90話 冬禍冬術:冬景絶対零度
辺りは黒い炎のせいで雪が斑に積もっていた。
「まさかの互角とはな…」
僕は自分の娘と力が互角だという事に少し驚いた。
「成長したな、イア」
僕はイアを褒めた。
「お父さんが弱くなっただけでしょ」
イアは黒い竜の姿から人の姿に戻った。
「言うようになったじゃないか」
僕とイアは互いに近づいて行った。
「お父さん、体術も衰えてないよね」
「さあ、どうなんだろう。試そうか」
僕はイアの言葉にそう返した。
「暗黒竜拳」
イアの拳に黒い炎風のオーラを纏わせた。
「冬景竜拳」
僕は拳に白い凍風のオーラを纏わせた。
イアと僕は互いに構えた。
イアは僕の方へ飛び込んで来た。そして僕に拳を打つけた。
僕は難なく何度も繰り出される拳を完璧に防御した。
「ふふふ。やはり戦いは面白い」
僕はそう言い、イアに何度も拳を打つけた。イアは僕の拳を防御しようと防御の姿勢を取った。
「甘い!」
僕は身体を右に曲げ、左足でイアに蹴りを入れた。僕の蹴りはイアの横腹に入った。僕はイアに蹴りを入れた左足をすぐに戻し、僕は右足を軸にし後ろ回し蹴りを繰り出した。
「うぐっ」
イアの顔の左に僕の左足の後ろ回し蹴りが決まり、イアは倒れた。
「くっ…」
イアは立ち上がった。イアは拳に纏わせた黒い炎の出力を上げた。そして僕に飛び掛かって来た。
「おらああっ!!」
イアは何度も拳を振り、僕に攻撃をしてきた。
「がはああっ…」
イアの左の拳を僕の左前腕で止め、僕は右手でイアの腹に拳を入れた。イアは口から血を吐き出した。
「くっ…」
イアは口から出る血を左腕で拭った。
「イア。昔、教えたろ。戦いにおいて拳にオーラを纏わせる時は薄く纏わせろって。じゃないと攻撃が大味で大雑把になるからって」
僕はそうイアに言った。
「………」
イアは小さく頷くと拳に薄く黒い炎のオーラを纏わせた。
「はあーっ」
イアは集中していた。
(この場の空気が変わった…)
イアの異常な集中にこの場の空気の変化を感じ取った。イアは僕の方に飛び込んで来た。そして拳を僕に何度も打つけてきた。僕は防御し様子を見ていた。
「!」
イアは僕の足下を右足で蹴り、僕はバランスを失った。僕はバランスを失い宙に浮いていた数秒をリカバリーするために右足をイアの顔面に当てようとした。
「ごがあっ、ぎいいっ」
イアは左の前腕で僕の右足の攻撃を防ぎ、バランスを崩した僕の腹に左膝を曲げ打つけた。 そしてイアの右手の拳が繰り出され、僕の顔面に打つかり僕は吹っ飛んだ。
「やる…じゃないか…」
僕は地面に這いつくばり血を出しながら言った。
僕は空間魔法で小瓶を二つだし、一つ飲んだ。僕の身体は全回復した。
「お前も飲め」
僕はイアにもう一つの小瓶を渡した。
「安心しろ、毒は入ってない」
僕がそう言うとイアは飲んだ。イアの傷も全回復した。
「いや、参ったよ。ここまで実力の差を見せつけられるとは」
僕はそうイアに言った。
「もう終わりにしよう、お父さん」
イアは僕にそう言った。
「………」
イアは腕を曲げ、手を合わせる前の動作をした。
「あの技を出すのか?父さんに向かって」
僕はイアの強い意志を感じた。
イアはゆっくりと手を合わせた。そしてイアの後ろに白い石版が現れようとした。
「最後の力比べか、良いだろう。私の古の大いなる術を見せよう」
僕は意気揚々にそう言った。
「失われし古竜固有魔法:白い月の石版」
イアが唱えるとイアの後ろに何かの文字が書かれた白色の石版が現れた。
「冬禍冬術:冬景絶対零度」
僕もゆっくりと手を合わせ唱えた。僕の目の前にいたイアを中心に地面から深い青色をした六角柱状の巨大な氷の塊が数多出現し連なり一つになった。深い青色の水晶のようで美しかった。僕が持っている技の中で一番強く、一番美しい技であった。
イアは深い青色の氷の塊に閉じ込められた。そして僕とイアの戦いは終わった。




