5 聖女にしてやられるロレッタ
パーティ当日、準備が終わるのを見極めたように、ちょうど良い時間にエリオ様が我が家を訪れた。
エスコートされるまま、用意された馬車に乗り、学園へ向かう。
馬車に乗り込む時に触れた手も、ほんのわずかな時間。
向かい合って座っていながら、目も合わない。それは、エリオ様が窓の外を見て、私が俯いているから。
こんなに近くにいるのに、心の距離の遠さが辛かった。
義務のようにファーストダンスを終えると、後はずっと別々だった。
周りの者は皆、察しているだろう。
そう遠くないうちに、私は王城に呼ばれ、この婚約を解消されるかもしれない。
予想より遙かに早く、その時は来た。
来賓であった国王陛下が、突然こう言ったのだ。
「今宵、我が国の聖女殿が王子の婚約者となることを皆に伝えよう」
陛下の隣に立ったラウラ様が、自信にあふれた笑顔で礼をした。
ラウラ様は白地に金糸の入った豪華なドレスを身にまとい、裾は宝石でできたビーズが光っていた。そうそう誰にでも用意できるようなドレスではなかった。このドレスは、ラウラ様が王族の仲間入りをすることを示しているのだ。
「ロレッタ。お前は王子の婚約者であることを鼻にかけ、我が国の偉大な聖女であるラウラにことある毎に嫌がらせをし、追い詰めていた。そのせいでラウラの聖力が弱まっている。これ以上お前を王子の婚約者とすることはできない」
勝ち誇ったような顔で私に視線を送るラウラ様。
あまりに突然のことに、ただ呆然として、何が何だか判らなかった。
卒業パーティという華やかな場で、陛下が自らそのような発言をされたことに驚いた。そのような方ではなかったのに。
いつもの陛下なら、例え婚約を解消することになったとしても、こんな公衆の面前ではなく、王城のどこかで話をし、その後の段取りまでお考えくださったに違いないのに…。
それほどまでに、聖女が力をなくすことは重大なことなのだ。
聖女は何よりも優先され,その力は守られなければいけない。
私は従うしかなかった。
「申し開きがあれば、今なら許す」
全く心当たりがない。でも、もうどうしようもないのだ。
今まで、憧れのエリオ様と一緒にいられただけで、十分幸せなのだろう。
私は、かつての私も、今の私も、こうして卒業パーティの場で言われない罪をかぶり、身を滅ぼすのが運命なのだ。
だけど、一言だけ…
「聖女とは真実を語る者です。甘んじて、受け入れましょう。それが真実であるならば」
ラウラ様の目が一瞬、泳いだ。
しかし、すぐに自らの勝利を確信し、片方の口角を歪めて笑うと、近くにいたエリオ様の腕に絡みつくように腕を回した。その腕を掴めるのは、もう、私ではない。
「聖女である私を貶めた罰として、西の森の奥の修道院に行ってもらうわ」
ラウラ様がそう言った。西の森。この後、魔物が出る場所だ。
どうしてラウラ様がそんなことを決められるのかは、判らない。
何も知らない人たちが、当然だと小声でつぶやく。
仲のよかったお友達が、あり得ない、と青ざめた顔で震えているけれど、王を前にして言葉を発せられる人はいなかった。
私の味方などしなくていい。皆この王国の貴族なのだ。家を守るためには、罪人と認定された人に関わることは賢明ではないのだから。
かつては聖女だから、とそこへ向かわされ、今度は罰だからと、向かわされる。
どう生きても、私はここで死ぬしかないらしい。
私はエリオ様に、そして陛下に、特上の微笑みを見せた。決して承知しました、とは答えず、
「…、お騒がせして、申し訳ありませんでした。ごきげんよう」
と告げて、その場を去った。




