74話 俺はこの幸せを守るって誓ったんだ。だから俺は―――。
「アルタイル、アルタイル!!」
僕は自分の部屋で寝ていると僕が昔、受肉した時に使っていた名前で呼ばれた。
「誰だ?」
僕は起き上がり、手を組み意識を集中させ、耳を傾けた。
「私よ、アルタイル。アルテミスよ」
懐かしい声の正体は昔、僕が受肉した時に作った嫁のアルテミスだった。
「お前…。封印が解けたのか?」
「うん。封印が何者かによって解かれた」
僕は昔、アルテミスと俺の息子を封印した事があった。二人を封印した理由は僕の息子が神殺しの大罪を犯した。そして命を狙われた。僕の息子だけではなく僕の嫁も神殺しの責任を取らされそうになり、僕はこの問題を解決しようと息子を封印しようとした。僕の嫁であるアルテミスが私も一緒に封印してと頼まれたから僕は二人とも一緒に封印した。
「今そこにアルドは一緒にいるのか?」
僕の息子であるアルドがアルテミスの傍にいるか聞いた。
「うん。一緒にいるよ」
アルテミスは答えた。
「お前達は俺がそこに行くまで外に出るな、分かったな」
「うん、待ってる」
アルテミスが今いる場所は今住んでいる王都からずっと東に行った所にある遺跡だ。
「今、行くからな」
僕は支度をし、家を出た。そしてゲートを使い、遺跡の近くに辿り着いた。
僕は遺跡の中に入った。
「アルテミス、いるかー?」
僕は遺跡の最深部に辿り着き、呼んだ。遺跡の最深部には僕が封印を施した時に使った大きな結晶が粉々に割れていた。誰かが封印を解いたようだ。
「アルタイル!」
アルテミスは隠れていたが姿を現した。アルテミスの傍には僕の息子のアルドもいた。アルテミスの緑の長髪を見て懐かしい気持ちになった。
「アルテミス、アルド!!」
僕はそう言い二人を抱きしめた。
「アルタイル、来たばかりで申し訳ないけど、また私たちを封印して」
アルテミスは僕にそう言った。
「ああ、分かってる。でもこの遺跡は封印の儀式に一回使ってしまったからもうここの遺跡は使う事が出来ない。だから別の遺跡でお前達を封印する」
「神々の手の者がこの事に気づく前にここを離れよう」
「分かった」
僕はアルテミスとアルドと一緒に遺跡を出た。そして近くにある遺跡の方へと向かおうとし、ゲートを使おうとしたが行った事の無い場所には行けないので歩きで遺跡に向かった。
「もう直ぐ着く」
僕達は草木の無い荒れ果てた見晴らしの良い場所を歩いて遺跡に向かった。
「一体どこへ行こうとしているのですか?」
突然の声に僕達は驚いた。声がしたのは上の方だった。僕等は上を見上げると雲に乗った神々が沢山いた。
(罠に嵌められた!!)
幾ら何でも封印が解けた事に気づいてここへ来たとはいえ、ここに来るのは早すぎる。こいつらはワザと封印を解き、僕の目の前で天誅を下そうとしているに違いない。
「お久しぶりです。創造主様」
神の一人、タナトスは空から僕に挨拶をした。
「上から挨拶をするなんてお前も偉くなったものだな」
僕は神であるタナトスにそう言った。
「これは…、大変失礼しました」
タナトスはそう言い、神々は地上に全員降りた。
「私がここに来たのは貴方の息子が神殺しの大罪を過去に犯したのでそれを清算するためです」
「創造主様、アルテミス。その息子をこちらに引き渡して下さい」
タナトスはそう言った。
「ダメ」
アルテミスは息子のアルドを後ろに隠した。
「アルテミス、貴方が正直にその罪人を渡せば、過去の過ちを許すと神々の話し合いで決まりました。庇うというなら貴方もここで処刑します」
タナトスはそう告げた。
「アルタイル。アルタイル!!」
アルテミスは僕が何も言わないので不安になった。
「息子を引き渡せば、アルテミスの罪を不問にするのは本当か?」
僕は聞いた。息子は昔、神を沢山殺した。その罪は重い。だから償わなければいけない、そう僕は心の中で少し思っていた。
「ええ、罪人を庇った罪は不問とします」
俺はアルテミスが大事だ。だから不問としてくれるなら俺の息子を引き渡そうと思ってしまった。
「分かった。お前達の言う通りにしよう」
「アルタイル!!」
僕がそう言うとアルテミスは叫んだ。
「息子を捕らえろ」
タナトスはそう言い、神々の従者達はこちらに近づいてきた。
「いや、ダメ」
神々の従者達はアルテミスとアルドを引き離そうとするがアルテミスは我が子を守ろうと必死にアルドの服を離さなかった。だが、神々の従者達の力によってアルテミスの手がアルドの服から離れた。
「ここで罪人を処刑する」
タナトスは無残にもそう言い放ち、神々の従者はタナトスの目の前にアルドを連れて来た。 アルドも逃げようと抵抗するが無意味だった。
「私が直々に処刑しよう。斧を寄越せ」
従者はタナトスに斧を渡した。アルテミスは抗ったため地面に伏せられた。
「アルタイル!!!アルタイル!!!!」
アルテミスは叫んだ。
「さあ、行くぞ」
タナトスは斧を振り上げた。そして斧を振り下ろそうとした。
「ちょっと待ってくれ」
僕は手が前に自然と出て、言葉を発した。
「何ですか、創造主様」
タナトスは斧を振り下ろすのを止めた。
「アルドは俺の子だ。俺の子なら無罪にしてもいいんじゃないか?」
僕は言った。
「幾ら創造主様の子だからとはいえ、無罪には出来ませんよ」
タナトスは答えた。
「アルドは俺とアルテミスの子だ。種族は神になるんじゃないか?神が神を殺しても罪にはならない」
僕がそう言うと神々はザワついた。
「創造主様とアルテミスは受肉してから子供を儲けだ。だからアルドの種族は人間ですよ」
タナトスは答えた。
「そうか…。なあ、タナトス。アルドが神を殺したのは昔の事だ。もう時効でいいだろ。頼むよ、僕の顔に免じてさ」
「幾ら創造主様の頼みでもダメです」
タナトスはそう言った。
「では処刑の続きをしますね。アルドくん、君の最後の言葉を両親に伝えてもいいですよ」
「――癖に…」
タナトスはそう言うとアルドは口を開いた。
「何だ?」
タナトスはアルドが何を言ったか聞き取れなかったので聞き返した。
「お前ら神々は罪の無い人間を沢山殺した事がある癖に。神が人間に殺されたら喚くのか?」
アルドは神々に向けて叫んだ。
「神は何をしても許される」
タナトスがそう言い返した。
「いいよなあ、神は人を沢山殺しても何も罪には問われない。神と人間は大した違いが無いのに神々はいつも偉そうにしている。悪魔の方がマシだな」
アルドは言い放った。
「黙れ!どうやらお前は早く死にたいようだな。神々を侮辱した罪は重い。お前の魂は地獄へ持って行く事にしよう」
タナトスはアルドの言葉に憤っていた。
「アルタイル!アルドを助けて。アルドは私たちの子なのよ!!」
僕は思い出した。昔、俺はアルテミスとアルドと幸せに暮らしていた時の光景を。俺はこの幸せを守るって誓ったんだ。だから俺は―――。




