64話 戦いの幕は下ろされた
「がはっ」
「ガレス!」
死闘の末、ガレスはディアナに剣で刺され死んだ。ガレスの名を兄であるアグラヴェインは叫んだ。
「おのれ、よくも我が弟を殺したな」
「許さんぞおおおおおおおおおおおおおおお」」
アグラヴェインは頭にきてキレ、咆哮した。
「死ねええええええええ」
怒り狂ったアグラヴェインの剣撃にディアナは押される。
「お前は最後に殺してやる」
アグラヴェインは攻撃を止め、ゼノに向かって行った。
「ゼノ、逃げて!!」
アグラヴェインは風魔法を身体に纏わせ、凄い勢いでゼノに向かって来た。
「お前も私と同じ痛みを知れえええ」
「召喚魔法:オルトロス」
アグラヴェインはゼノの目の前に召喚獣、オルトロスを召喚した。黒い双頭に尻尾が蛇という姿であった。
「あああああああああああ」
ゼノは自分の身を守るために氷魔法でオルトロスに氷柱を当てるが傷一つ付かなかった。
「がああっ…」
ゼノはオルトロスに身体を噛みつかれた。身体から血が吹き出た。
「ゼノ!」
ディアナはアグラヴェインを力で退け、ゼノの方へ行った。
召喚獣のオルトロスはゼノを噛みついてたのを離し、役目を終え、消えた。
「ゼノ!ゼノ!!」
「師匠…」
ゼノは掠れゆく声で言った。
「大丈夫。今、傷を治すから」
ディアナはゼノに治癒魔法を掛けた。
「傷を塞いでも僕は助からない、もうダメです」
「ダメなんかじゃない!」
ディアナは焦っていた。
「僕は一生、師匠と何気ない普通の暮らしを送ると思っていた。でもそうはいかなかった」
「もう喋るな、傷口が開く」
「人はいつか死ぬ。僕はそう思っていたから心残りがあるとは思ってもいなかった」
「僕は師匠が心配だ。貴方は人とは余り関わらず、孤独に生きている」
「僕がそんな師匠の人生を変え、師匠が皆と笑って暮らせるようにしたかった」
ディアナは涙を流していた。
「師匠、そんな悲しい顔をしないで下さい。僕は師匠が笑った顔が好きだ」
「師匠、笑って」
ゼノがそう言うとディアナはぎこちない笑顔を見せた。
「師匠、僕は貴方に出会えて良かった。ありがとう」
ゼノはそう言うと、目を閉じ、死んだ。
「ダメだ、ゼノ。起きろ。ゼノ!!」
ディアナはゼノを起こそうとするがゼノは永遠の眠りにつき起きることはなかった。
「んー、泣けるねえ~」
アグラヴェインはゼノとディアナの最後の会話を見守り、ふざけた言い方でディアナに近づいてきた。
「がああっ…」
アグラヴェインは血を吐いた。アグラヴェインを後ろから刺したのはユウイチだった。
アグラヴェインは地に伏せ、死んだ。
「大丈夫…、じゃないな…」
僕はゼノを抱きしめ泣くディアナを見てそう言った。
「ユウイチ、時の石を私に貸して」
ディアナは僕にそう言った。
「ダメだ、ディアナ。お前、死ぬ気だろ」
「いいから時の石を渡して!!」
「ダメだ、お前を失う訳にはいかない」
僕はディアナをここで失う訳にはいかなかった。
「時の石が欲しいなら力尽くで奪え」
僕はディアナと戦うため距離を取った。そしてお互いに剣を構えた。
「何でそんなにゼノに拘る」
僕はディアナに聞いた。
「ゼノは…、ゼノは私の全てなんだ!!」
「死者の安息」
ディアナの右腕は黒い大きな魔力で覆われた。人の命を刈り取るような大きな黒い鉤爪かぎづめ、まるで大きな黒い化け物の腕のようだった。可視化できるほどの黒い魔力が漂った。
「どうやら本気のようだな」
「暗黒解放:死と滅亡の運命・もう一つの力」
僕は剣を持った右腕を横に伸ばし、剣を斜め下に向けた。そして唱え、僕の頭の上に赤い天使の輪が現れ、剣から赤い魔力が漏れ、体の周りからは赤い閃光が光り、そして消えた。
「ゼノを救うのは諦めろ」
僕は黒い大剣に有りっ丈の力を込めた。僕の周りに赤い稲妻が走った。
僕の剣の持ち手から刀身にかけて赤い閃光が走る。僕の黒い大剣は赤いオーラが渦みたいに流れた。
「時の石を渡せ!!」
ディアナは叫び、こちらに飛び掛かって来た。
ディアナは必死に戦うが優一には結局勝てなかった。
「お願いします、時の石を私に貸して下さい。お願いします」
ディアナは地に這いつくばり、僕に縋るように僕の足下の裾を握りって懇願した。
「悪いがお前には死なれちゃ困るんだ」
僕は無残にもそう言い放った。
「二人とも何してるの!!!」
ルナの声に僕たちはびっくりした。ディアナは立ち上がった。
「…で、ディアナはゼノを蘇らせるために優一と戦ったのね」
ルナは僕とディアナの話を聞き、そう言った。
「ユウイチ!貴方は私に約束したよね。自分の子供が危険になったら必ず守るって」
「あの約束は嘘だったの?ユウイチ!」
「それは…」
僕は涙を流し死んだゼノを抱きしめるルナを見て言葉が出なかった。
「ユウイチ。ディアナに時の石を渡して」
「分かったよ」
僕はディアナに時の石を渡した。
「お願い、ゼノの命が奪われる前に時間を戻して」
ディアナは時の石を握り、強く願った。そして時間は巻き戻った。
「お前も私と同じ痛みを知れえええ」
「召喚魔法:キマイラ」
アグラヴェインはゼノの目の前に召喚獣、キマイラを召喚した。黒いライオンの頭に山羊の胴体、尻尾が蛇という姿であった。
「あああああああああああ」
ゼノは自分の身を守るために氷魔法でキマイラに氷柱を当てるが傷一つ付かなかった。
「ゼノ!私の力をゼノに上げる」
ディアナはゼノの方へ手を伸ばし、白い天使の輪の力をゼノに譲渡した。ゼノはキマイラに身体を噛みつかれたが傷一つ付かなかった。
「お前、時間を巻き戻したな、じゃあ、お前が死ねえええええええええええ」
アグラヴェインはそう叫び、剣を振り下ろした。
「ふう、間に合った」
ユウイチはディアナに振り下ろされた剣を防いだ。
「お前!」
アグラヴェインはユウイチが現れたのに驚いた。
「お前に恨みは無いが死ね」
優一の黒い大剣でアグラヴェインは刺し殺された。召喚獣は消えた。
「ゼノ!!」
ディアナはゼノの方へ駆け寄った。
「大丈夫?怪我は無い?」
「師匠…」
ディアナはゼノを抱きしめた。
「ゼノ…」
ルナはゲートでここに辿り着き、僕の隣に来てゼノとディアナを見守った。
「ルナ、ディアナとゼノを任せて良いか?」
「うん、分かったわ」
ルナは答えた。
僕はまだ円卓の騎士と戦っている自分の子供達が心配なのでその場を去り向かった。
優一は心配しながら子供達の所に行ったがみんな無事であった。
こうして円卓の騎士との戦いは幕を下ろした。




