4 聖女と相容れないロレッタ
ある日、仲の良いお友達の一人、フェデリカ様が、婚約者がラウラ様に心酔し、婚約を解消されてしまうのではないか、と心配されていた。
余計なことと思いながらも、ラウラ様の周りにいらっしゃる皆様に、もう少しご自身の親しい方のことをお考えになって欲しい、とお声をかけた。
フェデリカ様の婚約者であるジュスティーノ様は、初めは怪訝な顔をされていたけれど、次第にお話を聞いてくださるようになり、フェデリカ様とももう一度お話をしていただけるようになった。
きっとお二人は元のように仲良くなれる。少し安心したのだけど、それ以来、ラウラ様の様子が変わってしまった。
ラウラ様は、他の方々がいなくなると、突然私を睨み付け、
「ロレッタ様は、私の周りに素敵な方がたくさんいるから、僻んでらっしゃるんだわ。あんなに素敵な婚約者の方がいらっしゃるのに、他の方にも自分の方を向いてもらいたいだなんて」
どうしてそんな解釈ができるのか、全く判らなかった。
そして人の気配を感じると、突然泣き出し、
「ひどいです、ロレッタ様。あんまりだわ」
と叫んで、どこかに行ってしまった。
さっきまであんなに強気で話していたのに。意味が判らない。
戸惑う私をよそに、心当たりのない噂が流れ、フェデリカ様をはじめとした仲のよい方々がとても心配してくださった。
ラウラ様の祈りを邪魔して、水をかけた? いいえ。そんなことしてません。
ラウラ様の荷物がなくなったのは、私が隠したから?? 人様の荷物になんて、触れません。
ラウラ様の遅刻は私が閉じ込めたから??? 閉じ込めるところなんて、学園にはありません。
お友達と教室でお話をしている最中でさえ、たった今、私がラウラ様を突き飛ばしたという噂が流され、膝に怪我をしたラウラ様が皆様に支えられて歩いて行く。それを結構な人が信じてしまっていた。
ラウラ様と距離を取っても、どうにも収まりそうになく、戸惑うばかり。
悪評はやがて王家の方の耳にも届いてしまい、
「あなたらしくもないわ」
と、王妃様からたしなめられてしまった。
「ですが、全く心当たりがないのです」
「そう思わせられていることが、問題なのよ。これくらいの悪評、自身の力で跳ね返せるようでなければ、とても王妃は務まらないわ」
そのお言葉から、私が何かをしたと疑われている訳ではないことは判った。
だけど、どうすれば良いのか判らず、しばらく学校をお休みして、事態が収まるのを待つことにした。
二週間ほど私がお休みしている間に、ラウラ様の興味は他に移っていた。
よりにもよって、エリオ様がラウラ様のそばにいて、にこやかに微笑みかけていらっしゃったのだ。
フェデリカ様の抱えていた不安は、こんな感じだったのだろう。
王子殿下であるエリオ様を諫められる方も、ラウラ様の標的になりたがる者も、ここにはいない。
エリオ様が遠くに感じた。
聖女であるラウラ様は、学園を卒業すると王城の中にある聖堂にも出入りするようになる。
聖女の祈りは、国にとって重要なもの。
聖女はこの国に欠くことができない存在。
聖女を前にして、一侯爵令嬢に何ができるだろう。
エリオ様を信じたかった。いつものように笑って、傍にいて欲しかった。
だけど私には、その思いを口にする勇気はなかった。
エリオ様とお会いできる日が少なくなっていった。
二ヶ月後の卒業を前に、エリオ様に聞いてみた。
「卒業パーティでは、…エスコートしていただけますか?」
それは、婚約者であれば当たり前のことだった。
だけど、エリオ様はすぐには答えられなかった。
私は答えられないことこそが答えだと知った。
数日後、私はパーティを欠席するので、エスコートは不要になりました、とエリオ様にお詫びのお手紙を書いた。
手紙を書いた二週間後、何故かエリオ様からドレスが送られてきた。
どうしても行かなければいけないらしい…。
それは、エリオ様の立場からすれば、仕方のないことかもしれない。
お父様もお母様も心配し、不敬になろうとも欠席していい、と言ってくださった。
でも、お父様やお母様にご迷惑をおかけする訳にはいかない。王族からのお誘いを侯爵家が断ることなどできるはずもない。
私は心を決め、パーティに出席することにした。




