40話 アリサの死に向き合う
扉をノックする音が聞こえ、近くにいたシエラの息子のクロスが玄関のドアを開けると赤い髪の女の人がいた。
「どうしたの?お姉さん、誰かに用があるの?」
クロスは聞いた。
「貴方のお父さんに用があるの、呼んできてくれるかな」
「うん、分かった」
クロスは赤い髪のお姉さんにそういわれ、僕を呼んだ。
「クロス、何だ?父さんは今、眠いんだ」
「いいから来てお父さん」
僕はクロスに手を引っ張られ、玄関まで来た。
「あの…、どなたですか?」
僕は赤い髪をした女の人にそう言った。
「私はあなたの娘のアリスです。未来から来ました」
僕はそう言われすっかり目が覚めた。
「………。でお前がアリスという証拠は?」
「証拠はこのネックレスです。私の誕生日にお父さんから貰ったものです」
僕が呆気に取られているとアリスと名乗る人物が首に掛けていたネックレスを見せた。
「………」
僕は女の掛けているネックレスを知っていた。僕が昔、ダンジョンで手に入れたルビーのネックレスだ。いつかアリスの誕生日にあげようと思っていたやつだ。
「まあ、入れよ」
僕はアリスと名乗る人物にそう言い、ダイニングに案内した。
エリナは僕たちに紅茶を出してくれた。
「………」
アリスと名乗る人物は出された紅茶を飲んだ。僕はじっとアリスと名乗る人物見ていた。確かに何処となくアリアに似ている。今のアリスが成長したらこうなるであろうと予想できる。
「父さん、私に何か聞きたいことはありますか?」
アリスは僕に聞いてきた。
「何でアリスは過去に来たんだ?」
僕は気になったので聞いた。
「レイスとの戦いの中で父さんは私がレイスに殺されそうになった時、私に力を掛けて、私を過去に送ったからだよ」
「そうか…」
大体の事情は分かった。
「アリス、お前がここに来て何日ぐらい過ぎた?」
「三ヶ月前だよ」
「何でもっと早くここに来なかったんだ」
僕はアリスに聞いた。
「私はある事情で冥府の十二使徒の一員となって情報を集めていた」
「ある事情って?」
「………」
「父さんには言えないのか」
アリスは黙るので僕は聞かないことにした。
「冥府の十二使徒って、お前大丈夫なのか。僕と居るところを誰かに見られたら…」
「心配ないよ、お父さん。冥府の十二使徒のボスは私が殺したから。冥府の十二使徒はもうバラバラになったよ。だから人員補充もされないし、今いるメンバーも何人かは殺したし、取り逃がした人もいるけどその人達は組織をまた作れるとは思わないよ」
「そうか…」
淡々と言うアリスになぜか僕は切なくなった。アリスには戦いとは無縁の生活を送らせたかった。
「お父さん、そんな悲しい顔をしないで」
「アリス…」
「私が選んだ道だから」
アリスも何だか悲しそうな表情を見せた。
「アリス、お前は元いた場所に戻れるのか?」
「分からない。あの時はお父さんは必死だったから」
「そうか…。ごめんな、アリス」
「いいよ。お父さん」
「アリア…」
「何?父さん」
「レイスの事、詳しく教えてくれないか?」
僕はレイスという人物に興味があった。
「レイスと言う人物は一言で言うと途方もなく強いですかね」
アリスは話し始めた。
「レイスは魔法、剣術、知能、戦いのセンスどれをとっても1級の強さです」
「詳しくは知らないのですがレイスはお父さんと同等の力を持ってます。戦っててそれは身にしみました」
「今からお父さんが努力して強くなってもレイスはそれをいとも簡単に超えていきます」
「じゃあ、僕にはレイスは倒せないのか?」
僕は絶望した。
「倒せますよ。きっと。私はお父さんを信じてますから」
アリスは寂しそうな笑顔を見せた。もう自分の死を悟ったのかのように。
僕たちはその日からアリスと一緒に暮らすようになった。
アリスは僕が外に出ると一緒に付いて来るようになった。理由を聞いても逸らかされた。
夜になった。
僕はエリカとリナと一緒に寝ていた。
(お父さん…)
大人のアリスはドアを開け、部屋に入り、僕が寝ている方に行き僕の隣に寝転んだ。
「………」
アリスは僕の左腕に頭を乗せ、僕にくっ付いた。
「何だ?アリアか」
僕は寝ぼけていたのでアリアと勘違いしていた。
「アリアは甘えん坊だな」
僕はアリスにそう言い頭を撫でた。
「………ぷい」
アリスは僕に背を向けた。
「何だよ、アリア。恥ずかしいのか?」
僕は逃げるアリスを抱き寄せ、アリスの首に鼻でくんくん匂いを嗅いだ。
「お父さん、だめ」
「おおっ」
アリスはそう言い、僕は目が覚めた。
「お前、アリスか?」
「うん」
アリスは顔を赤くしていた。
「悪い」
僕は謝った。
五日後…。
「お父さん、おはよう」
「おはよう」
僕は昼まで寝ていたが目が覚め起きた。エリカとリナ、アリス、アメリア、大人のアリス、水月はおままごとをしていた。
「みんなのジュースとお菓子を持ってくるからな」
水月はそう言い、立ち上がった。
「俺が持ってこようか?おままごとも途中だし…」
「いいんじゃ、優一。私が持ってくる」
水月はそう言い、ジュースを取りに行った。
「お父さんは何で昔から水月お婆ちゃんと会話するときぎこちないの?」
「お互いになんか避けているように見えるけど」
エリカは僕に聞いてきた。
「それはだな…」
僕はアリサの事を話した。僕を生かすためにアリサを殺すのを水月は手を貸したことを話した。
「水月が可哀想だよ」
「確かにお父さんの大切な人を奪うのに手を貸したのはいけないことだけど、水月お婆ちゃんはもう十分過ぎるぐらい苦しんだよ」
「そうだな…」
エリカにそう言われ、僕はそう答えるしか無かった。
「ジュースとお菓子持ってきたよ」
水月はそう言い、みんなにジュースを配った。
「お父さんもおままごとする?」
「じゃあ、お父さんもしようかな」
「水月お婆ちゃんも早くやろ」
エリカがそう言った。
「儂はいいや。ちょっと外の空気を吸いたくてな」
水月はこの場から逃げるように出て行こうとした。
「水月。もう怒っていないよ」
僕は立ち上がり、部屋から出て行こうとする水月にそう言った。
「………」
水月は立ち止まり、固まった。そしてポロポロと涙を流した。
「ごめんな、優一。ずっと謝りたかったんじゃ。でもどう言えばいいのか分からなくて。ごめんな、優一」
「いいんだよ、水月」
僕はこちらに来て泣きじゃくる水月の頭を撫でた。
「ごめんな。水月はずっと苦しんでいたんだよな」
「いいんじゃ。優一の苦しみに比べたら些細な事じゃ」
僕は吹っ切れたようだった、今までアリサを殺すのに手を貸した水月を恨んでいた。でもエリカにそう言われ、水月も十分過ぎるぐらい苦しんだと思った。アリサの死に向き合えたそんな気がした。




