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1 聖女もどきラウラ

 ガバっと起き上がると、辺りは暗闇。まだ真夜中だった。

 自分の部屋、暖かい布団。

 嫌な汗が額ににじむ。荒れた息が沈まっていくのを待ちながら、今見ていた夢を振り返る。夢…? …記憶??


 今の私じゃない、別の記憶。


 私は一度死んでいる。

 私は、聖女候補の一庶民だった。

 フィオリ暦1011年11月11日。聖堂で両親と一緒にお祈りをしていたら、その日偶然聖堂に来ていた大司祭様に

「あなたは聖女候補だ」

と言われた。

 たったそれだけのことで、両親から引き離され、王都の大聖堂で暮らすことになり、聖女としての教育を受け、毎日女神様へ祈りながら暮らすことになった。


 どうして自分が聖女候補なのか判らなかった。判らないほどに、何をしても何も起きなかった。雨乞いも、水源探知も、流行病や怪我の治癒も。聖女として認められるようなものが何もない私を、誰もが偽聖女だと思っていた。


 時々、怪我や病気をした人々の家に連れて行かれた。訪問する家は大金持ちか貴族。

 どんなに祈っても死ぬ運命の人を生き長らえさせることなんてできなかった。

 つないだ手の先の人が永遠の眠りにつく時、安らかだったことがせめてもの救いだった。「聖女候補」の名前だけに安らぎを得ていたとしても。


 故郷を離れて二年目、故郷に魔物が出て私の両親は死んだ、と伝えられた。

 家に帰ることが許され、目に映ったのは壊れた街、もう息をしていない父と母。

 声を上げて泣くことを、「聖女なのにはしたない」と言われた。

 それでも涙を、声を止めることはできなかった。


 13歳の時、王立学園に入ることになった。聖女が王城で祈りを捧げ、王家に仕えるための教育の一環、と言われた。

 聖堂内に閉じ込められることもなく、同じ年の人たちと一緒に学べるのはきっと楽しいだろう、そう思っていた。だけど、突然貴族の中に紛れ込んだみすぼらしい庶民の娘は、決して歓迎される存在ではなかった。

 陰で行われる嫌がらせ。遠巻きにされ、仲良く話せる人もない。時々大聖堂に呼び出され、授業を休むのもずる休みと思われていた。どんなに皆の平和を祈っていても。


 そんな中、誰かのいたずらでつまずいて転んだ時、私を助けてくれたのは、この国の王子、エリオ様。クラスは違うけれど、同じ学年だった。

 それ以後も物をなくして困っていたり、花壇のお世話をしていると、そっとお声をかけてくださり、少しお話しすることもあった。

 優しくされて、ただ嬉しかった。

 きっと聖女候補だから気にかけてくれたんだろう。…聖女ではなかったけれど。

 エリオ様には幼い頃から婚約者がいる。だから、倒れた私を引き起こしてくれたあの時以外、触れることもなかった。時々声をかけてもらえることはあっても、自分から声をかけられる身分でもなく、ただ見つめるだけ。それだけでも幸せな、憧れの人だった。

 誰もに優しく、人望があり、少し低めの優しい声は人を労り、励まし、時には諫めることもあったけれど、荒々しさを持たなかった。誰もがエリオ様の言葉なら、耳を傾けたくなるだろう。そんなエリオ様を遠くから見守るのが、私の学園での唯一の楽しみになった。


 聖女として何の力も出せなかった私は、17歳で聖女候補から外されることになった。王立学園を卒業と同時に、生まれ育った街に戻る事が決まった。

 もう父も母もいないけれど、自分の分に合わない生活もこれで終わる。むしろほっとしていた。

 卒業パーティは欠席するつもりだった。それなのに突然呼び出されると、何故かドレスが用意されていて、ぶかぶかなドレスを無理矢理着せられ、髪も整えきらないうちにパーティ会場に連れ出された。そしてそこで、婚約者に色目を使った悪女として、エリオ様の婚約者、ロレッタ様に大勢の前で罵倒された。

 ロレッタ様の取り巻きの男達に腕を押さえつけられ、逃げることも許されなかった。

 何の奇蹟も起こせない聖女もどきと罵りながら、

「聖女なんですもの。罪滅ぼしに西の森の魔物退治に行くといいわ」

 ロレッタ様のその一言で私は魔物のいる西の森に行かされることになった。誰も止めてくれる人はいなかった。エリオ様でさえ、ロレッタ様の隣でそっと目をそらしただけだった。


 腕を捕まれたまま、玄関に横付けされた侯爵家の馬車に乗せられ、一人西の森に送られた。閉まる馬車の扉…。

 そこから先は覚えていない。

 多分、死んだのだ。


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