「使用頻度が高そうなので、贈り物としては最適でしょう」
合理的かつ、あけすけな物言いに、イルムヒルトは吹き出した。そのままくすくす笑い声を漏らしながら、布を手に取って広げてみる。
「まだ奥にも沢山あるよ」
言いながら、店の主は意味ありげな目つきになる。高価なものだから軒先に出していないのだと察し、ハーラルトは頷いて見せる。
いそいそと店の主が取り出した布に、イルムヒルトは歓声を上げる。
「手触りが良いですわ」
「ああ、これは、」
ハーラルトが目を止めたものは金のあでやかな布地に黒と青の糸で華やかな紋様が描かれている。
「両方くれ」
「毎度あり」
店の主はほくほくとハーラルトから貨幣を受け取る。
「二枚もよろしいのですか?」
「お似合いですよ。この布の華やかさに劣らぬうつくしさだ」
さらりとそんな風に称賛して笑うハーラルトに、イルムヒルトは一瞬言葉を失う。
「さ、さっそく使いますわ」
せっかくだから、といそいそと布を取り替える。
「では、もうひとつの方は次の逢瀬の際、使ってください」
そう言って次の約束を取り付ける手腕に、女性慣れしていないなんて過小評価ではないかとこっそり面白くない気持ちになった。
そんな焼きもちも、楽しいと思え、イルムヒルトは次の逢瀬を心待ちにした。
けれど、そんな弾む気持ちは長く続かなかった。
神子姫の伴侶はエアハルトの係累に決まった。
「どうしてだ?! そもそも、エアハルトは神子姫さまへの魔力供給を反対していたのではないのか!」
「神殿はなにを考えているのだ!」
「どれだけ寄進したと思っている!」
「エアハルトめ、上手くやりおって」
心から神子姫の伴侶という地位を望んでいたよっつの部族の者たちは荒れた。
そして、神子姫が魔力を失い、干ばつを心配する者とは別に、既得権益を失いたくない者が思いもよらない行動に出た。
神子姫の誘拐である。
神子姫の侍女であるフローラが怪我をしながらもエドゥアルト縁の館へたどり着き、判明した。
その日、神子姫は祭事のために神殿を出て市街地に馬車を走らせた。そこを襲撃されたのだという。とっさにフローラが出身部族に助けを求めたのは、神殿すらもすべての者が味方ではないという不信感があったためだ。
すぐにエドゥアルトの長と側近たちに話が伝わる。フローラは事情を話し、手当てを受けた後、神子姫を探しに行くと言い張ったがために、鎮静剤と睡眠薬を投与された。
「フロレンツが後を追っているという」
「捜索隊を出せ!」
「神殿に報告なさいますか?」
「いつまでも黙っているわけにはいかないだろう。市街地での凶行だ。目撃者も多数いる」
エドゥアルトの想像通り、すぐに神殿に知られるところとなった。それだけでなく、残る五部族にも情報が行き渡る。
時を同じくして、エーヴァルトが他国と通じて神子姫を得ようと誘拐したのだという噂が流れる。エーヴァルトは第六位、つまり最下位に甘んじている。それを巻き返そうものなら、そのくらいの強固手段に出るほかはない。
「しかし、エーリヒの事例がある」
今は亡き部族だ。
「それがな、昨今の若い連中は昔の出来事を、カビの生えた取るに足りないものだとみなすのだそうだ」
「あるいはいきさつを知らぬ者も多いというぞ」
「神の恩寵によって栄え、それを失わぬようにあくせくしているというのに」
「まったく、嘆かわしいことよ」
過去の事象に学ばず、視界に入ることだけに捉われる。若者ならではの仕儀だが、それで済ますにはエーリヒが引き起こした凶事は周囲に与える影響が大きすぎた。




