93話 存在を消された僕の娘
三日後の朝…。
「……ん、何だ……」
僕は自分の身体を抱きしめられ僕の胸をモゾモゾされる感触で目が覚めた。
「イア、お前か…」
イアは僕の身体を抱きしめ僕の胸に顔を押しつけ匂いを嗅いでいた。
「おはよう、お父さん」
「おはよう、イア」
イアは僕が目を覚ますと顔を僕の胸に押しつけるのを止めた。僕はイアの頭を撫でた。
「よく娘や妻に朝起きたら匂いを嗅がれるんだが何か意味があるのか?もしかして匂うのか?」
僕はイアに聞いた。
「違うよ。お父さんの胸に顔を押し当て匂いを嗅ぐと何だか落ち着くからみんなやっているんだと思うよ」
「そうか…」
「お父さん。女の人に何で匂いを嗅ぐんだ?って聞いちゃだめだよ」
「何でだ?」
「女の子には色々理由があるの」
「そうか、分かったよ」
僕はそう答え、飯を食うために起き上がり部屋を出た。
「おはよう」
「「おはよう」」
僕はリビングにいた子供達に挨拶した。僕はテーブルに着くとテーブルにはご飯が人数分並べられていた。
「みんな朝起きるの、早いなあ」
「お父さんが遅いの」
「そうか」
僕は何となく呟くとそう僕の娘に返答された。
数分後が経ち、みんなゾロゾロとリビングに集まり席に着いた。エリカがまだここに来ていない事に気づいたがまだ寝ているんだと僕は思ったので気には留めなかった。
「「頂きます」」
みんな手を合わせ、食事を始めた。今日の朝食は食パンと目玉焼きとベーコン、こんがりと焼かれたウインナーだ。
「旨い、旨い」
僕は食パンに目玉焼きとベーコン、ウインナーを挟み醤油を掛け食べた。そして喉が渇いたので牛乳を飲んだ。
「ご馳走様でした」
僕は食べ終わった。
みんな食べ終わり食器を片づけた。
「エリカがまだ食事を取っていないから片付けは後にしてくれ」
僕の妻達が机の上に置かれていたウインナーの大皿を片付けていたのでそう言った。
「エリカって誰?貴方、寝ぼけているの?」
エリナは僕にそう言った。
「エリカだよ、エリカ!僕とエリナの娘の名前だよ」
僕は寝耳に水なエリナの言葉に目が覚めた。
「アイラの事?自分の娘なんだから間違えないでよ。エリカって言う昔の女か知らないけど、アイラの名前と間違えるなんて」
エリナはそう言った。
「自分の娘の名前を忘れるなんて最低ですね」
ルナは僕にそう言った。
「違うって。俺が言っているのはアイラの姉のエリカの事だよ!」
僕は焦りながらそう言った。
「何言っているの?エリカなんて子、家には居ないよ」
「ユウイチ、もしかして熱がある?」
エリナは僕の頭に手を当てた。
「僕を驚かせようと冗談を言っているならもう止めてくれ、笑えない」
「冗談なんて言ってないけど」
エリナはそう言った。
「エリナ、エリカは俺とお前の大切な娘だろ。何、忘れているんだ」
「貴方こそ何言っているの?エリナなんて子はこの家には居ない。そうよね、みんな」
エリナが僕の他の妻達に聞くとみんな頷いた。僕はそれを見て青ざめた。
「ユウイチを病院に連れて行った方が良さそうだな、先からユウイチの様子がおかしいし」
カミラは無情にもそう告げた。
「ここに遠山先生を呼んだ方がいい?」
シエラはそう皆に聞いた。
「その方が良さそうですね」
ルナはそう言った。
「………」
アリアは黙って様子を見ていた。
僕は心がむしゃくしゃしたのでエリナから離れ、自分の子供達にエリカの事を聞いた。
「貴方、止めて。子供達が怖がっている」
シエラは僕の行動を見てそう言った。
(何故、そんな目で僕を見る)
僕が必死さに僕の子供達や妻達が怖がっていた。
「………」
僕は自分の子供にエリカの事を聞いたが皆エリカの事を知らなかった。僕はどうすれば良いのか分からず取り敢えずソファーに座った。僕の娘が僕を心配してか水を持って来てくれた。皆、僕の突然の行動に心配してかリビングに集まって僕の様子を見に来た。誰も僕の側に近寄らなかった。
それから一時間、僕はそのソファーに座り考え事をしていた。
「折部君、おはよ」
「おはようございます、先生」
遠山先生がリビングに来た。僕の妻の誰かが遠山先生を呼んだのだろう。」
「君の奥さんから大体の事情を聞いたよ」
「………、先生は僕を信じてくれますか?」
「勿論、君を信じてはいるよ。でも皆、エリカさんの事は誰も知らないんだ。私も含めてね。だから皆を怖がらさせてはいけないよ」
「それは分かっています」
僕は遠山先生の言葉を聞き、頷いた。
「先生はどう思います?」
「難しい質問だね。もしかしたら君の病気が再発して現実と妄想の区別がつかなくなったのかもしれないし、本当はエリカさんは存在していたけど何かが起こり皆の記憶から消えたのかもしれない」
「先生はどっちだと思います?」
「私は医者だからね、医者から見たこの状況から推察するにエリカさんは君の妄想が作り出した産物だと僕は思う」
「………、そうですか…」
僕は現実を突きつけられた。遠山先生は僕の様子が落ち着いたのを見て病院に帰ろうとした。
「でも確かにいたんだ、エリカは確かにいたんだ」
僕は遠山先生に聞こえるようにそう呟いた。遠山先生はその事に何も言わず、帰って行った。




