11話 来客
次の日、シエラと朝食を取っていたら珍しい客がきた。
「久しぶりね。ヨミ」
でっぷりとした魔女みたいな服を着た女と眼鏡を掛けた女が訪ねてきた。イザベラとリリアだ。
「まあ、どうぞ上がって」
僕がそう言うとイザベラとリリアは家に上がった。
「落ち着いて聞きなさい、ヨミ」
イザベラは紅茶を飲みながらそう言った。
「あなたの息子、レオは数日後に死ね」
イザベラは淡々とそう言った。
「どういう事だ!!」
僕は激昂し、イザベラの服を掴みそう言った。
「まあ、落ち着きなさい」
イザベラは優しく僕の手を触りそう言った。僕は自然と掴んだ手の力が緩んだ。
「私の予言はお前も知っているだろ」
「ああ」
「私は夢を見て予言をしている」
「夢?」
「そう」
「先日、夢であなたの息子がある男に殺されているところを見たわ」
僕は息を呑んだ。
「いつ、その男は来るんだ」
僕は恐る恐るイザベラに聞いた。
「いつ来るのかわからないわ」
「あなたがその男と戦ってその後で息子は殺されたわ。見るからに男はあなたを倒し、目の前で息子は死んだわ。男は去り、あなたは世界を滅ぼしたわ」
「本当かどうか怪しいな。俺が世界を本当に滅ぼすのか」
「あなたは自分で思っているより、強大な力を持っている。あなたは他の人間とは違い空気中に漂っている魔力を使うことが出来る。世界を滅ぼすなんてことは容易くできるわ」
イザベラはそう答えた。
「そうか…。どうすれば良い?」
僕はイザベラに聞いた。
「………」
イザベラは黙った。
「マザーが言いづらいなら私が言うわ」
「貴方の息子が死んでも貴方は動じなければ良いのよ」
リリアはそう言った。
「な…、何を言ってるんだ。お前」
僕はリリアが言っている事が理解できなかった。
「お前!」
「お前は息子を持ったことが無いからそんな事が言えるんだ。殺すぞ」
僕はリリアの胸ぐらを掴み怒鳴りつけた。
「ヨミ、リリアの言った事は間違いではない」
「でもね、私はあなたの息子が助かる未来を信じているんだよ」
イザベラは優しい声でそう言った。僕はそれを聞いて、リリアの胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「策はあるわ」
イザベラはそう言った。
「私が夢を見る限り、息子を殺した男はあなたを苦しめるのを喜んでいた。だからあなたを倒してから目の前で息子を殺した」
「つまりあなたが彼に負けなければいいのよ」
イザベラはそう言った。
「それはそうですが…」
リリアは簡単そうに言うイザベラにそう言った。
「男に会ったら、男の腕を切り落としなさい。そうすれば、あなたの息子を殺す事が出来なくなる。短期決戦でけりをつけなさい、ヨミ」
イザベラはそう言った。
イザベラとリリアは話を終えると、家に帰っていった。
「大丈夫ですか?ヨミ」
シエラは心配そうな顔をしそう言った。
「ああ、大丈夫だ」
僕はそう言い、シエラを抱きしめた。
(必ず殺してやる。俺の息子は殺させない)
僕はそう決意を固めるのだった。
数日後、僕は四の世界に来ていた。夜なので外は暗くなっていた。
四の世界では表側の世界と裏側の世界がある。平たいコンクリートの建物の壁に向かって歩くと壁をすり抜ける事が出来る。すり抜けると表の世界から裏の世界へ行く事が出来る。
普通なら壁にぶつかるが、そうはならない。壁は平らで無いと通れないので些か不便だ。裏側の世界には闇カジノや闇取引が横行していた。
僕はなぜかわからないが五の世界から後をつけられているような気がした。
「誰だ?僕の後をつけているのは」
僕は大声でそう言った。
「ばれてないと思ったんだがなあ。会いたかったよ、ヨミ・レッドフィールド」
男はそう言い、僕の前に出てきた。腰には剣を携えていた。
「俺の名はノマド。人類を超越した存在。十一の世界を滅ぼした破壊者。予言でお前の息子が俺より強いらしいから成人する前に息子を殺しに来た」
ノマドは両手を広げ歓迎する素振りでそう言った。
「俺もお前に会いたかった。お前を殺してやる、ノマド」
僕はノマドをじっと睨んだ。
「魔力固定」
僕はアタッシュケースを捨て僕は右手を横に向けた。右手の全指先から黒い魔力が黒い炎のように燃え、浸食するように手を覆った。
右手に黒い大剣を出現させ黒い大剣を握った。空気中に漂う魔力を集め、自分の魔力を混ぜ合わせることで大剣を作った。
「死ね」
僕は黒い大剣を持ちノマドに向かって走り出しノマドに斬りかかった。。
「随分と短気なんだな」
ノマドは僕の黒い大剣の斬撃を剣で受け止めた。
「………っ」
僕は透かさずノマドに何度も大剣を振るう。ノマドは僕の斬撃を剣で受ける。
「クソがあ…」
僕はそう言葉を漏らし、重い斬撃で相手を弾き飛ばした。
「面白い物を見せてやるよ」
ノマドはそう言うと、ノマドの背中から聞いたことの無い異音がし、そしてノマドの背中に翼が生えた。
「俺は人類を超越した存在。なあ分かるだろ、この姿をッッ」
ノマドは翼を僕に見せそう言った。
「ヨミ・レッドフィールド、殺し合おうぜ」
ノマドは意気揚々にそう言った。
「なっ…………」
僕は目にも留まらぬ早さでノマドの右頬を殴りビルまで殴り飛ばした。
「がああっ」
ノマドはビルに叩きつけられ血を吐いた。
「ヨミィィィィ、殺してやるゥゥゥ」
ノマドは叫び、こちらに翼で空を飛び向かってきた。
「………」
僕はノマドから逃げるように風魔法で体を浮かし黒い大剣を持ち、空を飛んで逃げた。
僕が逃げるとノマドは追ってくる。
僕が逃げると目の前にビルがあったのでそれをすり抜けた。ノマドも建物をすり抜けた。
僕はビルをすり抜けると、右へ曲がりそのまま真っ直ぐ後ろを向き、相手を確認しながら飛んだ。
「ヨミィィィィィィ」
ノマドは激昂し僕を追いかける。何個もビルを通り抜け、空中に飛び出した。
「逃げるのはやめだ」
僕はそう言うと黒い大剣を振り下ろした。
ノマドは受け止めるが力で押され、吹き飛ばされビルの壁にぶつかった。
「ググググ」
僕は空中に浮いたままノマドの首を掴むとノマドは血を吐きながらこちらを睨みつけていた。
僕は次の瞬間向かいのビルに向かってノマドを叩きつけた。
「があああああああああ」
僕はノマドをビルに叩きつけるとビルのガラスは割れた。そのままノマドの首を持ち、ノマドをビルにぶつけながら下に落とした。
「……くそがあ」
ノマドは僕に向けて剣を薙ぎ払った。ノマドの首から手を離した。僕はそれをよけ後ろに避けた。
「………」
ノマドは翼で上空に飛んだ。
「最初からこうすれば良かったんだ…」
「聞こえるかヨミ、この一撃でお前を殺してやる」
ノマドは上空で大声で僕にそう言った。
「俺でも抑えきれない…、この力…」
ノマドは剣にありったけの力を込めた。ノマドの周りに緑と黒の稲妻が走った。
ノマドの剣の持ち手から刀身にかけて緑と黒の稲妻が走る。ノマドの剣は緑のオーラが渦みたいに流れた。
「死ねえぇぇぇぇぇぇ」
「イル・ネア・ブラスト」
ノマドは剣を振り下ろした。緑の斬撃が下に落ちてくる。
「アブソリュート・バリア」
僕は全ての力を防御に回した。僕が作り出した大剣も無くなり、僕の魔力の一部となった。
僕を中心に円形の防御バリアを作り出した。
緑の斬撃は街を飲み込んだ。緑の渦の斬撃が街を削り取り、ここら一帯の街がなくなった。
「はあ、はあ…」
ノマドは力をすべて使ったので行きを切らしていた。
「………」
僕は下からノマドを見ていた。
「ふ、ふざけるなああ。なんだんだああ、おまえはあああ」
ノマドは僕がかすり傷もついていないのを見てそう言った。
「まあ、いい」
ノマドは空中から地上に降りた。
「仕切り直しだ、場所を変えよう」
ノマドはそう言い、翼をしまいゲートを開けた。
ノマドはそのゲートに入り、五の世界に移動した。僕もノマドが作ったゲートを通った。
僕らは五の世界の荒野にゲートを通って辿り着いた。
「お互いの手の内は見せ合った。なあ、ヨミ、決闘をしようぜ」
「単純な剣術勝負どちらが強いか。やろうじゃないか」
ノマドは意気揚々にそう言った。
「魔力固定」
僕は右手を横に向けた。右手の全指先から黒い魔力が黒い炎のように燃え、浸食するように手を覆った。
右手に黒い大剣を出現させ黒い大剣を握った。空気中に漂う魔力を集め、自分の魔力を混ぜ合わせることで大剣を作った。
「………」
静寂が僕たちを包み込んだ。
「うおおおおおおおおおおおお」
お互いに叫び、向かって行った。
お互いの剣がぶつかり、荒野に鳴り響いた。
「ヨミィィィィィィィィィィ」
ノマドは叫び、剣を振るった。
僕は何度も振るわれた剣を受け流し、ノマドに向けて剣を何度も振り下ろした。
「うおおおおおおお」
僕はノマドの剣を力で弾き飛ばし、ノマドの体勢を崩した。
(今だ)
僕はノマドに剣を振り下ろした。
「ふふっ」
ノマドはその刹那の瞬間笑ったような気がした。
ノマドを中心に円形の防御バリアを作り出した。
「ううっ」
僕はそのバリアに剣が当たり攻撃を無力化されそうになる。
「アブソリュート・バースト」
僕はそう叫んだ。魔力を黒い大剣に流すことで黒い大剣の斬撃の威力を上げた。
黒い大剣からは黒い魔力が漏れ、剣から黒い魔力が漂った。
「くそがああああああああ」
ノマドを包み込んだバリアは斬られ、ノマドの腹を上から下へ斬った。
「死んだか…」
僕はそう呟き、その場を去ろうと歩いた。
「引っかかった」
ノマドは僕を陥れた。
僕の足下に魔方陣が出現し、僕の体は地面に這いつくばらせた。
「なあ、面白い物見せてやるよ」
ノマドはせせら笑った。
ノマドは空間に小さなゲートを作りそこに手を突っ込んだ。
「これなーんだ?」
ノマドがゲートから出したのは僕の息子だった。僕の目の前に息子を見せゲラゲラと笑った。
僕は魔方陣のせいで動けず、地面に這いつくばらせた。
「二ィィ」
ノマドは息子の首を握った。
「苦しい」
息子は首を絞められ、そう言った。
「やめろ。俺を殺せぇぇぇぇぇぇ」
僕はそう叫んだ。
「やめてくれ…、頼む」
僕は涙を流し懇願した。
「苦しいよなああああああああああああ!!!」
ノマドはそう言い、この状況を楽しんでいるようだった。
「お父さんに別れの挨拶は」
ノマドは息子にそう言った。
「お父さん…」
レオは首を絞められ、声にならないような掠れた声でそう言った。ノマドはレオの首を絞め殺そうとした。
「やめてくれええええええええええええええ」
僕はそう叫んだ。僕の視界は真っ暗になった…。
「なっ」
ノマドは僕に左手で首を絞められていた。息子はノマドの手から離れ、僕の右手で息子の服を掴んでいた。
「死の欲動」
僕は人型の異形な存在になった。全身は黒くなり、黒いオーラが漂っていた。
「あはははは、悪かったよ」
「冗談だって、なあ分かるだろ」
ノマドは首を絞められ僕に弁明した。それでも僕はノマドを離さなかった。
「ぐっ、悪かったって。なあ、あああ助けて」
僕に首をもっと絞められ、その言葉を残しノマドは死んだ。僕はノマドを横に放り投げた。僕は元の姿に戻った。
「大丈夫か…、レオ…」
「うん」
僕がそう聞くとレオは答えた。僕はゲートを作り、家に戻った。




