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54話

「シーザー様〜、何ですか?あの暑苦しい男は〜?」


 ミルキは目の前に現れた男を見るなり嫌そうな顔をして鼻を摘んだ。


 まるでその匂いがここまで漂ってきて臭いと言っているかのように。


「女?女がいるじゃないか‼︎戦場に女を連れ込むとはけしからん‼︎おい、貴様。この私が保護してやろう!こっちへ来い!」


 男はミルキを見るなり無理矢理連れて来られた女だと思ったのか大声で命令してきた。


 しかしミルキは明らかに戦闘用の服を着ていることからも誰が見てもダンケルノの騎士の1人だとわかる。


 ミルキは戦場に女がいるはずがないなどという時代錯誤甚だしい男至上主義を掲げて女を弱いと決めつける男が大嫌いであった。


‘男が強くて女は弱い。何をやっても男が優秀で女は男より下。’


 そういう連中はどこに行っても一定数いる。


 ミルキはそんな連中を悉く封殺してきた。


 物理的手段を用いて。


「何なんですか〜、行くわけないじゃないですか。どうせそっちに行ってもあんなことやこんなことされて最後にはポイってされるだけでしょう〜?クスクスクス。それに〜、私は自分の意志でここにいるんで〜、正直ありがた迷惑ってやつです〜」


 ミルキは嫌味ったらしくわざと間延びさせた声を出した。


 人間の言葉わかりますかと、猿にでも話しかけるかのように。


「私をそのような下賤な輩と同じにするとは許し難い‼︎だが、今までの境遇を思えばそう思うのも致し方あるまい。女、今の暴言を寛大にも許してやろう‼︎」


 男はあくまでもミルキは無理矢理連れてこられた女であるという考えを崩さなかった。


 そして保護してやるという上から目線も。


 それを聞いたミルキの瞳の色が一段階暗くなったように感じた。


「話通じないんですけど〜。それに〜私、上からものを言ってくる人って大っ嫌いなんですよね〜。女が下って決めつけて押し付けてくるタイプの人間って何なんですかね〜。あはは、そんな女に負けたら少しはその足りない頭でも理解できるか、な!」


 ミルキはシーザーと話していたときとは違い刺々しい声色でそう言い、その男を馬鹿にするように挑発しながらナイフを投げた。


「ふん」


 だが、男はいとも容易くそのナイフを弾いた。


 剣を抜くこともなく腕の甲でナイフの腹を殴って。


 そして何を言うでもなくミルキを睨みつけた。


「あら、防がれちゃいましたか〜?」


 ミルキも別にそれで殺せるなどとは思ってもいなかったし、むしろ防がせてよく防げましたね〜と馬鹿にするのが目的であった。


 それを体現するかのようにミルキは高らかに笑い声を上げた。


 そして口角を上げて馬鹿にするような笑みを男に対して浮かべた。


「ミルキ・・・・・・」


 だが、そんなミルキをため息を吐きながらシーザーが呼んだ。


 シーザーに呼ばれたミルキは尻尾を振った犬のように即座にシーザーの元に擦り寄っていった。


「はい!何ですか、シーザー様!」


 さっきまでの声色とは違いとても嬉しそうな声であった。


 そこには到底無理矢理連れてこられた悲惨な人物などいなかった。


「・・・・・・お前達は先に行って途中にいる兵達を殲滅しながらアーノルド様との合流を目指せ。ミルキ、あとはお前が指揮しろ」


 嬉しそうにしているミルキにシーザーは無慈悲とも言える命令を下した。


「・・・・・・え」


 それを聞いたミルキはショックで固まってしまった。


 ピキッと効果音が聞こえるくらい見事な硬直具合であった。


 しかしすぐに気を立て直しシーザーに縋りついた。


「え〜、それじゃあ私が本当にあの男に攻撃して歯が立たなかったみたいになるじゃないですか〜!酷いですよ〜!私にもやらせてください〜」


 ミルキは泣き真似までしそうな勢いで懇願した。


 あの男にギャフンと言わせたい。


 跪かせどちらが上かわからせてやりたい。


 そんな思いが滲み出ていた。


 しかしそんなミルキに対してシーザーの反応は淡白だった。


「ミルキ・・・・・・、うるさいぞ」


「う、うるさい・・・・・・?」


 ミルキはショックを受けたようにパクパクと口を開き肩を落とした。


 そしてその怒りを発散するべく男の方へ向き直った。


「お前のせいで怒られたのです。この恨みお前の命で贖ってもらうのですよ!」


 ミルキは男にビシっと指を差した。


 しかしそれでもシーザーは変わらなかった。


「・・・・・・さっさと行け」


「うえぇん!シーザー様〜が冷たい〜」


 ミルキがついに泣き真似をしチラッチラッとシーザーを見た。


 だが、それに対して返って来たのは悍ましいほどの冷たい視線だった。


「ミルキ」


 ミルキはびくりと肩を震わせ背筋を伸ばした。


 その冷たい目が‘これは命令だそれ以上は許さない’と言葉に出さずとも物語っていた。


「は、はい!了解いたしました!すぐさま行動に移します!」


 ミルキは先ほどまでのふざけた様子をなくし、ビシっと敬礼をしてすぐに他の者を率いて去っていった。


「・・・・・・追わせないのか?」


 ミルキ達が去っていくのをジッと見送っていたシーザーは首を傾げながら男に問いかけた。


「女を追うのは趣味じゃないからな!女は追わせるもんだ!それに貴様はよほどあの女が大切なようだな?殺気を向けただけで殺されるかと思ったぜ。あいつを追わせて無駄にお前に部下を殺させる気もねぇし、ここで全員でお前を倒すほうがいい選択になりそうだ!ハハハハハハハ!」


 腰に手を当て胸を張るような体勢を取っている男はここら一帯に響き渡るような大声で豪快に笑った。


「・・・・・・それがわかっているのなら逃げればいいだろうに。・・・・・・はぁ〜、めんどくさいな」


 ミルキに攻撃された後、この男は女如きに舐められたと激昂し怒気を向ける前に、シーザーから禍々しいプレッシャーが男に叩こまれていた。


 そのプレッシャーにたじろぎ冷や汗を浮かべていた男は声を出すこともできなかった。


 男達は先ほどのミルキとのやりとりの際に攻撃しなかったのではなく攻撃できなかったのだ。


 ミルキ達が去ってようやくそのプレッシャーがなくなったために喋ることができた。


 だが、シーザーの前に立ちはだかるこの男達は別に臆したわけではない。


 無視できないほどの圧力を前に警戒していたのだ。


 心は折れていないし負ける気もない。


「逃す気がない奴のセリフではあるまい。見渡す限り死体の山、山、山だ。立ち向かった者より逃げた者の方が多いだろうにその全てを殺しているな?この光景がお前達の、お前の行動を物語っているわ!よくもまぁこれだけの数を殺して心が痛まぬな、この悪魔め!一度戦場に出たにもかかわらず逃げるなど男のすることではあるまい‼︎例え個人の実力で負けていようと我らが力を合わせれば不可能はない‼︎」


 シーザー達はアーノルドの命令通りとにかく敵を殺しに殺していた。


 命乞いしようが逃げようがかまわず皆殺しにしていた。


 ほとんどの者がうつ伏せに倒れており後ろから斬られるか刺されるかして死んでいた。


「・・・・・・逃げる者を追う方が楽なんだが・・・・・・仕方ない」


 ため息を吐きながらシーザーは男を見た。


「俺の名はオウル‼︎お前を殺す男の名だ。冥土の土産に覚えておけ‼︎では、いざ尋常に‼︎」


 オウルがニカと野性味溢れる笑みを見せ大剣を構えた。


 その姿に気負いはなかった。


 そのすぐ後に一つの集合体のように寸分違わずオウルの部下達が剣を構えた。


 訓練された軍隊のようにピタリと揃っていた。


 だが、シーザーはそんな敵の様子を見てゲンナリとした。


「・・・・・・暑苦しいな・・・・・・」


 シーザーはため息を吐きながら両手に短剣を逆手にもって構えた。


 男はジャンプし重力と自身の体重を全て乗せて大きく大剣を振り下ろしてきた。


「おおおおおおおおおおりゃあああぁぁぁぁあ」


 エルフの武具を無策に受けることは出来ない。


 シーザーがそれを当然のように避けると後ろからオウルの部下の攻撃が狙いすましたかのように来たのでシーザーはしゃがみながら足払いをしてその部下の体勢を崩させ、そのまま倒れゆくその者を刺し殺そうとすると即座に他の者がそれを邪魔するようにシーザーを攻撃してきた。


 シーザーは舌打ちをし、体を反らしてその攻撃を避け、そのままそいつの顔を蹴り上げながらバク転して距離を取った。


 そしてシーザーの攻撃で体が宙に浮いている間に刺し殺そうと足に力を込めたが、それはシーザーの後ろから迫って来ていたオウルの気配を感じ取ったことで止められることとなった。


「・・・・・・ッチ!」


 シーザーは即座に体を反転させ短剣2本でオウルの剣を受け止めた。


 凄まじい攻撃の衝撃がシーザーの腕へと伝わってくるが、シーザーの表情は変わらなかった。


「ほう!おもちゃのような短剣で我が剣を受け止めるか‼︎」


「・・・・・・ッチ!」


 オウルの剣を受け止めている間シーザーの足が止まっていた。


 当然その隙を見逃す者はいない。


 オウルの部下2人がシーザーを背後から突き刺しにきた。


 オウルはそれを見て‘殺った’と思いニヤリと笑ったが、すぐにその笑みは空虚に消えた。


 オウルの部下の剣がシーザーに刺さるその瞬間シーザーの体が霧のように消え霧散した。


 部下の剣に危うくオウル自身が刺されるところであった。


「やはりそう簡単にはいかんか。お前ら気を抜くなよ‼︎格上と思って・・・・・・いや、文句なく我らより格上の相手だ!気を引き締めよ‼︎」


 オウルが指示するまでもなく部下達は陣形を整えていた。


 まるで一つの集合体。


 声を掛け合うことなく狙い澄ましたかのようにベストタイミングで攻撃が来る。


 その連携のせいで相手を殺すに殺せなかった。


(・・・・・・面倒だ。あの連携は思った以上に厄介だな・・・・・・。はぁ・・・・・・、戦いは好きじゃない・・・・・・。52対1。いつものように1人ずつ殺していくだけだ。エルフの武具っていうのが面倒だが。でも僥倖だったのは剣自体に触れても何もないってことがわかったことか・・・・・・。遅効性ならそうとも言えないが、とりあえずは大丈夫そうだ。それがわかっただけでもかなりやりやすい。受けていいならば殺れる)


 エルフの武具と戦う時の基本はまずその能力がなんなのか見極めることである。


 そして無闇矢鱈と相手の武具に触れてはいけない。


 ラインベルトの相手のように触れることで発動するような武具もあるためだ。


 物によっては戦闘中ずっと状態異常を引きずることになることもある。


 若いエルフが作ったような物ならばその実力に応じたそれなりの能力しかないが、長老クラスのエルフが作った武具は神具と呼ぶに相応しい力を持っていることもある。


 それが騎士の階級を1〜2段階上げるというエルフの武具に纏わる噂の正体である。


 今のシーザーはオウル達と数十m離れたところに普通に立っているのだがオウル達に見つかることはなかった。


 これがシーザーの持つ能力の一つ。


 自身を霧状化することで完璧に気配を断ち、誰にも見つからない暗殺者向けの能力。


 発動は任意であるが、完璧に認識されれば術が解けてしまうのと攻撃する瞬間は実体化しなければならないというデメリットがある。


 シーザーはオウル達に向けて一歩踏み出した。


 だが、残り50mといったところに差し掛かったとき強制的に術が解除された。


「・・・・・・ッ⁈」


 シーザーが驚きを露わにしていると突然目の前にオウル達が現れた。


 空間を移動してきたかのように一瞬で目の前に現れたオウル達を見てシーザーは歯噛みした。


「よう‼︎さっきぶりだ、な‼︎」


 上段からの振り下ろしを短剣で受けたシーザーは腕がミシリと鳴ったような衝撃を受けたが即座に中位魔法『土弾』を無詠唱で発動しオウルを吹き飛ばした。


 そしてシーザーは、そのままの勢いでオウルに次いで攻撃しようと近づいてきていた3人の懐に素早く入り込み首元を素早く一刺しした。


 それ以上は深く入るとその人数の多さによって囲まれそうになったため先ほどの霧状化を使いバックステップで集団の中から離脱しようとしたが、何故か能力が発動せず意図せず攻撃を受けることとなったため初めて表情に翳りを見せることとなった。


(能力が発動しない?・・・・・・っ⁈)


 技が発動しなかったため相手の攻撃をギリギリ避けることとなり、そのまま幾重にも連続して襲いかかってくる相手の攻撃をすり抜けながらなんとか脱出した。


 素早い身のこなしで集団から離脱したシーザーはさっき首に短剣を刺した3人が普通に起き上がってまた陣形を組んでいるのが目に入った。


 シーザーからスッと表情が消えた。


(ありえないな。あいつらは確かに殺したはずだ)


 ダンケルノ家の暗殺を受け持つ任務を数多くこなしているシーザーはその経験から確実にあの3人は死に至る致命傷だったと確信していた。


 だが、その3人は普通に起き上がり、よく見ると首から血すら流れていないことがわかった。


(・・・・・・なるほど。これがエルフの武具の力か。ある程度のダメージまでは無効化するとかか?・・・・・・ある一定以下の火力の攻撃は無効化とかならめんどくさいな。それに・・・・・・いきなり目の前に現れたあの能力も面倒だ。考える暇もない。まぁ、殺せないのなら殺せるまで殺すだけ。不死身の力なんてものはありえない。首を飛ばせば回復もできないだろう)


 シーザーが頭の中で考えをまとめ終わったそのとき辺りに大声が響き渡った。


「フハハハハ、効かん効か〜〜ん‼︎その程度の攻撃では我らの牙城は崩せんぞ‼︎」


『土弾』で弾き飛ばされたオウルが遠くから大声で叫んでいた。


 その体は元気そのものであり、ダメージを喰らった様子は一切なかった。


(姿が消せないのは確かに厄介だが、頭を除けば所詮は烏合の衆。予定変更、まずは頭からだ)


 シーザーは部下達よりも先にオウルに狙いを定めた。


 足に力を込め、姿を消せないかわりに気配を限りなく薄くし、一直線に駆け出して相手の陣形の中に突っ込んだ。


 オウルがいるところまでにいる部下達は全て無視し、スルスルと間を縫っていった。


 部下達がすり抜けていくシーザーを攻撃しようとするが電光石火の如く素早いシーザーの残影を斬っているだけでシーザーの速さについていけていなかった。


 そしてシーザーはオウルのところまでたどり着くと短剣を構え直した。


「うおぉ⁈」


 オウルは突然部下の間から縫って現れたシーザーにギョッとし、咄嗟にシーザーに剣を振った。


 しかし当たったように見えた攻撃はシーザーの残影を斬っただけであった。


 オウルはそのままシーザーに懐に入られ焦ったような表情を浮かべた。


「殺った」


 シーザーは殺れることを確信した。


 短剣にエーテルを込め残像が残るほど素早くオウルの首を跳ね飛ばす攻撃をした。


 オウルの首が飛ぶのを見届けたシーザーはオウルの死体に背を向けて迫りくる部下達を殺すために短剣を構え直した。


「———効かんと言ったはずだぞ?」


 だが、聞こえないはずの声がシーザーの後ろから聞こえてきた。


 シーザーは驚愕の表情を浮かべ振り返りながら咄嗟に右手を後ろに振った。


 ニッと笑みを浮かべながら大剣を振り下ろしているオウルの姿が目に入りシーザーは表情を歪ませた。


「うぐッ・・・・・・‼︎」


 手に持っていた短剣でオウルの剣を何とか受け止めたが不完全な体勢で受けたためかその衝撃に耐えきれず短剣は砕け散りシーザーはそのままの勢いでオウルに蹴り飛ばされ吹き飛んだ。


 そしてそれが予め分かっていたかのようにオウルの部下が飛んでくるシーザーに攻撃を仕掛けようとしていた。


「・・・・・・ッチ‼︎」


 このままでは攻撃が当たってしまうと思ったシーザーは吹き飛ばされている最中に空中で体勢を捻り攻撃を仕掛けられると同時に空中で回転し幾度も降り注ぐ剣の嵐を避けた。


 さらに避けるだけじゃなく相手に蹴りや短剣による攻撃まで加えて戦闘不能にしていた。


 そのまま相手の陣形から抜け切ったシーザーは息を乱しながらも一旦距離を取った。


「ッ!今のをやり過ごすか・・・・・・。なんとも優れた身体能力だな!」


 オウルはシーザーの虚を突き、仕留め切れると思っただけに悔しそうな声を上げた。


 しかし、一度決めきれなかった程度ではオウル達の士気は下がらない。


 むしろ上がっていた。


 シーザーは先ほど死にかけたとは思えないほど冷静にいまある情報を整理しだした。


(首を飛ばしたにも関わらず再生したか・・・・・・。全体に影響を及ぼす領域型の能力か・・・・・・?武具の力かそれともそういう能力を使える者がいるのか・・・・・・。だが、それほどの力が扱えるほどの強力な気配はない。となるとやはり武具による力と見ていいだろうか?だが、あの武具の数は明らかにおかしい。元々持っていたものとは考えられない。連携は普段の鍛錬でどうにかなったとしても、手に入れて日の浅い能力をこれほどの人数ですぐに使いこなせるのはおかしい・・・・・・)


 シーザーは距離を取るために徐々に後退していたのだが、ある瞬間にシーザーの能力が復活したのを感じ取った。


 時間をある程度使い霧状化を使って姿を隠し少し移動した後に少し近づくという検証を繰り返した。


 そして分かったのはある程度近づくと強制的に能力が解除されその瞬間見つかるということ。


 全員が密集しているため誰の力かはわからないがおそらくその者を中心とする半径数十mの円の中に入ると敵を認知できる能力だと推測できた、


 領域内に入った敵の能力を打ち消す力かとも思ったが、それは別の力が使えたことから霧状化の能力のデメリットである『認識されると能力の強制解除』が働いたと考えられた。


 今判明している能力でも、『領域内にいる敵を認識する能力』、死者すら復活させるほどの『超速再生能力』、対象全員を移動出来る『瞬間移動能力』。


(重要なのは武具だろうと術者だろうと変わらない。まずは再生能力を持つ者を殺さなければいくら殺そうが復活されてしまう。エルフの武具は下手したら数千年単位でももつからそれこそ半不死身に近いやもしれん。だがそれを使う供給者がいなくなれば殺せるはずだ。どいつかわからないが・・・・・・そいつがこいつらの1番の要となるなら1番安全なところに隠れるように動くようなやつだろう。・・・・・・しかしそれぞれが固有の能力を持っているとしたら厄介だな。これほど強力な力を持った神具はそうそうないはずだが・・・・・・。・・・・・・最も嫌な展開は再生能力持ちが複数いることだな。片方を殺してもすぐに蘇生されればジリ貧だ。その場合は面倒だが奥の手を使うしかないか。はぁ〜、さっさと済ませて・・・・・・)


 やることを固めたシーザーは目には見えない認知される領域の境界を跨いだ。


 案の定、霧状化が強制的に解除されシーザーを取り囲むようにオウル達が現れた。


 もはや何度も繰り返したこと。


 何の驚きもなかった。


(さて、少し動いてどいつが近づいて来ないのか見てみるか。面倒だしとりあえずこいつらに番号でもつけるか・・・・・・)


 シーザーは突然目の前からオウルたちが襲ってこようとまるで散歩でもしているかのような穏やかな様子で攻撃を捌きながら一歩一歩とゆっくり移動し、もはや攻撃してくる者のことなど見てすらいなかった。


 先ほどまでの忙しない動きが嘘のようである。


 またしてもハエを払うように無造作に腕を振りオウルの部下の攻撃を退けた。


「・・・・・・見つからないな。はぁ・・・・・・」


 攻撃されている最中であるにも関わらずシーザーは余裕そうにため息までついていた。


 先ほどまでのギリギリの戦いが嘘であるかのように。


「ちょこまかちょこまかと動きよって‼︎貴様、正々堂々と戦わんか‼︎」


 オウルは全く攻撃が当たらないシーザーに痺れを切らしたかのように叫んだ。


 そう言われたシーザーはめんどそうに振り返ると足を止め迫ってきていたオウルの部下を八つ当たりのように原型も残さぬほど一瞬で斬り裂いた。


「・・・・・・正々堂々?アホなのかお前は。戦場に正々堂々などあるはずがないだろう。正々堂々などという言葉はこの戦場という場にもっとも似つかわしくない言葉であろう。汚く殺そうが綺麗に殺そうが殺しは殺し。それに何をもって正々堂々な戦いなどと評する?お前にとって有利な状況をか?私にとって有利な状況をか?どちらにとっても公平無私な状況などありえないぞ。そこに人の欲がある限りあるのはどちらかあるいは両者の妥協があるだけだ。正々堂々というのならお前は今のこの多対一の状況をどうにかしたらどうだ?その上で更に相手に不利な状況を要求する為に用いるのが正々堂々などという言葉とは・・・・・・、クク、男らしさが聞いて呆れるな?だが、私はそんなお前が嫌いではないぞ?自らが正しいことを言っていると勘違いしている馬鹿ほど死に顔は醜く面白いからな。ククク、・・・・・・どうした?攻撃する手が止まっているぞ?」


 部下を仕留めた一撃はまさしく鬼神のような気迫であった。


 部下は既に再生されているが、いまのシーザーには簡単には近寄れないプレッシャーが放たれていた。


 そして唯一正々堂々戦えなどと言いながらも攻撃をし続けていたオウルはオウルの攻撃を避けながらも余裕そうに話しかけてくるシーザーの言葉を聞いたことでプライドを傷つけられ屈辱的だったのか肩を震わせて攻撃を止めたのだ。


「き、貴様っっっっっ——」


 だが、シーザーは激昂しようとしたオウルの言葉を遮りオウルのことを指さした。


「勘違いするなよ。今の言葉は嘲笑ではなく賞賛だ。戦いに勝つためならば手段すら選ばず非道になれる者こそ戦場では正しい。殺しを正の言葉で正当化しようとすることも人間としての道を踏み外さぬための防衛本能だ。そういう意味ではお前のその要求はけだし正しい。たとえお前の信条に反していると気づかぬ姿が滑稽であってもな?ククク」


 めんどくさそうな表情から一転。


 おもちゃを見つけた悪い子供のような笑みを浮かべていた。


 ――∇∇――


「ミルキ隊長代理、シーザー隊長を1人で残しても本当に大丈夫なのか?」


 今回シーザーの隊の1人である男が前を走るミルキにそう問いかけた。


 相手はざっと見えるだけで50人以上。


 相手がただの騎士ならば別段心配などしない。


 だが、本物かはわからないが相手はエルフの武具らしきものを身につけている50人ともなれば話が変わる。


 歴史においてその武具一つで戦局が変わったなど何度もある。


 さらに厄介なのがエルフの武具はそれぞれが異なる能力を持っているということである。


「何を心配しているのか知りませんが、エルフの武具といってもただの道具ですよ?能力を使える者と大して変わらないじゃないですか」


 実際には色々と違う点はある。


 エーテルによる能力はその個人の性質などに左右されるし、個人の実力によって能力の強さに違いがある。


 だが、エルフの武具を使ったならそんなことは関係なしに一定の効果を産み出すことが出来るため経験豊富な者でも初見では手こずることがあるし、何よりも失われたエルフの魔法が込められた武具もあるため、見慣れない効果であることが多いので初見で対処することが難しい。


「それにシーザー様は真面目なように見えてとても不真面目なんです。心配せずとも大丈夫ですよ。あんな連中その気になればものの数秒でけちょんけちょんです」


 ミルキは何かを押しつぶすようなジェスチャーをした。


 男は不真面目なのに大丈夫と言われてもと怪訝そうな顔をした。


 しかし前を向くミルキはそれに気づかない。


「あ、それとも私が隊長代理ってのが気に食わないとかですか〜?」


 ミルキは声は普段と変わらないのだがどす黒い雰囲気が滲み出ていた。


 だが、男にとってそんなことはどうでもよかった。


「ん?ああ、別にそれはどうでもいい。隊長が任せたのならそれが適任ということだろう。俺は隊長に従うだけさ。わざわざそれに逆らったりしねぇよ。まぁ何にせよ大丈夫ならいいんだ。邪魔したな」


 男はそう言うとミルキから離れていった。


 そしてミルキから離れてから男は小さな声で呟いた。


「不真面目?あの人が?」


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