116話 盾
「んー。とても泣けるねえー」
僕の後ろから声がしたので振り返った。
振り返ると白い鎧を身に付けた懐かしい人物がいた。
「ハル…」
「久しぶり、父さん」
僕の前にいたのは僕の息子だった。
「何でお前がここに…」
「そうだよなあ、父さんは俺達をここに来れなくしたんだから驚くよなあ」
「お前と母さんが人類の創造主という定められた宿命から解放される為に俺と妹は人柱にされた」
「俺はお前に復讐するために運命を捻じ曲げてここへ来た」
ハルはここに来た経緯を言った。
「アンタは俺達に宿命を押しつけて解放されてどう思った?」
「どう思ったかって?やっと解放されたと思ったよ」
「俺達に申し訳無いと思わなかったのか?」
「ああ、全く思わなかったよ。だってさあ!子供っていうのは親の尻拭いをする為に生まれてくるものだろ」
「そうか。何か止むに止まれぬ事情があったのかと少しばかり思っていたけどお前が只のクソ野郎って事が分かったよ」
「何か理由があれば許してくれるのか?軽いなあ、軽すぎるよ。お前の復讐心はそんな事で消えるのか」
「どうやら人の神経を逆撫でするのが得意なようだな」
「おー、怖怖」
ハルは顔に血管が浮き出る位、怒りに満ちていた。
「ハル、俺と戦うなら場所変えるぞ」
「戦いはもう始まっている」
ハルがそう告げた瞬間、王都の至る場所で爆発が起きた。街の人々の悲鳴と子供が泣く声がした。街が破壊されていった。
「ハル、お前の仕業か?」
「そうだ。俺の仲間が暴れている」
「今すぐ止めろ」
「嫌だ」
ハルは拒否した
「場所、移動するぞ。ついて来い」
俺は風魔法で宙に浮き、空に向かって飛んで行き、王都の外に向かって行った。ハルも風魔法で僕の後ろについて来た。
(ここら辺で良いか…)
バチン!!
僕は風魔法で高速で移動し、空中で風魔法を急に解いた所為で音が鳴り地に降りた。ハルも地に降りた。
「ハル、王都で仲間を暴れさせるのを止めろ」
「……」
「仕方無いなあ」
ハルは空間魔法で花火玉を取り出し火を付け、空高く投げた。そして花火が散った。
すると王都の街が破壊されるのが止まり、六つの黒い影がこちらへ来た。
そしてハルの所に六人のハルの仲間が集まった。
「ハル様、其奴がハル様を捨てたクソ親なんですか?」
仲間の一人の女が聞いた。
「ああ、そうだ。今から父と戦うからお前達はそれを見届けろ」
「了解」
仲間の一人の男はそう答えた。
「ユウイチといったか、奴は強いのか?」
「さあ?まあ、ハル様の父親なんだから強いでしょ」
「そうか。お手並み拝見といこうか」
どうやら仲間達は見物するようだ。
「まず始めに破壊しとくか」
「技術破壊」
ハルは僕に手を向けた。そして僕はガラスのように割れ、僕は地に手をつけた。
「俺は父さんの持っている竜人になる技を破壊した」
「どうだい?父さん。自分のアイデンティティを壊された気分は!!」
僕は竜人の力を失い、尻尾が無くなり、尻尾に付けていた鎧は地に落ちた。
「一人で盛り上がっている所悪いが、竜人の力は僕にとって取るに足らない只の力だよ。」
「強がりか?」
「いいや。試してみれば分かるさ」
僕は構えた。
「暗黒咆哮・V2 タイプ:シールド」
ハルは唱えた。空気中にある無数の膨大な魔力がハルを中心に集まる。ハルの身体は少し浮かび、魔力は僕に向かって流れ包み込み、深い黒い渦のような球体となった。
そして球体は割れ地面に破片が落ちた。ハルの宙に浮いていた足は地面に着いた。
ハルの姿は変わり。僕の眼の瞳孔は黒く尖り、角膜は深い白色になり、眼の光りは失われ冷たい目となった。ハルは白い竜人の姿となった。
ハルの両手にはそれほど大きく無い、二つの白い盾を持っていた。
盾の形は上の部分が平らで両側は下に真っ直ぐで、下の部分は尖っている形だ。
盾の裏の上の部分に盾を持つ為の持ち手があり、ハルはそれを握りしめた。
足は化け物みたいな禍々しい黒い三本鉤爪のみで足の爪の部分に二本、踵に一本の鉤爪だった。
足の鉤爪が地面に突き刺さっており、鉤爪のみで身体を支えていた。
鉤爪は人の頭を鷲掴みし、粉砕する事の出来るような禍々しい大きな黒い爪であった。手も禍々しい黒い鉤爪に変化した。
「ブイツー」
僕の手と足はハルと同じ禍々しい姿となった。
「お前、まさか。意味を分かっててその盾を使うのか?」
「意味?そんなのどうでも良いだろ」
「お前ッ!!」
僕は強く睨む。
「お前達、自分達が何をしたか、分かっているのか?」
「「はあ?」」
俺はハルとハルの仲間に聞いた。
「お前達が暴れた所為で家を失った人がいる。お前らは取り返しのつかない事をしたんだぞ」
「だから何だよ」
ハルの仲間は少し笑った。
「泣いていた」
「「は?」」
「子供が泣いていた!!」
風魔法で飛行している時、壊された家の前で泣いていた子供を見かけた。僕はその光景を忘れる事は無いだろう。僕は涙を流し男泣きした。
「このおっさん、いい歳こいて泣いてるよ」
「ウケるんですけど!!」
「「ははははは」」
ハルの仲間は男泣きする僕を見て笑った。ハルは笑わなかった。




