52話 何も無い
レオは自分の部屋に戻った。
「くそお!くそ、くそお!」
レオは自分の枕を拳で殴った。そして枕を掴み、何度もベッドに叩きつけた。
「大丈夫?レオ」
ハクアはレオが心配になり、部屋に入った。
「ハクア…」
レオはハクアの名を呼んだ。ハクアはレオの傍に近寄った。
「どうしたの?」
ハクアは聞いた。
「さっき、父さんが力を誰かに譲渡するって言ったんだ。俺はそれを聞いて一瞬迷った。だから力はアリアに譲渡された…」
「俺はルークのように修行して力を手に入れる度胸もない、弟達のような才能も無い」
「俺には何も無いんだ。俺だって力を使えるようになって誰かをを守りたいよ…」
レオは涙を流した。レオは弟や妹の前では泣かないと決めていた。だが誰かに心の内を明かしたかった。泣き言を言いたかった、例えそれがどんなに情け無い物でも…。
「私も貴方のように苦しんだから貴方の苦しみは分かるよ。大丈夫よ、レオ。私の力、貴方に上げるから」
「でも、いいのか。ハクアの力は父さんから貰った大切な力なんだろ」
「いいよ、私はレオに力を上げたいから上げるの。手を出して」
「ああ」
レオは手を出した。ハクアは手を握った。ハクアの頭の上に氷の天使の輪が現れ、そして消えた。レオの頭の上に氷の天使の輪が現れた。
「俺にも力が…」
レオは自分の部屋にあった鏡を見た。レオの頭の上には氷の天使の輪が浮かんでいた。
「ありがとう、ハクア。本当にありがとう」
「うん」
レオはハクアを抱きしめた。
「ハクアに何かお礼しないとな、俺に出来ることなら何でもするよ」
レオはハクアにそう言った。
「うーん。それなら私と結婚して欲しいな」
「えっ」
レオはハクアの発言に驚いた。
「冗談、冗談」
ハクアはレオの反応を見てそう言った。
「ハクア、俺もお前と結婚したい」
「えっ…」
レオはハクアの目を見つめて言った。
「私が貴方に力を上げたから、そのお礼?」
「違う。違うよ、ハクア」
レオはハクアの両肩を掴み、否定した。
「俺はハクアと初めて会った時、運命を感じたんだ。俺はこの女性と結婚するって」
「一目惚れってこと?」
「一目惚れ、いや、うん、その通りだ。俺はハクアに一目惚れしたんだ」
「そっか…」
ハクアは顔を少し赤らめた。
「そうだ。ハクアお前にプレゼントがあるんだ」
レオは机の引き出しを開け、小さなケースを持ってきた。
「もしかしたらいらないかもしれないが…」
レオは小さなケースを開けた。ケースの中には婚約指輪があった。
「凄い。私にくれるの?」
「もちろん。指を出して」
ハクアは手を出し、レオはハクアの左手の薬指に婚約指輪を嵌めた。
「大きいね」
「六カラットだから大きいよ」
ハクアが見たことが無いサイズのダイヤだった。
「ありがとう、大切にするね」
ハクアはとびきりの笑顔でそう言った。
「ハクア…」
「何?」
「俺と結婚してくれるか?」
「うん、いいよ」
「俺はハクアを一生大事にするよ」
レオはハクアを抱きしめた。
「ハクア、どうした?」
ハクアはずっと啜り泣いていたのでレオは心配した。
「お姉ちゃん達と妹達には悪いけど、お父さんと私が血が繋がってなくて良かったと思ったの。血が繋がってないからレオと結婚できるって。でもそんな事を思えるなんて私、性格悪いのかな…」
ハクアはそう言った。
「そんな事は無いよ」
レオはハクアを抱きしめ、髪を撫でた。




