103話 救われた
「随分と暴れてくれたな」
「神威…」
ワタルの前に一人の男が現れた。ワタルはその男を見て名を呼んだ。
「もう直ぐ、父さんがここに来る。ワタル。お前、未来を見たな」
「本当は父さんが私の生徒達をここにいる全員を殺す筈だったのに、自分の手を汚し、父さんが手を汚す未来を回避させるとは考えたな」
「………」
神威はワタルを褒めた。
「神威、お前この学校の理事長だろ。闇を痛めつけるのを何故、生徒に推奨するんだ?」
「それはな。闇はこの世に害を為す存在だからだ。闇は人間じゃない。だからどうしようと自由だ」
神威は答えた。
「お前は間違っている」
「何が間違っているんだ??」
神威は自分がさも間違っていないような態度をした。
「僕は昔、自分が何年も年を取らず世界の為に正義を執行し生きてきた」
「だがある日、疑問が湧いた。今、僕が世界の為にやっている事は無意味なんじゃないかと」
「別に僕がしなくても別の誰かがやってくれると思った。僕は虚しいこの人生に悲観し、闇落ちした」
「僕は闇落ちしたら人生は終わりだと思っていた。だけど闇は僕を包み込み、僕の心を温めてくれた」
「僕は闇にメアに心を救われたんだ」
ワタルは神威にそう言った。
「神威、お前は永劫の時を生きているから段々精神がおかしくなってこんな事を生徒にさせるんだよ」
「神威、お前も闇と対話すれば…」
「黙れ!!」
神威はワタルの言葉に怒りを露わにした。
「ふん。闇落ちした弱者の言葉を聞いても私の意思は変わらない」
神威は腕を組み、仁王立ちしていた。
「話は終わりだ。もうお前の話は聞きたくない」
「私と戦え」
神威の言葉にワタルは身を構えた。
「太陽神拳」
ワタルの拳に黄色いオーラを纏わせた。
「水流竜拳」
神威の拳に青いオーラを纏わせた。
互いに構えた。そして体術を使った戦いが始まった。
それから少しの時間が経ち、ワタルは仰向けに倒れていた。神威の圧勝だった。
「敗因はあの時、黒い太陽を無駄に使った所為だ」
「黒い太陽は俺との戦いに取っておくべきだったな」
神威はそう言い、上からワタルを見下ろしていた。
「まあ、黒い太陽を俺との戦いに使った所でお前の負けは決まっていた。後悔はしなくて良い」
神威は小馬鹿にした様子でそう言い放った。
「もう終わりにしよう」
「死ね」
神威は携えていた剣を鞘から抜き、剣をワタルの身体に刺した。ワタルの身体から血が吹き出た。
「神威」
ぞろぞろと神威の所に神威の仲間、五人が来た。
「騒がしいと思って来たら面白い事になっているじゃないか」
男勝りな性格の女がこの状況を見て言った。
「ワタル!!」
「近づくな!」
もう一人の女がワタルを見て駆け寄ろうとした。神威はそれを止めた。
「どうしてこんな事に…」
女は涙を流していた。
「ミレア、ワタルを回復させて」
「分かりました」
涙を流していた女レイラは仲間のミレアという女に頼んだ。ミレアはワタルの方へ近づいて行った。
「ミレア、ワタルは回復させなくて良い」
神威はそう告げた。
「どうして…?」
「ワタルは俺たちを裏切った。だから回復させなくていい」
神威がそう言うとミレアは後ろに下がった。
「そんな…」
レイラはこの事に信じれない様子だった。
「ワタルは私たちの仲間なのよ!」
「分かっている」
レイラは嘆いた。神威はレイラの言葉に心が動かされる事は無かった。
「もう直ぐ、父さんがここへ来る。お前達も戦う準備をしろ」
神威はそう仲間に告げた。
神威とその仲間は戦いの準備をし、父を待った。




