イケメンに会えるじゃん!
不可解な事件。SNSを賑わせる都市伝説……
さて、この少女にもなにか良からぬことが起ころうとしているのかもしれません。
「あたしってイケメンに出会えるって確率が高いのよねぇ~」
ハンバーガーショップでシェイクを片手に鈴谷朧は遊び友達たちに堂々と言ってのけた。
遊び友達は顔を見合わせ
「イケメンにってなんだよ~」
と笑った。彼女らが笑ったのも無理はない。朧のSNSのフォロワーは冴えない男ばかりである。
少しセクシーな動画を掲載するだけでフォロワー数がうなぎ上りに上昇したのであるが。
「いや、SNSはアレだけどさ、マジでイケメンに会えるってば」
朧は自信ありげな顔で言うモノの、友人たちは信用しない。ゲラゲラと笑うだけであった。
反論しようとした時、朧のスマートフォンに着信が入る。この間、合コンした時に電話番号交換した男かと思ったが、母親からであった。大した要件でもなく、あまり帰りが遅くならないようにとの事であった。朧の家庭は両親ともに健在で父親が上場企業の部長という恵まれた家庭で育った。母親は専業主婦で、多少、口うるさいが、朧の自由や判断力を信じてくれていた。物質的にも精神的にも彼女は恵まれていると言っていいだろう。彼女自身も市内の良いところの子女が通うような私立の高校に通う身である。
「そろそろ、帰るわ~」
朧の言葉に今日の駄弁り大会は解散となった。
ハンバーガーショップを出てスマートフォンで時間を確認する。すでに二〇時。制服で町をうろうろしていたら職務質問されても仕方がない時間だ。
彼女は友人たちと別れ、自宅への帰路を急ぐ。朧の家は一等地であるが、それゆえ近くにコンビニすらない。
「コンビニくらいあったら便利なんだけどなあ」
と彼女は思うが、彼女の権力ではどうしようもない。
季節はもう冬服でなければいけない時。少し肌寒いが、まだ、コートを羽織るほどではない。
タマに大型車が通り過ぎるくらいの道路からわき道へ逸れる。そうやって、いくつもの角を曲がって彼女の家はある。
いつもの、変わりない退屈な日常である。家族で食事して、バラエティ番組を見て笑い、入浴の後、自室でスマートフォン片手に友達とSNSで連絡し合う。適度な時間になったら明日のために就寝する。
そんな日常が変わった。朧の人生の歯車が少し軋んだ。
外灯に照らし出されたコートの男。帽子を深く被っているが、かろうじて男性と判断できた。
その男が彼女の前にいきなり立ちふさがり、コートをはだけた!
変態!
朧の脳内に響いた言葉はこれだった。
しかし、男の脇腹に何本もの小型の『節足昆虫の足』が並んでおり、帽子を取った男の顔はクワガタのそれであった。
(ナニコレ!)
彼女は混乱した。ドッキリ? ドッキリなの? 焦りながら周りを見回し、必死にカメラやカンバンを持ったADを探すがいない。
どうやら、ドッキリではないようだ。
クワガタはクワガタの特徴である大型のアゴをガチガチ開閉している。
(殺される!)
そうは考えるが足が硬直してしまい動けない。イヤな汗が額から流れる。力が抜け、震える。恐怖からくる震えだ。彼女はヘビに睨まれたカエル同然だった。
クワガタ怪人はニヤニヤと笑っているようにも見えた。クワガタ怪人が朧に手をかけようとした時、
「そうはさせんぞ!」
という声がした。クワガタ怪人は当たりを見回す。さきほどのドッキリと思った朧のように。だが、これもドッキリではない。赤い屋根の上に一人の男のシルエットが見えた。
「とう!」
男は気合を入れてジャンプする。
(あ、イケメン)
鈴谷朧はこんなところで場違いな感想が心に浮かんだ。事実、男は美形であった。
「一般人の前で変身するのは仕方がないか……」
イケメンの顔はトラのそれに変貌する。上半身も上着が飛び散ったのではないかと思うほど膨れ上がる。両方の手足もトラのそれだ。大きく風が吹き、塀が抉れている。エネルギー変換の余波だ。
「一発でカタをつけてやろう」
トラ怪人に変身したイケメンは一気に踏み込み、ボクシングでいうトコロのアッパーカットを繰り出した。それは爪でクワガタ怪人の胸元から顔を一気に引き裂いた。クワガタ怪人はとめどなく噴き出る血に二、三歩よろめき、倒れた。トラ怪人はトドメとばかりに、クワガタ怪人の頭を踏みつぶした。
その一部始終をごく普通の女子高生・鈴谷朧は目撃してしまった。
トラ怪人はクワガタが絶命したことを確認すると、変身を解く。ズボンも腿辺りまでは存在していたが、その他は服を着ていないイケメンはズボンのポケットからスマートフォンを取り出し操作する。
「はい。例のヤツを仕留めました。ただ、目撃者がいます……あ、はい。俺から言っておきます。それじゃ、後はよろしくお願いします」
鈴谷朧はボケっと見るしかできなかった。
イケメンは朧の顔に自分の顔を近づけ、
「このことは夢とでも思ってくれ」
とだけイケメンボイスで彼女に忠告した。
朧にもそれは分かった。このことを話しても、それは与太話にしかならない。SNSに書き込んでも信用されない話だろう。
「わかりました……せめて、お名前を……」
この辺は彼女の豪胆というよりも最近の若者の特徴なのであろう。イケメンは困ったように頭を掻くと
「WHO」
とだけ伝えた。本名ではないだろう。コードネームか、彼女に適当に答えた名前かもしれない。
鈴谷朧は特に何もされず、自宅へ帰りついた。
「や~~~っぱ、夢じゃないよね……」
朧はベッドに寝そべりながら呟いた。
スマートフォンを使い、SNSで調べても事件のことは出てこない。ただ、都市伝説的に、そういった者が闘い合っているということは分かった。
「でも、やっぱ、イケメンには出会えたじゃん!」
彼女は満面の笑みを浮かべた。
終
少女は無事にイケメンと遭遇できたようです。
しかし、彼女は触れてはならない時間の住人になってしまったかもしれません。
では、皆さん。また、この時間にお会いいたしましょう。




