87話 霞んだ目
それから三日後…。アリアは病で倒れ、床に伏せっていた。
僕はアリアに色々な力を与えるがアリアの病気は治らず、アリアは少しずつ衰弱していった。僕の全ての力を以してもアリアの病気は治らなかった。
ディアナにも見て貰ったが手の施しようが無かった。僕は唯一、当てがあったので家を出ようとした。勿論、僕とアリアの子供達は反対していたが僕は子供達の声を無視し、家を出た。
僕はとある森にいた。
「黒魔術儀式祭壇、顕現」
「古代究極黒魔術:死者復活」
僕は儀式祭壇を作り出し、ある人を死の国から呼び戻した。
「………」
白髪の美しい女性が目の前に現れた。
「久しいな、ジャンヌ…」
「ルドラ、久しぶり」
僕は昔、妻だった女性を蘇らせた。ジャンヌは僕の昔の名前を呼んだ。
僕はジャンヌと言葉を交わし、僕が昔、ジャンヌに譲渡した力を返してくれるように頼んだ。
ジャンヌは力と返す代わりに1週間、僕と一緒に王都で暮らす事を提示した。僕はジャンヌと暮らす事になった。僕は森の方にある空き家を空き家のオーナーに借りた。
「ルドラ、今日、何食べたい?」
ジャンヌは僕にそう聞いた。
「そうだな。シチューとか食べたいな」
僕がそう言うとジャンヌはニコニコしながら僕と腕を組みながら王都の街を歩いた。
僕は王都を歩いている時に内心、ヒヤヒヤしていた。
何故ならアリアが病気で床に伏せっているのに僕は普通に昔の妻と暮らしているからだ。自分の家族に見られたら何と思うのだろうか。
力を返して貰うためだとしても僕は後ろめたかった。
「ルドラ、何で眼鏡を掛けているの?」
ジャンヌは聞いた。
「ああ、これはだな…。最近、目が悪くなったから掛けているんだ」
「そうなんだ」
本当は家族に僕の今の姿を見られたくないから眼鏡を掛けたなんて事はジャンヌには言えなかった。
ジャンヌも馬鹿じゃ無い、僕には家族がいて見られたら不味いから眼鏡を掛けているんだと分かっているようだった。
ジャンヌは僕の分かりやすい嘘に何も言わなかった。
僕とジャンヌは食材を買い、借りている家に戻った。
僕はジャンヌの料理を食べ、その後、僕は部屋のベッドに座りジャンヌは僕の隣に座り、ジャンヌは僕の肩に寄りかかった。
部屋は暗かったが窓から差し込む月の光が部屋を照らした。
「ルドラ。私が昔、貴方に上げた聖剣、今でも使ってる?」
「ああ、今でも使っているよ」
「ジャンヌ、君は僕に聖剣を上げる前に剣に力と思いを込めてくれたね。聖剣を使うたび、君を感じた」
僕はジャンヌの美しい白髪を撫でた。
「これからも僕を守ってくれ。愛してるよ、ジャンヌ」
「私も貴方を愛してるわ」
ジャンヌと僕はキスした。その後、僕はジャンヌと身体を重ねた。これからもこの時間が永遠に続けばいいと思った。
僕はそれから数日。ジャンヌと一緒に日々をを過ごした。
僕は眼鏡を掛けて変装しているからか家族にバレないと思った。僕はジャンヌと一週間の短い期間を共に過ごし終えた。
ジャンヌは僕に力を返してくれた。ジャンヌはもっと僕と過ごしたいと本音を言ったが僕は出来ないと言い、それを聞いて泣くジャンヌを慰めた。
ジャンヌと別れの日、僕はジャンヌに別れの言葉を伝え、ジャンヌは天国へ戻って行った。
昼ごろ僕は家に戻った。僕は自分の家の扉を開け、中に入りアリアのいる部屋に行った。
「!」
僕の妻達と僕の子供も部屋にいた。僕が部屋にはいると僕を見て驚いた。
「死んでいるのか」
アリアの子供達がアリアの側で泣いていた。アリスは死んだ。
「お父さん、今まで何処行っていたの!!」
アテナは僕に気づいて叫んだ。アテナは僕に近づき慰めて貰おうとしたがレオが止めた。
「アテナ大丈夫だ。父さんは母さんを助ける力を手に入れたんだ。時の石で時間を戻せば母さんは助かる」
僕はそう言い、アリアの死体に近づいた。
ドカッ。
「!」
僕は急にレオに殴られた。
「痛いじゃないか、レオ」
僕は尻餅ついた。
「おい、屑野郎…」
レオは僕の胸ぐらを掴んで僕を立ち上がらせた。
「みんな知ってるんだよ…」
「え、何が?」
レオがそう言うと僕は聞き返した。
「母さんが大変な時、お前が他の女と楽しく過ごしていた事だよ!」
レオは今まで見たこと無い位、怒っていた。
僕はみんなを見るとみんな哀れむ目で僕を見た。
「それはだな、僕は昔の妻と一週間暮らすという条件でアリアを助ける力を返して貰っただけだよ」
「理由なんてどうでもいい」
僕が弁解するとレオにそう言われた。
「母さんが死ぬ前に言った言葉が何か分かるか?」
「………」
僕は黙った。
「母さんが死ぬ前に霞んだ目で涙を流しながら『ユウイチに会いたい』って言ったんだ」
「それなのにあんたは帰って来なかった。あんたは母さんの心を殺したんだよ!!」
レオは涙を流しながら僕に訴えた。レオの言葉を聞いた時、僕の頬に涙が流れた。
「母さんは父さんが居ない間ずっと寂しがっていた」
「だから僕達がずっと側に居て慰めた。その間、父さんは他の女と楽しく暮らしていた」
「………、そんなのあんまりだよ」
レオは僕の胸ぐらから手を離し、床にへたり込んだ。
「レオ…」
「何だよ」
「母さんに言ったのか?俺が母さんが大変な時に他の女と暮らしていたって」
僕は恐る恐るレオに聞いた。
「言える訳ねーだろうが」
レオはそう答えた。
「そうか…」
僕は少し安堵した。
アリアが死ぬ前日…。
「レオ…」
アリアはレオの名を呼んだ。
「何だい?母さん」
レオは優しい声で聞いた。
「レオに伝えたい事がある」
「何?」
レオは聞いた。
「私はお前達を残してもう直ぐ死ぬ。だから私はレイカさんに頼んだ…」
「何を頼んだんだ?」
レオは聞いた。
「レイカさんに私が死んだらレイカさんがお前達の母親代わりになってくれるように頼んだ」
「何言っているんだよ」
レオはアリアの手を握った。
「レイカさんならお前達を任せられる」
「レオ、お前は昔からお婆ちゃんにくっ付いていたから私が居なくても何も変わらないから大丈夫だ」
「大丈夫じゃない!!母さん、もう直ぐ父さんが帰ってきて母さんの病気を治すから、大丈夫だから母さんが死んだ後の話なんてしないでくれ」
レオは涙を流していた。
「レオ、お前は小さい頃から悩み事を一人で抱えていた」
「お前は私では無くお婆ちゃんに相談した。お婆ちゃんはお前を人の道から外れないように慰めた。お前は立派に育った」
「私はお前が苦しんでいた事に気づいていながらも何もしてやれなかった。私は母親失格だ」
アリアはそう言った。
「違う、母さんは母親失格じゃないよ」
「母さんは不器用だけど俺たちに沢山の愛情を注いでくれた。母さんは立派に育ててくれた」
レオは思いを母に伝えた。
「立派に?違う。お前を育てたのはレイカさんだ」
「違う。違うよ、母さん」
「お前はいつもお婆ちゃんに悩みを相談していた。お前は私には何も相談しなかった」
「何が言いたいんだよ、母さん」
レオは聞いた。
「私がレオの母親と言うなら何で私には悩みを相談しなかった?」
アリアは聞いた。
「言える訳ないだろ、僕は魔術の才能が無くて弟や妹に示しがつかなくて悩んでいるなんて」
レオは答えた。
「でもお婆ちゃんには相談した」
アリアはぼやいた。
「母さんに心配を掛けたくないからだろ」
レオは答えた。
「私はレオに少しでも相談して欲しかった」
「私は悲しかった。いつもお前はレイカさんに相談して、懐いているのを見ると心がモヤモヤした」
「私はお前が小さい頃から面倒を見て私の全てを注いだのに……お前は……」
アリアは泣いていた。レオはアリアが泣いているのを見てどうすればいいのか分からなかった。
母さんは気高い人だと昔から思っていただが違った。
「俺が悪かったよ。母さん」
レオは謝った。
「これからは何でも母さんに相談するから…、だから泣かないでくれ」
レオがそう言うとアリアは落ち着いた。
レオはそれから少しの間、アリアの側にいた。
次の日、母さんは病状が悪化し、息を引き取った。
僕が家に戻って少しばかりの時間が経ち、レオも落ち着いた。
「お母さんは助かる?」
アテナは僕に聞いた。
「ああ、助かるよ」
僕はそう言った。
「お母さんを助けて」
「ああ」
アテナにそう言われ、僕は時の石を出し握りしめて強く念じ、時間を巻き戻した。
僕はアリアが死ぬ数時間前に戻った。僕はジャンヌに事情を説明し、ジャンヌを予定より三時間前に天国へ戻した。
僕は急いで自宅へ戻った。
そしてアリアの部屋に入り、アリアにジャンヌから返して貰った力を少しずつ注ぎ込んだ。
力の半分を注ぐとアリアの病は治った。アリアは、徐々に霞んだ目も良くなり、生気を取り戻した。
そして僕に気づくとアリアは泣きながら僕を抱きしめた。そしてアリアの子供達も僕とアリアを抱きしめた。
その後、アリアは病み上がりだが元気になったのでみんなでパーティーをした。パーティーは盛り上がった。




