20話 桜
「!」
僕は目を覚まし、身体を起き上がらせた。そして辺りを見回した。どうやら先までの戦いの記憶が無いようだ。
「………」
僕は天に近寄った。
「強くなったね。小さい頃の何も守れなかった弱さが嘘みたいだ」
「久しぶりだね、ヨミ君」
天は手で顔を覆い、離すと、先まで見ていた顔とは違う顔だった。
「そんな…。馬鹿な…」
僕は驚いた。昔から知っている顔だった。天の正体はアリサの父親だった。
「そんな…」
僕は両膝を地面につき涙を流した。
「何で…」
僕はアリサの父、藤井英二にそう言った。
「何でって、君は私の正体が分かったら戦意消失するだろ。だから私は顔を変え、君と戦った」
「勘違いしないで欲しいのだが、僕は君と戦っているとき手加減はしていない。私は君を本気で殺そうとしていた」
「だが君は本気の私に勝った。どうやら私はアリサとアヤカに会えれるようだ。良かった」
英二はそう言った。
「なぜ復讐するのがこんなにも遅くなったんだ?もっと早くやれば僕を殺せたのに」
僕はアリサの父親に聞いた。
「何でだろうなあ。私も最初はアリサ殺した関係者全員殺そうと思っていたが、キミが君の父親シスイを殴り飛ばしたのを見た時、ポッカリ空いた、私の心は満たされたんだ」
英二さんはそう言うと満足したような顔をした。
「そういえば忘れていた。君にこれを渡すのを」
「これは何ですか?」
僕はアリサの父にそう言われ丸くて黒い玉をポッケから出した。
「君はいらないのかもしれないが…。君が私に浴びせた赤い渦、何か見覚えはないかね」
「ノマドが使っていた技、イル・ネア・ブラストですか?」
「そうだ。この黒い玉には奴の力が入っている。この黒い玉を君が割ればその中に入っている力は君の物になる」
「受け取れません」
僕はレオを殺そうとした奴の技なんか欲しくは無かった。
「この技は元々、君の物だったんだ。ノマドの先祖が君から力を奪い取り、代々、この力を継承してきた。だから受け取ってくれ」
「分かりました。受け取ります」
受け取りを拒否できなかった僕は黒い玉を受け取った。
「もういいだろう。早く自分の世界に戻りなさい。私はもう直ぐ死ぬ。私が死ぬとこの世界は崩壊するかもしれない」
アリサの父は僕にそう言った。
「おい、何をしているんだ?」
僕はアリサの父親を背負った。
「あんたを連れて行ってアリサとアヤカさんの墓に埋葬するんだ」
「もう君はボロボロじゃないか。私を背負って空間魔法で空間を通るなんて無茶だ…」
「僕はあんたをこんな寂しい世界に置き去りなんて出来ない」
「やるんだよ。無理かもしれないけどやるんだよ」
僕は最後の力を振り絞り空間魔法でゲートを開いた。僕の黒い大剣も僕の身体に魔力として溶け込んだ。
僕達はゲートに入って元の世界に戻ろうと僕は英二さんを背負って歩いた。
「英二さん、知っていますか?」
「何を?」
「僕、アリサと会ったんです。魔王城で」
「知っているよ」
英二さんは答えた。
「会ったんですか?」
「いや、直接会った訳じゃ無い。私がアヤカの墓参りに行ったときアリサを見かけた」
「アリサの大人の姿を見れて良かったのと同時にアリサの涙をみて申し訳なかったと思ったよ」
「そうですか…」
僕はそう言うしか無かった。
「ヨミ君、済まないが私が死んだらアリサとアヤカの墓に一緒に埋めてはくれないか」
「分かりました。ちゃんと埋めます」
「ありがとう、ヨミ君」
僕がそう言うとお礼を言われた。
「もう直ぐ出口ですよ」
僕は出口が見えたのでそう言った。
「英二さん?」
「………」
「英二さん…、……、ぐすん」
僕は背中を揺らすと、英二さんが死んだのに気がつき、涙を流した。
「俺は…、大人になって英二さんと一緒にお酒が飲みたかった…」
「英二さん、ごめん。アリサを守れなくて…」
僕は涙を流しながら死んだ英二さんにそう言い、元の世界に戻った。
僕は英二さんに言われたとおり、火葬後、アリサとアヤカさんの墓に英二さんの遺骨を納骨した。
アリア達はゲートで自分の家に戻らせた。僕はまだこの世界に居たかったのでそこら辺を散歩していた。
「父さん、父さん、聞こえますか?」
「誰だ?」
僕を呼ぶ声が聞こえたので聞いた。僕は近くのベンチを見つけ座り、手を組んだ。
「私です。あなたの息子です」
「私の子供はレオしか居ないんだが…」
「そうか、そうですよね、良かった。私は未来のあなたの子供です」
「そうか…。でどうした? 要件は」
いつかこうやって会話出来ることは知っていたがあまりこういう会話はしたくは無かった。
「近い将来、レイスと言う人物が現れ王都を破壊します。だから父さんに伝えたくて…」
「そうか。お前は大丈夫なのか?」
「僕は大丈夫です。だけど母さんが…」
「お前の母親はどうなったんだ?」
「母さんは…、僕を庇って死んだ。ごめん…、父さん。ごめん」
僕はそれを聞いたとき心が空っぽになった。
「お前の兄弟は大丈夫なのか」
「兄さん達が僕達を逃がして戦っていたから僕達はばらばらになったから分からない」
「僕はどうすれば良い。何かを伝えたくてお前は僕を頼ったんだろ」
「ええ、そうです」
「父さんは自分の子供には剣術や魔術を教えないようにしていた。だから父さんは僕達に剣術や魔術を教えてあげて欲しいんです」
「そうすれば未来が変わる。みんなで力を合わせればレイスを倒せるかもしれない」
「分かった。教えてくれてありがとう」
「お前はこれからどうするんだ?」
僕は息子に聞いた。
「レイスに一太刀浴びせに行きます」
「お前ではレイスとかいう奴に指一本触れることが出来ないと思うぞ」
「分かってます」
「息子よ。お前、名前何ていうんだ」
「僕の名前は――」
「すまんがもう一度、言ってくれ」
「僕の――は――」
僕の息子と名乗る男の声は聞こえなくなった。
(息子よ、お前は逃げて生き延びるんだ。それがどんなに見窄らしくても)
僕は手を組み、力を入れ念じるが再び息子と名乗る人物と会話は出来なかった。
僕はこの後、イザベラとみんなにレイスの事を話した。
季節は移り変わり四月になった。
「もう直ぐだよ」
「ああ」
エリナにそう言われ僕は答えた。
エリナが僕と腕を組みながら桜が満開の道を歩いていた。 花見でレジャーシートを引いて酒盛りをしている人が沢山居た。
「エリナ…」
僕はか細い声でエリナの名前を呼んだ。
「何?」
エリナは僕の方を見てそう言った。
「愛してるよ」
僕はエリナの顔を見ずにぽつりと言った。
「………」
エリナの顔を見るとエリナは涙を流していた。エリナは左手で涙を拭った。
「あそこだよ」
エリナと僕は歩き、目的地が見えるところまで辿り着いた。
「おーい」
カミラの声が聞こえた。カミラは手をこちらに振っていた。
「さあ、座って。ヨミ」
イザベラにそう言われ僕とエリナはレジャーシートに座った。
周りを見ると今日集まってくれたのは僕の家族と黒十字騎士全員とイザベラ、リリアだった。
「じゃあ、みんな乾杯の準備出来たか?」
カミラはそう言った。みんな紙コップにジュースを入れ乾杯を待った。
「ヨミの退院祝いに乾杯」
「「乾杯」」
僕達はみんなで乾杯した。
僕達はみんなが用意してくれた食べ物を沢山食べ、ジュースやお酒を飲んだ。
お酒は遠山先生にあまり飲まないように言われているので2杯だけ飲んだ。
僕が飲んだお酒は二万五千円のちょっと高いバーボンウイスキーを少量入れ、甘いコーラを入れた物だ。僕はこれが好きで昔から良く飲んでいた。僕はピザやバーガーを食べ、それを飲んだ。
僕は大切な人たちに囲まれ食事をして僕は幸せな気分だった。
僕はこれから大切な物を失わないようにもっと強くなろうと思った。どんな強敵が出たって僕はみんなを守るため勝てなくても戦うのだと思う。
僕はお酒を飲みながらふと上を見た。ただ一言、そう思った。
「桜が綺麗だ」




