110話 向き合う
僕の身体から黒い小さな炎が抜けて剣の形となった。僕は剣を握り戦闘不能の神威に向かって振り下ろそうとした。
「待てよ、親父」
「!」
僕の振り下ろした剣を僕の息子であるケイが剣で受け止めた。
「ケイか…。何故、俺の邪魔をする?此奴はワタルを殺し、俺の嫁を殺そうとした救いようの無い屑人間なんだぞ」
「父さん、ワタルは生きている。俺はワタルに父さんを止めるように頼まれてここに来たんだ」
「そうか…。だが、俺は此奴らを始末しないと気が済まない。此奴らは救いようが無い人間だ」
僕はそう言い放つと僕と敵対していた子供達は悲しそうな表情を見せた。
「馬鹿野郎!!」
ケイは僕の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「親が子供を見捨てるなよ!ちゃんと自分の子供と真正面から向き合えよ!!」
ケイは僕にそう言い、涙を流していた。
「………」
僕は敵である自分の子供の顔を見た。
「どうやら俺はお前達と向き合えていなかったようだな…」
僕は呟いた。
「お前達が世界を守るため頑張っているのは素晴らしい事だと思う」
「だがな…、家族よりも世界の秩序を守る方が大切だとは俺は思わない」
「俺はお前達がした事は絶対に許さない」
僕がそう言い放つと僕の子供達は悲しそうに目を伏せた。
「お前達が少しでも自分の間違いに気付いたとしたら俺の家に来い」
「俺がお前達に人生を送る上で大切な事、家族を大事にする事を教えてやる」
僕の言葉に子供達は涙を流していた。神威は何も言わず空を見ていた。
ワタルとアリアとカミラの事はケイに任せ、僕はメアの封印されている場所へと向かい辿り着いた。
眠っていたメアは風が頬に当たるのを感じ目を開けた。
「お父さん」
「目が覚めたか。良かった」
メアは僕に抱えられ空を風魔法で飛んでいた。
「お父さん、何処に行くの?」
「父さんの家に行くつもりだが、その前に行かないといけない所がある」
「行こう、母さんが封印されている所に…」
僕は移動スピードを上げ僕の妻であり、メアの母親である栞を迎えに行った。
僕は無事に栞の封印を解いた。栞、メア、ワタル、ケイの四人が僕の家に一緒に住む事になった。
一日後…。
僕は朝早くから目が覚めたのでコップにコーヒーを淹れ外に出て、大きな石の上に腰を下ろした。
「ユウイチ、おはよ」
「おはよ」
カミラがこちらに来て僕の隣に座った。
「ユウイチ、昨日は私の命を救ってくれてありがとう」
「ああ」
僕は応えた。
「ユウイチ。私を救う為に大切な力を失ったって聞いたけど本当か?」
「ああ、そうだ」
「………」
僕が答えるとカミラは黙った。
「ユウイチ、ごめんね。私の所為で…、ごめんね」
カミラは涙を流していた。
「カミラ…」
僕は手でカミラの涙を拭った。
「力っていうのは誰かを守るために存在しているんだ」
「俺はカミラを助ける為に力を失って良かったと思う。後悔はしてない」
「だからカミラ、泣かなくていい。力よりもカミラの方が大切だ」
これが僕の精一杯のフォローだった。
「ありがとね、ユウイチ」
カミラは笑顔を見せ、朝食を作る為、家の中へ入って行った。
僕がカミラに言った事は本心だ。別に顕現の力を失っても大した事では無い。
青い力はアリサから貰った特別な力だ。俺とアリサを結ぶ唯一の繋がりだったから俺はそれを失い自然と涙が溢れた。
「俺は…。俺は」
僕は色んな事が込み上げて来て涙を流した。
家の玄関から朝の鍛錬の為に僕の子供達が出てくるため子供達は扉を開けた。
子供達は僕が泣いているのを見て空気を読み、扉を閉めた。




