7話 魔女の森
翌日になった。
僕とシエラとリリアその他五人で王都の近くにある村に訪れていた。
「勇者様だ」
「ああ、勇者様」
村人達はそう言い、シエラの元に駆け寄ってきた。
リリアに聞くと、シエラはこの村に多額のお金を寄付しているらしい。シエラは子供の未来のために学校を作ったりもしているそうだ。
僕たちは村の子供と遊んだ後、城へ戻った。
外はあっという間に暗くなり、夜中になった。
「シエラ、入っていいか?」
僕はシエラの部屋の扉をノックした。
「いいですよ」
シエラがそう言ったので部屋の中に入った。部屋にはランタンの明かりだけが灯っていた。
「シエラ、今日行った村に多額の寄付をしているらしいな」
僕はそう言い、シエラと一緒にベットの上に座った。
「リリアに聞いたんですか?」
「ああ、聞いた」
僕はそう答えた。
「村への寄付は偽善だと私を軽蔑しますか」
「いや、軽蔑はしないよ。シエラのお金だからどう使おうとシエラの自由だ」
「そうですか…」
シエラは安堵した。
「シエラ、お前勇者は辞めた方がいい。向いていないよ」
僕はシエラにそう言った。
「どういう意味ですか?」
「勇者っていうのは自己犠牲の象徴だ」
僕はそう言った。
「シエラは勇者になって色んな人から頼られたり、命を狙われたり、損な役回りばかりしてきただろ」
「私はそれで後悔したことは無いです」
シエラはきっぱりと答えた。
「シエラは周りを幸せにしてきたけど、シエラの幸せはどうなるんだ」
「…………」
「シエラが今までやってきたことは立派なことだと思う」
「でもシエラにも幸せになる権利がある。シエラにも幸せになる権利があるんだ」
僕がそう言うと、シエラは涙を流していた。
シエラは少しずつ話し始めた。シエラは昔から両親から冷たくされていたそうだ。勇者に選ばれてからは手の平を返したように接してきてそれでもシエラは嬉しかったそうだ。
「シエラ、そんなに泣かないでくれ」
僕はそう言い、手でシエラの涙を拭った。
「シエラ、僕がお前を守ってやる。僕がシエラを幸せにする」
僕がそう言いシエラを抱きしめるとシエラは幸せそうに微笑んだ。
僕はシエラにキスをした。そのまま、僕はシエラの初めてを奪った。
あれから十日が過ぎた。僕も大分ここの暮らしにも慣れた。
僕とシエラはここのギルドを抜けて、僕と一緒に暮らすことにしたのでイザベラに話そうとイザベラの部屋に来た。
「何の話だい?」
イザベラは椅子に腰掛け、パイプたばこを吸っていた。
「僕とシエラはこのギルドを抜ける」
僕はそう言った。
「急な話わね」
「やっぱりだめか?」
「ギルドを抜けていいわよ」
僕がそう言うとイザベラはそう答えた。
「いいのか?」
イザベラの意外な返答に驚いた。
「ヨミ、私はね、お前を警戒していた」
イザベラはそう言うと、たばこの煙を吐いた。
「それって僕がこの世界を滅ぼすからか?」
「そうだ」
「一体誰が占ったんだ。僕はそんな面倒なことはしないぞ」
「占ったのは私だ」
僕がそう言うとイザベラは答えた。
「イザベラが占ったのか?」
「ええ」
「占い当たるのか?」
「当たる」
僕が恐る恐るそう聞くとイザベラは答えた。
「だけどね、未来ってものは変わるものだよ。安心しな」
僕はイザベラにそう言われ安心した。
「もしかして僕が悪いことをしないように最初からシエラと僕をくっつけようと画策してたんじゃないんだろうな」
僕がそう言うとイザベラは大笑いした。
イザベラにギルド脱退の旨を伝えたので、僕とシエラは自分の部屋に戻った。
翌日、僕とシエラはギルドのみんなに別れを言って城から去った。シエラは勇者を辞めた。
「ただいま」
僕とシエラは僕の家に着いたので、扉を開けそう言った。
「お帰りなさい」
エリナが出迎えてくれた。
「腹減った。ご飯はまだか」
僕はそう言い逸らかそうとしたがだめだった。
「ご飯よりもあんた、ずっとどこ行ってたのよ」
エリナに問い詰められた。
「あと、その子誰なの?」
「誰って、んー、難しいな。僕の彼女かな」
「はあーっ」
僕がそう言うとエリナは深いため息をついた。
「まあ、いいわ。中に入って話しましょ。じっくりとね」
エリナは含みのある言い方で僕にそう言った。僕とシエラは家に入った。
僕、シエラ、エリナ、アリア、地主神、僕の息子で部屋にあるソファーに座り話を始めた。
「で、貴方は女を引っかけてのこのこと帰って来たと」
エリナは僕から問いだした後に棘のある言葉で僕にそう言った。
「ああ、まあそうだ」
僕は答えた。
「シエラはこの男が結婚してたの知ってた?」
「いえ、知りませんでした」
シエラは僕をゴミを見る目で見た。
「まあ、この国は一夫多妻制だし大丈夫」
「何が大丈夫よ。本当最低!!」
エリナは相当怒ってるようだ。
「まあ、この話はこの辺で終わりにしよう」
僕がそう言うとエリナはまだ話したりなさそうな顔をしていた。
数時間後、僕は食事の時間に話しを切り出した。
「親睦を深めるため、明日はキャンプをしようと思う」
僕はそう皆に言った。
「キャンプ?」
「ああ、そうだ。王都の近くの森に魔女の森があるだろ。そこでキャンプをしようと思う」
「各自、明日のキャンプに向けて準備しよう。明日は十二時に出発な」
僕はそう言い、話を終えた。
「以上」
気まずい空気が漂っていたので僕はそう言い、自分の部屋に戻った。
翌日になった。
僕たちは魔女の森に辿り着いた。ちょうど十五時になったのでみんなで遅めの昼食を取ることにした。
レジャーシートを広げ、僕たちはバスケットに入ったサンドイッチを食べ始めた。
「これ、うまいな」
僕はそう言い、野菜のサンドイッチ、タマゴサンド、ツナサンドと色々な種類のサンドイッチを食べた。
「おいしいわ」
シエラもサンドイッチを頬張っていた。
「うまい」
アリアもこのサンドイッチを気に入ったようだ。
「この後、どうするの?」
エリナは僕に聞いてきた。
「この後は、魔女の森にあると言われている魔女の家を探しに行きます」
僕がそう言うとシエラは驚いていた。
「魔女の家に行くんですか。危険ではないんですか?」
シエラはそう言った。
「大丈夫。家があっても人の居ない廃墟だから」
「本当?」
エリナは半信半疑だった。
僕たちは食事を終え、寝泊まりするためのテントを設営し魔女の家を探していた。
「本当にあったわね…」
エリナはそう言った。森の中に古色蒼然な家がそびえ立っていた。
「じゃあ、中に入るぞ」
僕はそう言い、家の扉を開けた。中は薄暗く、家の中は埃っぽくは無かった。
「この家、誰か住んでるぞ」
僕はそう言い、僕たちは一階から探索した。しかし扉を開けても何も無かった。
僕たちは続いて二階に上がった。順々に部屋の扉を開けるが誰もいなかった。
最後の扉に辿り着いた。
「開けるぞ」
僕がそう言うと、緊張が走った。
「うわあ」
僕が扉を開けると容姿が幼く黒い魔導服を着た長い黒髪の少女が床に座っていて僕の方を見ると驚いた。
部屋には本棚があり、床には本が沢山バラバラに置かれていた。
「誰だ?お前」
「こっちの台詞です。勝手に人の家に入らないでください」
僕が聞くと黒髪の少女はそう言い返した。
「何この子、可愛い」
エリナはそう言い、黒髪の少女を抱き上げた。
「わあっ、何するんですか!」
黒髪の少女はそう言った。
「お前、ここで一人で暮らしているのか?」
「ええ、ここで暮らしてますよ」
僕がそう言うと、黒髪の少女は答えた。
「この家の近くでキャンプするんだけどお前も一緒にご飯食べないか?」
「良いんですか?」
「ああ」
僕たちはテントを張った場所へ戻り、夕食の準備を始めた。
今日はシチューを作るため、大きい鍋を持ってきていたので下準備をすませると鍋に入れ煮込んでいた。
辺りは真っ暗になり、焚き火の火だけが灯っていた。
「名前は何て言うんだ?」
僕は黒髪の少女に聞いた。
「私に名前はありません」
黒髪の少女はそう答えた。
「何て呼べばいいんだ」
「お好きに呼んでください」
「じゃあ、ルナって呼ぶよ」
「ルナってどういう意味ですか?」
「月っていう意味だよ」
僕は月を指さしそう言った。
「へえ、良い名前ですね。気に入りました」
そうこうしている内にシチューができたのでみんなのお椀に入れた。
「………」
ルナはお椀に入れたシチューを食べた。
「温かい物は久しぶりに食べました」
「とても…、おいしいです…」
ルナはそう言い、涙を流しながら食べていた。
ルナの話によるといつも買い物は人形を操って買いに行かせているからいつも食べ物は冷めた物しか食べれないらしい。
「そうか…。御代わり沢山あるから食べな」
僕はルナにそう言った。
僕たちは沢山作ったシチューを食べ終わった。
「ルナ、俺たちと一緒に来ないか」
僕は焚き火の火に木の枝を入れながらそう言った。
「良いんですか?」
ルナはそう言った。
「一人じゃ寂しいだろ。ルナは何年あそこに住んでいた?」
「多分、二十四年以上住んでいますよ」
「お前、その外見」
二十四歳より上には見えない外見をしていたから僕は驚いた。
「エルフの血が入っているから若いんだと思います」
ルナはそう答えた。
「触っていいか?」
僕はルナにそう言った。
「いいですよ」
とルナが答えたのでルナの耳を触った。
「んっ…」
僕がルナに触れるとルナは恥ずかしそうに俯いていた。
「普通の耳だな」
僕はそう言った。
僕たちは食事を取り終えたので寝ることにした。テントを張っていたのでそこで寝ることにした。僕たちは眠った。
翌日。
僕たちはテントを片付けた。
ルナは僕たちと一緒に暮らすことになった。ルナはよっぽど一人で暮らすのは寂しかったのか家を出るのに戸惑いは無かった。
ルナの荷作りを手伝い。僕たちは家に向かった。
僕らは家に辿り着き、シエラが昼食を作るそうなので各自、昼食が出来るのを待っていた。シエラはご飯の支度をしていた。
「…………」
シエラは黙々と野菜を切っていた。
「ひっ、何するんですか!」
僕はシエラの尻をスリスリと手で撫でた。
「誰もいないんだし、良いじゃないか」
僕はそう言うとシエラの尻に顔を押し当て鼻息を吹かせていた。
「幸せだ」
「幸せで良かったね」
僕がそう言うとシエラは僕の頭を撫でた。
僕はシエラの元から立ち去った。