1話
私の人生には何の意味もなかった。
このクソみたいな人生を何度呪ったことだろうか。
新卒で大手企業に入社し、入社1年後に大学生の頃から付き合っていた彼女と結婚し子供も産まれた。
順風満帆な生活を送っていたが、その歯車を狂わせたのはただのくだらない正義感だった。
キッカケはたまたま見つけた上司の不正だった。
曲がったことが嫌いだった自分はすぐさまその上司に注意をしにいった。
しかしその上司は悪びれる様子もなく鼻で笑い私をあしらった。
それに怒りを覚えた私は更に上司の不正を探り上層部に告発しようとした。
すると上司は不正だけではなく、会社のお金を横領等様々なことが明るみになった。
それら全てをまとめて会社の上層部に提出した。
上層部の人間は、任せろ、といい全てのデータを持っていった。
この時の私は世間知らずの馬鹿だったのだろう。
なぜ私はデータのコピーも取らずに提出したのだろうか。
この世には善人ばかりで証拠さえ提出すればあとは正義の鉄槌があの上司に本気で降ると思っていた。
しかしこの世には悪人などどこにでもいるのであった。
次の日会社に行くと社長に呼び出された。
あの上司の件に関する聴取かと思っていくと、社長の部屋に行くと言われたのは、5億もの横領金をどこにやった!という言葉であった。
何が何やらわからず動揺しているうちにどんどん話は進み最終的には、訴えてやるからな!今すぐ出ていけ!、と言われそこでやっとしどろもどろになりながら、そんなことはしていない、と弁明したが証拠は揃っていると聞く耳を持ってもらえなかった。
その場にいる上層部の人間に助けを求めるとニタニタと笑っているだけであった。
私は意味がわからずとにかく弁明したが、あとは裁判で決着をつける!と取り合ってもらえず帰宅した。
妻に訳を説明したら、妻は
「ちゃんと証拠があるなら大丈夫よ!やってもいないことを立証できるはずないわ!」
と励ましてくれた。
しかし証拠を全て渡したということは言うことが出来ず、不安で仕方なかった。
その後あれよあれよと裁判の日が来た。
結果は有罪。
当然控訴したが、決定的な証拠があるとかで棄却された。
その後は世間には犯罪者として認知され、やってもいない横領金の返却を言い渡された。
妻と子供にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないので、妻はこれからも支えると言ってくれたが、説得をして離婚した。
その後犯罪歴がついた自分を雇ってくれるところなどなくフリーターとして日雇いのバイトなどをして食いつないでいた。
それから十数年後、公園のベンチで横になっていると突然話しかけられた。
それはあの不正をしていた元上司であった。
その上司はこちらを見下すような目で当時のことを話してきた。
あの横領には上層部もグルであり、そもそも提出した相手が間違っていたのであると得意気に話していた。
社長は馬鹿で上層部のことを家族であると思い疑うことをしない。入社して数年の平社員と上層部の言葉など比べるまでもなく上層部を信じるのだと。
そしてあの5億という金は上司と上層部が横領した金であったのだと。
そして入社して数年で既に優秀であった私は目の上のたんこぶであり、融通が効かないことは目を見るより明らかであったので社長に気に入られる前に排除してしまいたかった。
そんな時にカモがネギを背負ってきたため全てのことを私に押し付ける計画を立てたのだとか。
証拠も全て自分たちが手にしているから改ざんも簡単であったのだと。
それを馬鹿にするような口調で言われた私は激昂し掴みかかった。
そして揉み合いになり突き飛ばされたのだ。
突き飛ばされたのが道路であり、そこに運悪く車が止まれない速さで来ていた。
元上司の顔を見ると真っ青な顔をしていた。
ざまぁみろと思った。
これからはお前も犯罪者だと。
そして私はこの人生で学んだのだ。
薄っぺらい正義感など力無き者には語ることも許されないのだと。
そして正義などというものは全く無価値なものであると!
この世で信じられるのは自分のみであり、自分の意見を押し通す力・地位のないものには何も出来ないのであると!!
そして私は車に轢かれて死んだのである。
次があるならば絶対に間違えないと誓って