26話 悲しみ
「ほう、それが時の石の力か…」
黒い炎を放った一人の女が感心していた。
「お母さん」
アリアはその女を見てそう言った。黒い炎を放ったのはアリアの母親であるライラであった。
「何で、あんたは死んだはずだ!!」
僕は死んだはずのライラを見て驚いた。
「ああ。私は、あの時死んだ」
ライラはそう告げた。
「お母さんはお父さんに会うために死んだんじゃないのか?」
「そうだ。私は夫に会うために自殺した。三途の川の前に行ったが誰も私を待っていなかった」
「そんな…」
ライラの言葉にアリアは何も言葉が出なかった。ライラの夫はライラを待っていなかった。
「だから私は嘆き悲しみ全てを呪った。そして私は再びこの世に蘇った」
「私はその時の石で過去に戻り、人生をやり直す。私は夫と幸せに暮らすんだ。だから時の石を渡せ」
ライラは僕にそう言った。
「アンタは何故、アリアとレオに向けて攻撃したんだ?」
僕は聞いた。
「それは時の石に過去に戻る力があるかどうか試しただけだ」
ライラは僕の問いに答えた。
「時の石に過去に戻れる力が無かったらどうするつもりだった?」
「別にどうもしない」
ライラはそう答えた。
「アンタは自分勝手なんだよ。俺はアリアとレオを殺そうとしたお前を許さない」
僕は怒りを抑えきれなかった。僕はアリアとレオから離れた。
「!」
ここら一帯の地から黒色の魔力が吹き出した。この世界の空気中、地中にある無数の膨大な魔力が優一を中心に集まる。優一の身体は少し浮かび、魔力は優一に向かって流れ、優一を包み込み深い黒色の球体となった。
そして球体は割れ地面に破片が落ちた。僕の宙に浮いていた足は地面に着いた。
「暗黒顕在」
僕はそう呟いた。先までの僕の姿は変わり、黒い鎧を身に纏い、四大死宝を身に付けた。四大死宝とは死を司る四つの宝の事だ。死の聖剣:アロンダイト、死の首飾り:エンリル、死の指輪:アダト、死の首飾り:ヌト、この四つの死の宝を四大死宝と呼んだ。黒竜の腕と足のある姿となった。僕の眼の角膜の色は赤に変わり、瞳孔は黒く鋭く尖っていた。そして僕の左の頬に、獣の爪で真っ直ぐ縦に抉られた四本の黒い傷のような物が現れた。それを僕は死の刻印と呼んだ。僕の左目の白目は黒くなった。僕の今の姿は破滅を齎す邪悪な黒竜と呼べる位、禍々しい姿だった。
「くっくっくっ」
ライラは僕の姿を見て笑っていた。
「その姿。まさか自分だけの専売特許だと思ってはいないだろうな」
「まさか…」
「そのまさかだよ」
僕は察してしまった。
「紫電顕在」
ライラがそう唱えると黒い暴風が身体を包み込んだ。そして消え、ライラの姿は変わった。今まで着ていた服は別の服装に変わり、紫色の竜の腕と足、そして竜の尻尾。眼の角膜の色は紫に変わり、瞳孔は黒く鋭く尖っていた。
「………」
僕はライラに無言で近づいた。僕はライラの目の前まで歩いた。
「何だ、戦わないのか?」
ライラは僕が何も言わずに近づき目の前に来たので優一が戦うのを止めたのかと思った。
「くくっ」
ドンンンンンンッッッ!!
僕は少し不気味な笑いを見せると僕は右手の薬指と小指を指を軽く曲げ右手を下から上に勢いよく天に突き上げた。宝石のような深い黒色の六角柱状の巨大な結晶が多数出現し、連なり一つになった。
「古竜固有魔法:暗黒水晶」
僕は不気味な笑いを見せ唱えた。黒く深い赤の水晶にライラは閉じ込められた。




